交渉
教会の会議室で自己紹介が済んだ俺たちは、今後の方針を話し合った。
ウィンは、クラーラに会うためにこの世界に来ており、できれば連れて帰りたいと言っていたが、彼女は少なくとも今のレジスタンス活動が実を結ぶまではそれはできない、と拒否した。
実を結ぶ、とはどういうことかと尋ねると、
「現国王エクト・ノルダムテリアの暗殺と現体制の崩壊」
という、結構怖い答えが返ってきた。
「今の国王になるまでは、この国の体制はそこまで厳しいものではなかったの。でも、彼がトップに君臨してからは、徴兵制度を厳しくし、農耕に十分な動員が出来ない状態。さらに、彼は『超兵器』の新たなる発見にも躍起になっているわ。今の行動半径が制限されている個体以外に、自由に引き連れる超兵器を発掘することができれば、他国を侵略することができるって……そしてその方針に反発する集団が現れた場合、超兵器を容赦なく差し向ける……自国民に対してよ。そんなことが許されると思う?」
クラーラが、怒りに満ちた表情でそう言った。
「……なるほど、そういう事情で超兵器とも戦っているのか」
俺は、なだめるようにちょっと穏やかな口調で応えた。
「……まあ、実際に超兵器を破壊出来たことはあまり無くて、ほとんど追われている人を逃がす程度なんだけどね……たまたま私が幻惑魔法使用者だったっていうことも役には立っているけど、現状の打開には程遠い状況……」
「……分かったよ。僕も協力する。一緒にノルドーム国民のために戦おう!」
そう決断の言葉を発したのは、ウィンだった。
「ちょ……ちょっと待った! 現状が大変なのは分かったけれど、俺とウィンとの契約は、クラーラと会わせるまでだったはずだ。俺とユナ、ミリアは、元の世界に帰らないといけない!」
俺は慌ててそう反論した。
「……まあ、それはそうだね……けど、どのみち半年後の皆既月食まで帰ることができないんだろう?」
「その通りだが、そもそも俺は、戦いは嫌いなんだ……ここの国民の生活が大変なのは分かったけど、国王の暗殺だなんて、そんな大それた事には協力できない。ユナもミリアも、そうだろう?」
「……そうね。私も、人相手に戦いたくはないわね……一度、酷い目にあっているし。でも、超兵器が相手なら協力してもいいかも……だって、元の世界に帰ろうにも、例の岩戸、超兵器に警備されることになるんでしょう? 倒す術を身につけておかないといけないし……昨日もそういう話だったでしょう?」
ユナの、その若干戦闘的な言葉に、ミリアも頷いて同意する。
この二人……超兵器と戦って、倒したいって思っているんだ……。
「……わかったよ。『超兵器』を倒す手段を確立する、っていうことについては協力するよ。俺に出来る事は少ないけど……ただ、逆に半年後に元の世界に帰ることにも、協力してほしい」
俺がそう口にすると、サブリーダーのグラドが、ニヤリと笑みを浮かべた。
「……交渉、成立だな……半年は全員、『超兵器』討伐に協力してもらおう。国王の暗殺や体制の転覆は、元々その手段すら浮かばない、単なる我々の妄想だった。さすがにそこまでは無理強いできねえしな……みんなそれでいいな?」
彼が他のメンバーに同意を求めると、皆、一様に頷いた……ただ一人、クラーラを除いて。
「ちょっとまって……もう一つ、お願いしたいことがあるわ」
俺は嫌な予感がして、彼女の方向を見つめた。
「……実は最近、教会に対する寄付金が激減しているの……今までは、私がこっそり癒しの魔法で怪我や病気の痛みを取ったり、治癒や解毒効果のある薬を『聖水』として売ったりして、そういう方面でもお金儲けしてたんだけど、最近の景気の悪さでそれだけじゃあまかなえなくなってきているわ……やっぱり、富裕層からの寄付金の割合が大きかったから」
「……だったら、僕も治癒魔法で貢献するよ」
ウィンは、クラーラに全面協力の姿勢だ……まあ、恋人なんだから仕方無いか。
「ううん、あまり派手な回復魔法を使うと、大変な事になるわ。そもそも、ジアースでは王族しか魔法が使えないはずなんだから……まあ、大金持ちで、どうしてもウィラードの魔法でしか治せない人がいれば、契約魔法つかって口止めした上で、治療してあげるのは良いかもしれないけど、なかなかそんな都合良く行かないと思うの」
「……だったら、どうするつもりなんだ?」
グラドが、じれたように問いただした。
「タクヤに協力をお願いしたいの。さっき言ったでしょう? 彼は理想の結婚相手を見つけ出し、そして導いていく能力の持ち主なの……私も信じられなかったけど、その……現に、こうしてウィラードを、異世界の壁を越えて、私のところに連れてきてくれたから……」
最後は恥ずかしながら、照れたようにそう言った。
「そ……そうなのか? それは良かったな……」
「……これは意外な話ですね……クラーラにそんな相手がいたとは……」
「あ、あの……お二人は、そういう仲だったのですね……」
周りを見ると、グラドもカリムもケイトも、まるで自分達のことのように、少し照れていた……ただ遅れてきたキルークだけはポカンとしていたが。
「……それでね、彼には教会での『縁結び』を担当してもらいたいの……富裕層が対象だから、そこそこ高額でも理想の結婚相手が分かるとなれば、お客は付くと思うわ」
「……素敵っ!」
クラーラの言葉に即座に反応したのは、ユナだった。
「それ、とってもいい案です。タクは元々、結婚相談所を開いていたんです。私が助手で……大人気だったんですよ!」
キラキラと目を輝かせ、自慢げにそう語っていた……こいつ、他人の恋愛にものすごい興味を示すんだったな……。
「……まあ、そういう話だったら俺も協力は出来ると思う。っていうか、それぐらいしか協力出来ない。そもそも、『超兵器』相手の戦闘では、俺は役に立たないだろうし……」
「ありがとう……じゃあ、さっそくそっちの方面の計画を練りましょう! 恋愛と結婚を司る神、イザミナの祝福があらんことを!」
クラーラが祈りのポーズっぽいのを決めると、他のメンバーも同じようにして祈っていた。
うん、まあ……俺も役に立てるようで良かったよ……。
そして早速その日から、俺の『究極縁結能力』はフル稼働することになったのだった。