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超科学文明

「……感激の再会のところを申し訳ないけど、今、俺たちが置かれている状況を説明してもらっていい?」


 しばらく見つめ合い、動こうとしない二人に対して、俺はしびれを切らして声をかけた。


「あ、ごめんね。えっと、今……簡単に言えば、かなりヤバイ状況よ。さっさと逃げないと、奴等に追いつかれるわ。私も聞きたいこと、いっぱいあるんだけど……とりあえず、移動してもらうわ。念のために確認だけど、ウィラード、この子達、貴方の仲間、なのよね?」


「ああ、もちろん、大切な仲間だよ」


 クラーラとウィンに子供扱いされた事はちょっと気になったが、この二人、実年齢は八十歳に近く、そう思われても仕方無いのかもしれない。見た目はあまり変わらないのだが。


「じゃあ、私も信じることにするからね……それにしても、この女の子二人、魔力が異常に強い……とくに小さい方の娘なんて、あり得ないわ……って、貴方のことだから、何か特別な事情があるんでしょうね?」


「ああ、紹介するよ。その子は……」


 と、ウィンが話そうとしたとき、クラーラはそれを左手で制した。


「待って……どうやら、あんまりゆっくりと話をしている時間はなさそう。すぐ移動しないと、奴等が追ってくる。今は、信用出来る人達だと確認できればそれで良かったから」


 クラーラはそう言うと、両手を組み、目を瞑り、祈るように呪文を唱えはじめた。

 すると、森の中で少しだけ開けたこの場所に、直径十メルほどの大きな魔方陣が浮かび上がってきた。


「……これは……転移魔方陣! しかも、まだ新しい……これって、君が描いたのか?」


 ウィンが驚きの表情を浮かべ、ユナも目を大きく見開いている。俺はよく分からないが、すごい魔法らしい。

 ここに来るまでにいくつが転移魔方陣を通っては来たが、それは遙か昔に滅んだはずの超魔法文明の遺産であり、現代であればほとんど使える者などいないはずなのだという。


「ダテに六十年以上、現役でいた訳じゃあないからね……って、あなたが妙ちくりんな魔法で、私を歳のとらない体にしたんでしょう? 魔力だって少しずつ上がりっぱなしだったし……って、そんなこと悠長に話している場合じゃ無いわね。さあ、みんなこの魔方陣の中に入って。あんまり長い時間持たないし、それより追っ手が心配だから」


 ちょっと口調の荒っぽいクラーラがそう急かすが、少し躊躇する。

 そんな中、真っ先にミリアが無表情のままその中に入り、その姿をかき消した。


 俺とユナは一瞬顔を見合わせたが、ミリアのことが心配になって、まずユナ、そして俺が続いてその中に入った。


 一瞬、視界が暗転し、そして次に目に飛び込んできたのは、薄暗い石造りの広い部屋だった。

 足元を見ると、先程俺が入ったのと同じような魔方陣が浮かび上がっている。


「タク、後の人が来られないからこっちに来て!」


 と、声がする方を見ると、正面の壁際でユナが手招きしていた。

 傍らに、ミリアの姿も見える。

 慌ててそちらの方向へ小走りに駆けていく。


 少し遅れてウィンが、そして最後にクラーラが姿を現す。

 その彼女が一言、呪文を唱えると、魔方陣の光はスッと消えた。


「……ここは……」


 俺とユナ、それにウィンは、キョロキョロと周囲を見渡す。


「この場所は、一体……」


「本当は、私達にとって最重要の秘密の場所なんだけど、まあ緊急事態だったから仕方無く来てもらったの。どういう施設なのかは……ちょっと簡単には話せないから、とりあえず隣の部屋に行きましょ!」


 クラーラはウィンの手を引いて移動し、部屋の隅の重そうな扉を開いた。

 向こう側から明かりが漏れる。


 とりあえず危険はなさそうなので、俺たち残りの三人もその後についていった。

 するとそこは、長い机と椅子が十脚ほど用意された、会議室のようだった。

 天井に黄色の明るい光源が存在し、部屋全体を照らしている。


「……なにかしら、あの光……魔力を感じない……」


 ユナが、眩しそうに目を細めながらその方向を見つめていた。

 ミリアも、表情はあまり変わらないものの、興味はあるようで、上を向いていた。


「……そっか、あなた達、見るの初めてだもんね……あれはね、電気の力で光る光源で、『電球』って言うの」


「デンキュウ……確かに、電撃で多少光が出るのは分かるけど……」


 ユナがそう言って、親指と人差し指の間にパチパチと火花を散らす。

 それを見て、今度はクラーラが軽く目を見張った。


「……上手ね、普通は電撃魔法って効果は一瞬じゃなかったかしら? それとも、私がこっちに来てから魔法って進んだ?」


「いえ、今のはごく弱い魔法を連続で使っただけで……」


 と、二人が魔法談義を始めたところで、ウィンが


「まあ、椅子にぐらい座ろうじゃあないか。彼女たちのこともきちんと紹介したいし」


 と話し、クラーラも、


「それもそうね。まあ、気楽に座って」


 と勧めてくれたので、俺たちも素直にそれに従った。

 改めて天井を見ると、『電球』と言う名の光源が三つついており、夜だというのにかなり明るい。


 いや、そもそもこの部屋には窓が一つもない。

 先程の部屋とは違って、石造りというわけではなく、きちんと白塗りの壁が存在している。

 ただ、所々くすんでおり、質素な印象だ。

 テーブルも椅子も、必要最小限の機能を満たす、シンプルな作りだった。


「じゃあ、えっと……私から自己紹介しますね。名前は……もう、ウィラードから聞いているかな? クラーラです。歳は……まあ、秘密って事で。自己紹介で逆に質問するのも変かもしれないけど、私の事、どう聞いているのかな?」


 彼女は、俺に視線を合わせながらそう尋ねて来た。


「ウィン……あなたはウィラードって呼んでいる彼から、昔一緒に冒険した仲間だって聞いています。大怪我をしたとき、彼から究極完全回復魔法(アルティメイト・ヒーリング)を受け復活して、その後、謎の失踪を遂げた、と」


 それを聞いた彼女は、きょとんとした表情を浮かべた後、突然笑いはじめた。


「あははっ、『謎の失踪』か。うん、そう思うよね……まあ、実際そんな感じだった。だってウィラードが、もう冒険したくない、みたいなこと言ってたから、仕方無く一人で冒険に出たら、とある地下迷宮で罠に掛かって……気がついたら、この地に飛ばされていたの」


「地下迷宮? 罠? 僕たちのルート以外にも、こっちの世界への転移門があったのか……一体、どこにそんな危険な迷宮が……それも一人で行くなんて」


「……まあ、あのときはヤケになっていたしね。逃げるのに夢中で置いてきた装備品とかも取り戻したかったし」


「……それって、まさか、キエント海底大通路!?」


 ウィンが身を乗り出すようにして尋ねた。


「そう。隠匿(ハインディング)を駆使すれば、行って帰って来るぐらいはなんとかなる、と思って」


「無茶すぎるっ!」


 めずらしく、ウィンが怒鳴った。

 パーティーが全滅した迷宮に、たった一人で入ったと言うのだ。彼が怒るのも分かる。


「……私も、若かったから。貴方にも、ついて行けないって言われたし……」


 それを聞いて、ウィンは、ガタンと音を立てて、再び椅子に座った。


「道理で見つからないわけだ……あの古代迷宮はその後すぐに封鎖されたから……でも、そう考えるとよく生きていてくれたよ」


 ウィンはため息をつきながらそう話した。


「そう、本当に生きていることが不思議なぐらい……当時、大変だったのよ。気がつくとたった一人で、草原みたいなところに立ってて……幸い、町はすぐ見つかったけど、言葉も通じないし。あのとき、とても優しい老夫婦に出会わなかったらどうなっていたことか……って、まあ、その後のことは追々話すとして……他に何か、質問ある?」


 自己紹介だから質問を受け付けるのは当たり前かもしれないが、分からない事だらけだ。


「質問。さっき襲ってきたあれ、一体何なんだ? あの正体が分からないと、今、こうやって会議していることも不安なんだけど」


 俺は手を上げて、真っ先にその事を聞いた。


「……あ、そういえばそうね。大丈夫、奴等には転移魔方陣は使えないから、ここまでは絶対に追って来られない。あと、正体って行ってたけど、私もよく分からないわ」


「……正体が、分からない?」


 俺のそんなつぶやきに、クラーラは一度目を閉じ、ゆっくりと開いて、俺たちを見渡した。


「……この世界……私や、あなた達が元々いた世界を、こちらでは『ファイタルシス』と呼ぶ……『空想上の魔力に満ちた世界』、っていうことになっているけどね。それに対して、こちらの世界は『ジアース』と呼ばれているわ。ほとんど魔法や魔力が存在しない。でもその代わり、『科学』という名の文明が発展している。さっきの電球もそう。電気の力を使って、少なくとも私がいた頃のファイタルシスよりは先進的で、便利な暮らしができている。といっても、それほど大きな違いはなくて、馬車に引かれなくても走る車があったり、『火薬』っていう、魔法無しでも爆発させられる原料があって、戦争ではそれが使われたり……その程度。でも、奴等は別物……あなた達、元の世界では、『古代超魔法文明』が存在していた事、知っているでしょう?」


 その問いに、全員が頷く。実際、ワノクニに移動するときに、訳の分からないままその遺跡を通ってきた。


「こちらの世界にも、『古代超科学文明』が存在していた……とっくに滅んでいたはずの生き残り、我々が『超兵器』と呼んでいるそれを、六十年ほど前、国王軍が見つけてしまったことが、この国にとって、更なる繁栄と、そして悲劇の始まりだった」


 クラーラは、今までとは違い、真剣な表情で話し始めた。

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