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銃と魔法と結界と

 タクヤ、ユナ、そして通訳をつとめるシスターのケイトが結婚相談所にて奮闘している間、ウィン、ミリア、クラーラ、そしてレジスタンスメンバーのカリム、グラド、キルークは、新たな戦力がどれほどのものか、早速調査に取りかかっていた。


 その試験場所は、どの町からも八十キロ以上離れた荒野だった。

 ここはほとんど雨が降らない褐色の大地で、岩山と砂地、わずかばかりの樹木しか存在しない。


 ここまでの移動は、クラーラの転移魔方陣によるものだ。

 この戦闘訓練場所で、ミリアの空中浮遊、さらには爆撃魔法を目の当たりにしたレジスタンスメンバーは、腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「なんて破壊力だ……手榴弾どころじゃない、大砲並じゃないか……」


 神経が図太そうな大男であるグラドでさえも、驚愕の言葉しか出なかった。


「彼女の場合、それだけじゃない。ちょっと見てて」


 ウィンはそう言うと、空中に浮遊するミリアに向かって、こぶし大の光弾魔法を放った。


「ウィラード、何を……」


 威力が弱そうとはいえ、まだ子供に見えるミリアに攻撃魔法を放った彼を咎めようとしたクラーラだったが、次の瞬間、また目を大きく見開いた。


「……高速……いえ、瞬間移動……」


「そう。彼女は意識せず、迫り来る攻撃を自動的に(かわ)すことが出来るんだ。そしてまた次の攻撃を繰り出す……そのように創り出されたんだ」


「……創り出されたって……」


 そこまで言って、ウィンの真剣な、悲しげな表情を見たクラーラは、普段無表情なミリアの、おそらく凄惨であったであろう過去を悟った。


「……『魔神の魔核が移植されている』っていうのは、本当みたいね。本人がそれを隠していないし、別に嫌がってもいないのなら、私達としては本当に貴重な戦力だし、歓迎するわ。……でも、その自動回避能力、この世界、『ジアース』で通用するかしら? 最も一般的に使われている武器、『銃』の弾丸速度は音速を超えるわ。これが普及して以降、弓は廃れ、剣で戦う事もほとんど無くなったの」


 クラーラはそう言うと、すぐ側に待機していた参謀役のカリムに目で合図した。

 彼は小さく頷くと、五十メルほど離れた枯れ木に向かって銃口を向け、引き金を引いた。

 その乾いた大きな破裂音に、今度はウィンが驚いた。


「……今、弾丸が発射されてあの木に穴を開けたわ。放たれた鉛弾、見えた?」


「……いや、見えなかった。本当に目にも止らぬ速度、だね……ミリア、今の自動で躱せるか?」


「……試してみないとわからない」


 彼女も、絶対に躱せるという自信はないようだ。


「試して、失敗すると致命傷になるから止めた方がいいわね……」


「こんな兵器に対して、君たちはどうやって対策を取っているんだ?」


 ウィンの至極もっともな質問に対して、クラーラは首を横に振った。


「根本的な解決はできないわ。一応、金属ヘルメットとか、防護服に金属プレートを入れたりしているけど、弾丸の貫通力は強力なの。まともに当たれば鉄板も貫かれてしまうわ……だから、私ができるのは、姿を隠して撃たれないようにすること。見つかる前に倒す、これが定石よ」


 それは、彼女が元々住んでいた世界、『ファイタルシス』でも基本的な戦術だった。

 クラーラは幻惑魔法使用者ジャマーなので、特にそのような作戦は得意だ。

 しかし、一回でも見つかれば、あるいは、一回でも不意打ちされれば、この世界では即、命を落とすことになりかねない。


「射程距離も長いんだよね……」


「そうね。狙撃銃なら、二千メル離れていても致命傷を負うわ」


 そこでまたウィンは考え込んでしまった。


「……その一撃さえ回避できれば、強力な防御壁を作ればなんとかなりそうなんだ。ただ、ものすごく魔力量を消費するから、常時展開するわけにはいかない」


「なるほどね。確かに、私も撃たれたことを感知するだけなら、そういう魔道具を作ったから利用できるんだけどね……」


 クラーラのその一言に、ウィンは反応した。


「撃たれたことを感知? それは音で?」


「ううん、そうじゃないの。高速で迫る物体があれば、振動して教えてくれるわ。でも、それだと間に合わなくて、せいぜい次の攻撃を予測して、伏せたり、隠匿ハインディングを強化したりするだけなの」


 彼女はそう言って、身につけていたブレスレットを外し、ウィンに見せた。


「……こんな小さなプレートによくこんな魔方陣を書いたね……これは、銀?」


「そう。『ジアース』では、『ファイタルシス』よりも比較的簡単に銀が手に入るわ。まあ、貴金属には変わりないけど……これだったら、触媒として最適だし、ほんの少しだけど魔力を込める事ができるし」


 それを見たウィンは、目を輝かせた。


「……この魔方陣の反応性は?」


「反応自体は、即座よ。弾丸が届く前に振動を開始するわ。でも、人の回避反応が間に合わないけど」


「だったら、これを起点にして、もう一つ魔方陣を起動させればいいんだ……ただ、相当魔力が必要だけど……うん、やってみよう。僕は魔力付与はあまり得意じゃないけど、君と一緒ならできるかもしれない!」


 ウィンは目を輝かせながらそう言った。


  彼とクラーラは、それから夢中で共同研究を進めた。


  弾丸には、次のような性質があると明らかになっていく。


 ・鉛玉は、貫通力こそ鋭いが、実はエネルギー自体は小さいこと。

 ・水中に入ると、ほんの五十センチでその貫通力を失うこと。

 ・物体に当たる角度によっては、簡単に進行方向を変えられること。

 ・弾丸を弾く『結界』自体はほんの0.1秒存在すれば有効であること。

  

 二人は、一緒にその研究・開発作業を、寝食を共にしながら進められることに、大きな喜びを感じていた。  


 ――一週間後。


 前回と同じメンバー、同じ場所で、ある実験が行われた。


 今回は、等身大の人形を用意していた。

 大岩に立てかけられたそれの腕には、やや大きめのブレスレットが装着されている。


「……よし、じゃあ、撃ってみて」


 ウィンのその一言に、カリムが銃の引き金を引いた。

 荒野に、乾いた破裂音が響き渡る。

 そしてミリアを除く全員から、


「おお……!」


 という感嘆の声が漏れた。

 弾痕は、人形の背後の岩、頭上2メルほどのあたりに出現していたのだ。


「成功だ……クラーラの魔方陣が弾丸の接近を感知し、僕の魔方陣により斜め上方を向いた結界を出現させ、弾いた……これで一発目も対応できる!」


「凄い……さすがウィン、天才ね……でも、これってどのぐらい耐久力があるの?」


「僕等『ファイタルシス』の人間なら自分達の魔力を使えるから、例えば僕やクラーラなら何十発でも持つけど、この世界の人達は魔石に蓄えた分しか持たない。高品質の魔石を持ち込んでいたけど、それでも結構魔力を食うから、持って五発ぐらいだ」


「……五発、か。けど、今まで一発でアウトだったんだ、それでも十分、心強い」


 グラドが、満足げに頷いた。


「僕もこれで偵察に行きやすくなったよ。足が速いだけが特技だけど、さすがに弾丸よりは遅いからね」


 そういっておどけながらも喜んだのは、レジスタンスで一番若いキルークだった。


「いや、でもこの結界は万能じゃない。あまりに接近した状態……たとえば、拳銃で至近距離から撃たれたならば役に立たない。それに、高速で飛んで来る物体を逸らすだけだから、それほど丈夫じゃない。大砲の爆発なんかだと、巻き込まれたら防ぎ切れないよ」


「……それでも十分だ。ミリアの攻撃力も含め、これで戦術の幅が大きく広がった。それに、昨日ユナに見せたあの武器……あれが使い物になるのなら、ひょっとしたら、『超兵器』討伐も夢ではないかもしれない」


 参謀役のカリムは、対超兵器、通称『光輝の剣』を手にした魔導剣士の姿を思い出しながら、ニヤリ、と笑みを浮かべたのだった。


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