最高神の一柱
「『超兵器』……当時の人々は……いえ、今でも、この世界、この時代の武器では完全に破壊することは極めて困難な、意思を持っているとしか思えない機械達の総称。最初にその遺跡を発見した盗掘士は、あまりに不用意に起動スイッチを入れてしまい……安置されていた数十体もの超兵器が地上に出てしまうはめになった」
「数十体……あんなのが、それほどの数揃っていたというのか……」
空恐ろしいものを感じた俺は、呻くようにそうつぶやいた。
なにしろ、ミリアの爆撃魔法やユナの電撃魔法をまともに受けても、一時的に動きを止めることはできたが、完全に破壊出来たものは一体も存在しないのだ。
「あんなもの、っていうけど、あなた達が戦っていたあれは一番攻撃力の低い、偵察用の機体よ。もっと強力なものがあって、例えば……」
と、彼女はそこまで話したところで、ふっと何かを思いだしたように俺たちを見渡した。
俺もつられて、仲間達の反応を見てみる。
……やばい、ユナの目がキラキラし始めている。
ワノクニにいるときは自信を無くしている様にも思えたが、この世界に来るまでの『超兵器』との戦闘で、闘争本能、冒険者魂が目覚めてしまったか。
心なしか、ミリアのテンションもわずかに上がっているように見える。
それに対して、俺は急速にやる気を失ってしまっている。
どうも、俺は『恋人同士を結びつける』という使命を果たすと、テンションも能力も下がってしまうような気がする。ウィンとクラーラが出会った時点で、俺の役目は終わっているのだ。
そもそも、俺は戦いとか争いとかは基本的に嫌いなのだ……恋人に会うための依頼者を導いているときは、夢中になっていて忘れているけど。
一方、ウィンはと言うと……だめだ、恋人と再会したことで、一番目が輝いている。なんか、ややこしいことに巻き込まれなければ良いんだけれども。
「……いけない、また悪いクセが出たわね。まだ自己紹介の途中だった。この話、長くなるから、先にあなた達の事、教えて頂戴」
クラーラは、そう言って迷彩色の帽子を脱いだ。
はらり、と金色の髪がこぼれる。
口元にほくろがあり、やや子供っぽいユナと違って、知的な印象の美女だ。
想像よりしっかりしているようだし、二十歳台前半の、できる女性、という感じで、これはこれで魅力的に思えてしまう。
思わず見とれていると、隣の席のユナに肘で突かれた。
はっと我に返り、自己紹介をするために立ち上がろうとしたが、先にウィンが話しはじめた。
「じゃあ、僕がみんなを紹介していくよ。まず、一番奥の女の子が、ミリア。我々の中で、最も強力な攻撃魔法を放つことができる」
彼の言葉に、クラーラは真剣な表情で頷く。
「……見た目、ただの幼い女の子に見えるけど、奇妙な魔力を感じるわ。よく言えば豊富な、別の言い方をすれば、理解の範囲を超えた魔力……」
そう指摘されても、ミリアは相変わらず無表情だ。
ただ、さっきも感じたが、いつもよりやる気が上がっているように感じる。
「……私の体の中には、魔神の魔核が移植されているの……」
ぽつん、とミリアはつぶやいた。
その一言は、全員に衝撃をもたらした。
まず、彼女が自発的に自分の秘密を打ち明けたのが初めてだった。俺たちは、その事に驚いた。
そして、強力な魔核が移植されていることを知ったクラーラは、大きく目を見張っていた。
「……私の体は、半分魔神に支配されている……その意思を封じ込め、私の意思を上書きしているの……」
ミリアにしては、饒舌だった。
あるいは、ジフラールから何らかの司令、遠隔思念が届いているのかもしれないが……いずれにせよ、クラーラにそれだけの秘密を打ち明けるだけの価値があると判断したのだろう。
いや、ひょっとして、ミリアも戦いに参加したがっているのか?
「……この子、ミリアもまた、数奇な運命を辿っている。デルモベート老公の予言を受け、神の能力を与えられたジフラールによって命を救われ、そして力を与えられた。そういう意味では、この子は神に選ばれた娘、ということになる」
ウィンがそう補足した。
「なるほどね……ウィラード、あなたがここまで連れてくるっていうことは、つまり、それだけの特別な何か、そして能力があるっていうことなのね……じゃあその可愛いお嬢さんも、只者ではないっていうことなのね……彼女も若いのに、相当な魔力を感じるけど……それだけじゃあないんでしょう?」
クラーラがユナの方を見てそう言った。
「ああ……彼女、ユナには、僕が『究極完全回復魔法』を使っている」
ウィンのその一言に、クラーラはもう一度目を見開き、そして哀れむような視線をユナに向けた。
「そう……ユナ、あなた、死にかけたのね……」
「はい……おぞましい毒を受けて、半年間石になって……でも、彼の魔法ですっかり回復して、今は絶好調です!」
元気に返事をしたユナだったが、その回答の内容はとんでもないものだ。
だが、クラーラはすんなりと受け入れたように、笑顔で頷いた。
「大変だったのね……あの魔法を受けたのだったら、歳をとらない体になってしまっているでしょうけど……まあ、それはプラスの方が多いから前向きに考えて。あと、私に敬語は必要ないわ。同じ究極の回復魔法を受けた者同士、私達は仲間だしね」
「はい……いえ、うん、ありがとう!」
ユナは満面の笑みだが……仲間って、まさか戦力にするつもりじゃないだろうか。今のユナだと、誘われたら乗ってしまいそうで怖い。
もう俺達は『契約』は果たしたんだから、とっとと帰るべきなんだが……まあ、次の皆既月食までは帰れないけど。
「……なるほど、今の話を聞く限りは、やはりみんな何かしら『神』と繋がりがあるのね。ウィラードの能力も、神に与えられたものっていう話だしね……『神』、『超魔法文明』、『超科学文明』……それぞれ何か繋がりがあるのかもしれないわね」
確かに、そういう解釈が成り立つかもしれない。俺の能力、運命の糸は、普通に『超魔法文明』の遺跡内部を指し示し、中を通り、ワノクニに辿り着き、その結果『超科学文明』の遺物と戦うはめになってしまったのだから。
「ということは、そのボウヤも何かしら特別な能力を持っているか、もしくは『神』と繋がりがあるっていうことかしら。魔力は大したことないみたいだけど」
……なんか、微妙にディスられている。
「ああ、その両方だ。彼、タクヤは、神から直接『究極縁結能力者』という能力を授かっている。最高に幸せになれる結婚相手を見つけ出し、そしてその相手の元へと導く能力だ」
「……何、それ?」
クラーラは、ぽかんと口を開けている。
「その能力のおかげで、僕は時空を越えて、こうやって君と出会うことができた」
クラーラは一瞬、なんの事か分からなかったようだが、すぐにその言葉の意味に気付いて真っ赤になった。
「……なっ……ちょ、ちょっと待ってよ。えっ、ウィラード、結婚相手って……」
「そうだよ。僕は彼が授かった神の能力に導かれ、最高に幸せになれる結婚相手である君の元に辿りつけたんだ」
「……そ、そうなの? えっと……うん、その、結婚云々は置いておいて、平行世界にいる私のところまで導いたっていうのはすごいわね……って、え?」
照れ隠しなのか、結婚の話を誤魔化そうとしていたが、最後で様子が変わった。
「……それって、誰の相手も見えるの?」
クラーラは、赤くなったままではあるが、真剣な表情で俺に尋ねた。
「……まあ、九割九分は。中にはどうしても見えない人もいるけど」
その残りの一分に、自分とユナ、ミリアが入ってしまっているのだが。
「……それって、事によれば大変な事態になるかもしれないわ……」
「……大変な事態?」
俺はクラーラの言葉に眉をひそめた。
「そう。だって、それはつまり、『縁結び』ってことでしょう? 今私達がいるこちらの世界でも、魔法はなくとも、宗教は盛んなの。その中でも恋愛、結婚、縁結びを司る神は最高神の一柱で、人気も高い……もしその能力がこの世界でも通用するならば、貴方、とてつもない名誉と権力を手中にできるかもしれないわ」
クラーラの真剣なその一言に、俺の背中にゾクゾクと、何かが走るような気がした。