急襲
その夜、その荒れ地は、濃い霧に覆われていた。
レジスタンス勢力が挑発行動を行っている――そんな情報を得た国王軍は、直ちに粛清のため一個小隊を派遣したのだ。
歩兵の人数、約三十人。装甲車二台、そして超兵器『クズリ』を同伴させている。
しかし彼等の持つレーダーは、存在するはずのレジスタンス勢力を捉えることができないでいた。
「くっ……この霧、やはり噂の『幻惑魔法使用者』の能力か……十メル先も見通せない……」
新卒兵が嘆く。
「……なあに、この装甲車の中に潜んでいれば問題無い。奴等の攻撃力では、こいつを突破することはできないさ。それに、こっちには『クズリ』もいるんだ、万一襲ってきたとしても返り討ちにしてやる……いや、みすみす逃すことを考えれば、むしろ襲ってきてくれた方が助かるんだがな……」
ベテランの兵士が、ニヤリと笑みを浮かべながらそう励ました。
と、次の瞬間。
「……て、敵襲! 突如空中に、人影が出現しましたっ!」
「空中にっ!? バカな!」
見張り兵の言葉に、ベテラン兵は目を見開いた。
「噂の化け物だ……う、撃てぇ、撃ち落とせぇ!」
部隊の准尉が、慌てて指示を出す。
それに従い、一斉に構えられた銃口が火を噴いた。
「……は、早い! 目標、空中を不規則に高速移動、当たりませんっ!」
新卒兵達は泣き言を漏らす。
そして次の瞬間、防弾ベストと強化ヘルメットを身につけたその人影の前方に、巨大な火の玉が出現した。
「まずい、例の未確認兵器だ……皆、衝撃に備えよっ!」
准尉が顔色を変えて指示を出す……しかし、その攻撃は兵士達の乗る装甲車ではなく、両手に三つ指の超兵器『クズリ』を直撃した。
轟音と共に湧き起こる炎、黒煙。
そのあまりの衝撃に、一瞬、超兵器といえども破壊されてしまったのではないか、と兵士達は胆を冷やしたが、『クズリ』は横倒しになってはいたものの、その両目の赤い不気味な光は健在で、ゆっくりと起き上がろうとしていた。
全員が、さすがの耐久性、と安堵していたところ……。
「も、もう一体出現しました! 九時の方向から、走ってこちらに突っ込んできます!」
と更なる声が上がり、全員ぎょっとして指摘された方向を見る。
空中に留まる人影同様、その者も防弾ベストと強化ヘルメットを身に着けており、躊躇無く突撃してくる。
「ええい、撃て、撃てぇー!」
准尉がまた大声を上げ、今度は地上の影に向かって一斉射撃が行われた。
「……ダメです、止りません! 当たっていないようです!」
「ば……ばかな……」
准尉は顔色を失っていた。
そして疾走してきたその人物は、一メルほどの直線的な、水色に光る何かを右手側に出現させた。
「な、なんだ、何をするつもりだ……」
兵士達があっけにとられていると、その人影はまだ十分に起き上がり切れていない『クズリ』に接近し、その胴体に光る棒を突き立てた。
「!?」
一、二秒後、人影がゆっくりと光る棒を抜き取ると、バチバチという音と共にその部分がスパークしており、そして『クズリ』は動きを止めていた。
さらにその人影が水色に光る棒を、斜めに傾いた『クズリ』の首の部分に押し当て、ゆっくりと横にスライドさせると、白く輝く火の粉を無き散らしながらその部分にめり込んでいき、やがて突き抜けると、ポトン、と頭が地面に転がり落ちた。
それを見届けた人影は、上空の影の方を見て、互いに頷き合うと、またそれぞれ高速移動と疾走を開始、あっけにとられる一個小隊の兵士達の視界から、濃い霧の中ヘと消えた。
その数秒後。
胴体を貫かれ、首を落とされた超兵器『クズリ』は、盛大に火花を撒き散らした後に爆発、大破した。
「……な、なんということだ……貴重な古代超兵器が一台……簡単に破壊されてしまった……」
准尉は怒り狂う国王を想像し、目の前が真っ暗になってしまったのだった。
――戦闘の様子は、まさにその国王、エクト・ノルダムテリアがリアルタイムで観察していた。
しかし彼は、怒るどころか
「ククッ……すばらしい……計画通りではないか……」
と言葉を漏らし、恍惚の表情を浮かべていたのだった――。