凄い人?
「あ、タクを煽っても無駄ですよ。名誉とか権力とか、そういうの興味ない人だから」
と、ユナが勝手に話を切り出す。
「ちょ、ちょっと待った。俺、そんな事一言も言ったことないぞ」
「えっ、そうなの? だったら、王様にもっとアピールすれば良かったのに」
「いや、そう言うんじゃ無くて……なんていうか、俺の能力が必要とされてるって事に興味が湧いたんだよ」
そんな俺とユナの下らない掛け合いを、クラーラはちょっと微笑みながら見ていた。
「仲が良いのね……あなた達、恋人同士?」
「えっ……いえ、あの……どうなのかな?」
と、ユナは俺の方を見て首を傾げる。少しだけ赤くなっている……ような気もする。
「……まあ、それはとりあえず置いておいて……俺の能力って、少しはお金になったりしますか? 多分、半年は帰れない気がするけど、こっちの世界のお金なんか持っていないし、なんとかして稼がないといけないから」
結構、無計画で来てしまっていたが、その問題はすぐにでも解決しないといけない。
一応、貴金属の『金』はいくらか持ってきているが、こちらでその価値が同じとは限らないし。
「……呆れたわ、本当に行き当たりばったりなのね……ええ、もちろんお金になるでしょうね。でも、言葉の問題があるけど……いいわ、私と仲間が通訳してあげる」
「仲間? ……他に、私達と同じ言葉をしゃべれる仲間がいるの? それって、私達と同じ世界の人なの?」
ユナが矢継ぎ早に質問を投げかける。クラーラは多少困惑気味だ。
「いいえ、残念ながらその仲間の中には、ファイタルシス出身者はいないわ。でも、みんな興味を持ってて、いつか行ってみたいって話してるの。だから、私が教えてあげた。よく似てるのよ、ジアースとファイタルシスの共通語は。いくらか単語を覚えれば、あなたたちもすぐこっちの言葉、分かるようになると思うわ」
クラーラの仲間の中に、俺たちと同じ世界から来た者はいない、という説明を受け、ユナは少しがっかりしていたが、すぐ気分を切り替えたようで、
「頑張って勉強しよっ、また一緒に結婚相談所始められるね」
と微笑みかけてきた。
やばい……こういうときのユナ、ムチャクチャ可愛く思えてしまう……。
「やっぱり仲良いわね……それじゃあ、こちらからも質問。さっき、王様って言ってたけど……あなた達、向こうの世界じゃ、王様に面会できるほど身分が高かったの?」
「いや、えっと……まあ、成り行きでそういうことになってしまったんだ」
「成り行き? それで王様と面会? どこの国か分からないけど……」
と言うクラーラの質問に、俺が口ごもっていると、
「それも、タクヤの能力が関係しているんだ。セントラル・バナンで、ヴェルフィン・ファイスト国王に会っている。結果から言うと、彼はその能力で呪いをかけられた王女を助けている。ついでに、その王女に対して、運命の相手を引き合わせているんだ」
と、ウィンがうまくまとめて説明してくれた。
「セントラル・バナンで? 王女の運命の相手を? ……やっぱり、凄い人なのね……」
クラーラは感心していたが、どうでもいい方向に話が逸れていっている気がした。
「えっと、それよりも……そう、今後俺たちの生活を、どうするか決めないと行けないんだ。こっちの世界がどういうものか、あんまり分からないまま来てしまったから。さっきの話の通り、本当に無計画だったんだ……ウィンとの契約は、クラーラと会わせてあげた段階で終了してる。でも、帰ろうと思っても、例の岩戸……つまり、元の世界と繋がる門は、半年後の皆既月食のときまで開かない……それまで、こっちで生活しないと行けないんだ。まずは食事と、寝泊まりするところを確保したい」
「……本当、無計画ね……って叱りたいところだけど、ウィラードに無理言われてたんでしょう? 私も、そんな彼の無茶に付き合ってくれたお礼がしたいしね……いいわ。ここ、教会だから、質素だけど食事もあるし、四人ぐらいなら寝泊まりできる場所も何とかしてあげる」
クラーラの提案に、俺もユナも、表情は変えないがおそらくミリアも、ほっとしていた。
正直、かなり無理をしてここまで来たのでヘトヘトだったし、腹も減っていた。
「……ところで、さっき『半年後に帰る』って行ってたけど、それってすんなりとはいかないような気がするけど……」
「えっ……あ、ひょっとしてあの場所、目をつけられている?」
確かに、ちょっと気にはなっていた。
そもそも、あんな辺鄙な場所に多くの『超兵器』と兵士が待機していたこと自体がおかしいのだ。
「その通りよ。三年前の皆既月食の日に、偵察用の『RQ-4』が行方不明になっていて、あの近辺は要警戒区域に指定されていたの。そこにきて今回の皆既月食でまた騒ぎが起きたでしょう? 今後は相当強固な監視体制が敷かれると思うわ」
どうやら、俺たちは相当派手な事をやらかしてしまったらしい。
「あなた達が無事に帰る手段はただ一つ。私達と協力して、あの『超兵器』達を動かないようにしてしまうのよ」
「……やっぱり、そうですよね!? うん、私もそう思っていたの。タク、残念だけど、私達が帰るには、あの奇妙な魔獣達、やっつけるしかないんだって!」
残念、と言う割には、ユナの目はキラキラと輝いているように見えた。
また、心なしか、ミリアの瞳も、いつもより大きく開いていて、ほんのわずか口元に笑みを浮かべているように感じたのだった。




