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ノルドーム国王

 遅れてきたその青年は、俺たちの様子が変わったことにきょとんとしていた。


 少女ハルが、最高に幸せになれる結婚相手――。

 しかし、ここは元の世界と次元を平行している、別世界だ。


 彼等が『ファイタルシス』と呼ぶ、我々にとっての元の世界に連れて行くだけでも大きなリスクを伴うし、何より、彼の人となりも全く把握出来ていない。

 ここは余計な事は話さず、


「以前ファイタルシスで見かけた人に似ていたので、驚いた」


 ぐらいに留めておいた。


 実際のところ、ハルの最良の結婚相手を占ったときにイメージとして映像を見ていたので、全くのウソではない。


 依然として、彼等の俺たちに対していぶかしげな視線は消えていないが、契約魔法を使っていることもあって裏切れないと分かっているので、それほど突っ込まれることはなかった。


 その青年は『キルーク』という名で、レジスタンスの中では最も若いが、足が速く、身も軽く、行動力もあり、何かと重宝されているのだという。


 そんな彼が、今のレジスタンスの活動内容を教えてくれた。

 少し大きめのカードを提示されたのだが、そこに描かれていた詳細な絵に驚いた。


「これは……俺たちに攻撃を仕掛けてきた魔獣(キカイ)!」


 頭部には二つの目のような穴があり、さタコの口のような突起状の筒がある。

 細い首があって、その下にやや大きな筒状の胴体がほぼ垂直に伸びている。

 三本指の腕が二本、そして足元は車輪のような物が左右三つずつ縦に並び、それをベルトのような物が覆いこんでいる。


 俺たちが、ものすごく綺麗な絵だと驚いているのを見て、彼等はなぜか笑っていた。


「なるほど……ファイタルシスの文化が違うっていうのがよく分かった。これは『写真』というもので……鏡なんかには像が映るだろう? あれをそのまま紙に留める機械がある。その行為を『撮影』っていうのだが、キルークはそれも得意だ」


 冷静なレジスタンスサブリーダーのカリムが話す。


「こいつは一番戦闘力が低いのだが、それでも、普通の戦闘員じゃあまるで相手にならない。大砲の弾を直撃させるか、大火力の罠に嵌めるか……あるいは、同じ『超兵器』を使うか、だ」


「……超兵器を使う? ということは……ひょっとしてレジスタンス側も、それを持っている?」


 大柄なグラドの言葉に、俺は即座に反応した。


「そういうことだ……察しがいいな。ただし、あんな勝手に動く化け物じゃねえ。自分達で操作する武器って事だ。数量も少ないし、使いこなせていないものもあるけどな」


「……そんなもの、どうやって入手したの?」


 ユナが、俺と同じ疑問をぶつけた。


「発掘したのさ。クラーラが探知魔法を使って、エネルギー反応? とかってヤツを感知してくれたんだ。まあ、あんまり『テリトリー』に深入りしたくはないから、掘り起こすのはたいへんだったんだけどな」


「……テリトリーって、なんだ?」


 次々と意味が分からない単語が出て来て、混乱する。

 グラドは面倒くさそうな顔になって、キルークに助けを求めた。

 すると彼は、一度頷いて、部屋の隅の箱から大きな地図を持ってきて、会議机の上に広げた。

 やや縦長の、島のような形をしている。


「これが僕たちの国、ノルドームだ。見ての通り島国で、北側は細い海峡を隔てて大陸に接している。その中でも、今僕たちが住んでいるのは、この南端のあたり。二つの半島が向かい合っている。クラーラの話しによると、君たちがゲートを通ってきたのは、中央東部のこのあたりとなる。」


 そう言って、地図のやや右上方を指差した。


「ちなみに、距離は約300キロほど離れている。クラーラの魔方陣の移動距離ギリギリっていうところだよ。でも、奴等はそんな距離一瞬で移動できるなんて知らないけど……話がそれたね。それで、この国の中央部に王都が存在している。『超兵器』たちは、その中央部から、大体150キロぐらいしか行動できないんだ。中央からエネルギー波? が届かないっていう理由らしいけど……まあ、詳しいことは僕等もよく分かっていない。だから、僕等が住んでいるあたりは、少なくとも超兵器に襲われる心配もないんだ……今のところ、だけどね……」


「……今のところって、どういうことだ?」


 キルークの最後の方の説明が引っかかった俺は、質問を投げかけた。


「今の国王が、新しい『超科学文明』の基地発掘に躍起になっているんだ。地図を見てもらえれば分かるように、今のままじゃあ超兵器達の行動範囲が狭くて、大陸に攻め込んでいくこともできないから。僕等は、攻めてこられさえしなければそれで良いんじゃないかって思っているけど」


「……新しい国王っていうのは、いつ就任したんだ?」


 俺の追加の質問に、カリムが反応して顔を上げた。


「……なかなか鋭いな……さっきまで眠そうにしていたのに、別人のようだ。まあ、それはいいとして……今から三年前、それまで実権を握っていた国王代行を、正当な国王が追放した。当時、わずか十五歳だった」


「……十五で国王? それも、代行を追放して?」


 ちょっと意外な答だったので、変な声が出てしまった。


「ああ……そしてその国王はそれ以降、独裁者として君臨している。若いが、なかなかしたたかなヤツらしい……もちろん、俺たちは会ったことも、見たこともないがな」


 グラドが、どうしようもない、とばかりに両手を広げながらそう言った。


「国王、か……やっぱり王っていうのは、絶対的な権力を持っているんだろうな」


「そう、ね。六十年前に軍事政権が国王の傘下に入ってからは、ますますそれが顕著になった。しかも、今の国王は、暗殺されそうになっていたのを逆に利用して、反逆勢力を粛清したって言うから大したものだわ……魔法も使える、正当な後継者だしね」


「魔法? この世界に、魔法はないんじゃなかったのか?」


 クラーラから不意に出た単語に、俺は即座に反応した。


「ええ、ほとんど存在していないのだけど、王家だけは例外。ひょっとしたら、王家の先祖は、私や貴方達と同じようにファイタルシスから来たのかもしれないわね……そしてそれが、王家の神秘性を高めているのよ。といっても、歴史的に大した魔法を使えた王族は存在しないみたい。せいぜい、中級冒険者程度だったみたいね」


「……なるほど。それでもまあ、特別な存在っていうことになるんだな」


「そしてそれ以降、新国王は一般市民に対して、かなり締め付けをきつくしている。特に貧民層は悲惨な事になっている。その独裁を止めるには、『超兵器』を破壊し尽くすか、中央の基地を攻めて、『超兵器』達への司令塔を破壊するか……もしくは、国王の暗殺が必要となる」


 カリムの冷淡な言葉に、俺もユナも、顔を見合わせてしまった。


「……『超兵器』が存在することは、他国からの侵略に対しては抑止力となるから、ある程度は有った方がいいかもしれない。でも、軍備増強を正義として国民を苦しませ、餓死者まで出しているのは許されることではないわ……だから、私達は戦っているの」


 クラーラが、決意を秘めた言葉を、俺達だけでなく、レジスタンスのメンバーにも投げかけた。


「……しかし、『超兵器』っていうのは、こいつだけじゃないんだろう?」


 提示されている『写真』を指差しながら、俺はそう切り出した。


「ああ、そういえばこいつらの説明の途中だったね……これは偵察用の機体で通称『クズリ』、さっき言ったとおり、最も攻撃力は低いけど、それでも厄介な相手だ。でも、こんなのは下っ端で、他にも、一体で一つの砦を破壊すると言われる人間型超兵器『オーガ』、一体で一つの城砦都市を破壊すると噂される巨人型超兵器『ギガンテス』、そして一体で一国を壊滅させる能力があると言われる巨竜型超兵器『グレータードラゴン』などが存在するんだ……まあ、最後のは半ば伝説となっていて、僕等でも見たことはないんだけどね」


「……すごい、すごいわ! ねえ、タク、聞いた? 『一国を壊滅させる』だって! 見てみたくない?」


 ユナがはしゃいでいる……いや、そんなの、見た瞬間に殺されそうだ。


 こころなしか、ミリアまで嬉しそうな表情をしている。

 ウィンがちょっとこめかみに指を当てて、面倒な事になった、とつぶやいたのが救いだった。


********


 十メル四方の薄暗い部屋の中で、その映像は映し出されていた。


「……このように、一時的とはいえ、三体のクズリが行動不能に陥れられました。また、行方不明になっていた一体も、一瞬通信が戻ったのですが、また途切れてしまいました」


 初老の男の声が、部屋の中に響いた。


「ふむ……ファイタルシスの魔術使いと見て間違いなさそうだな……」


「おそらく。しかも、相当上位の魔法が使えるものと思われます」


「そうだな……特にこの小さい方の娘……飛翔しながら爆炎や光弾を放っているではないか……見事だ、なんとしても余の物としたい……よし、この娘を生け捕りにしよう」


「……生け捕り、ですか? しかし、捉えたとしても、暴れて魔法でも使われれば危険なのでは……」


「心配するな。余も魔法が使える。余が押さえ込む」


「……しかし……お言葉ながら……」


「余よりもこの娘の方が魔力が強い、と言いたいのだろう? 案ずるな、策はある。まずは情報を集めよ」


「御意」


 初老の男は、それだけ言い残すと、薄暗い部屋を後にした。


 残ったのは、まだ十代の青年一人だった。


「……究極魔力無効化能力アルティメイト・アンチ・マジック……あのときに神から授かったものの、もはや役に立たぬ能力だと思っていたが……意外と切り札になるやもしれぬな……」


 その青年……現ノルドーム国王、エクト・ノルダムテリアは、不気味な笑みを浮かべていた――。

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