突破
光の中から現れた魔獣に対し、即座に反応したのはミリアだった。
岩戸は縦横それぞれ10メル程の洞窟のような形状であり、大規模な爆撃魔法を使用すると崩れてしまう恐れがある。
事前に複数の敵が現れることも、我々はある程度想定していた。
ミリアは、中規模の熱誘導火炎弾、跳躍破裂炎兎弾を三発放った。
連続跳躍するウサギのこときその燃えさかる塊は、まるで命があるかのように正確に魔獣達に迫り、そして見事に全弾命中。三体とも、後方にはじけ飛んだ。
……しかし、何事もなかったかのようにむっくりと起き上がり、その目?が、怒りの為か赤く光った。
「……やはり、炎を吐くだけあって火炎には強いか……金属の鎧をまとっている、衝撃にも強そうだ……」
ある程度予測できたことだが、一筋縄ではいかない。
今のミリアの魔法にしても、強力な魔獣ですらまともに食らえばしばらく立ち上がれないほどの威力だったのだ。
こいつは、一体ずつが下級のドラゴンなんかよりはるかに強力だと推測された。
「……なんか、ヤバイ……盾を張る!」
ウィンが大きな声を上げた。
次の瞬間、全員の前方に薄い光の膜ができる。傘を広げたような、ドーム型の形状だ。
浮遊魔法で少し浮き上がったミリアは、やや斜め後方……つまりは、魔獣達と相対する方向に光の膜が形成されていた。
一瞬遅れて、三体の魔獣の口から、何か物体が射出された。
目に捉えきれないほど高速で打ち出されたそれは、シールドに当たってその進行方向が変わり、岩戸内の天井や壁に穴を開けた……その威力に、全員が戦慄した。
「間に合った……今の盾は物理防御用だよ。もう一層、火炎用のも張る。ミリア、光弾魔法に切り替えるんだ!」
ウィンが指示を出す。
「……了解」
ウィンの張る盾は、防御力は高いが、こちらからの同特性の攻撃も遮ってしまう。従って、ミリアも得意の火炎魔法は使えなくなる。
どのみち、相手は事前の予測通り火炎にめっぽう強い。
威力はさほどではないが、相手を押し込む力のある光弾魔法を、ミリアは連発した。
それらを受けて、反撃の機会も与えられないまま徐々に押し込まれる魔獣達。
俺たちも、それに合わせて岩戸の中に踏み込んでいった。
が、ここで状況が一変。
魔獣達は一列に並び、一体が前方に出て光弾を全て受け、もう一体がそれを支えて後退を食い止め、そしてもう一体が岩戸内の天井に向けて、何かを連続で発射し始めたのだ。
「こいつら……こんな連携もできるのか! まずい、岩戸が崩れる!」
俺が大声で叫ぶ。
「お願い、効いて……大疾空雷撃破!」
ユナの上級雷撃魔法が炸裂する。
それをまともに受けた先頭、および支えている次の魔獣、さらには最後方の魔獣までもが、フシュン、という音を立て、赤い眼の光を失った。
さらにミリアの光弾を受け、力なく後方にはじき飛ばされていく。
「雷撃が弱点だったか……よし、みんな、行こう!」
俺は大きな声で指示を出した……が、その反応が薄い。
「行くって、どこへ? この奥、どこまで広がっているの?」
そう、岩戸の奥は、一面霧が掛かったような白い光景がどこまでも続き、壁も天井も、そして足場さえもはっきりしていないのだ。
俺だけには『運命の糸』が見えていたが、その方向を正確に示すのが難しい。
岩戸を抜けるだけならば、単純に俺についてくるように指示すれば良いかもしれないが、魔獣をその方向にうまく追い立てる必要があるのだ。
俺は叫んだ。
「道を示してくれ、運命の糸!」
今、俺たちの中で『糸』が存在するのは、ウィンのものだけだ。
そして俺の必死の叫びが通じたのか、あるいは、彼のクラーラに対する思いが強烈だったためか……その奇跡は起きた。
今までよりはっきりと、赤く、まるでロープのように太く、ピンと伸びた運命の糸が、そこに出現したのだ。
「……私達にも見えるわ、ウィンの『糸』が!」
ユナが叫ぶ。
「……あの先に、魔獣を押し込む」
ミリアが呟くようにそう言うと、巧みに光弾を操り、一時的に動かなくなった魔獣を言葉通り押し込んでいく。
すると、突然フッと、三体の魔獣が姿を消した。
よく見ると、そこだけ空間が歪んでいるように見える。
「……あそこが出口だ! もうあまり時間が無い、急いで飛び込めっ!」
俺の占術士の勘が、そう警告を発しており、その通り言葉に出した。
皆既月食がもう、終わりかけているのだ。
俺が先頭となってそこにダイブする。
ぐるん、と体が転がるような感触に襲われる。
そして次に、全身を衝撃――それほど強くはない――が襲った。
目を見開くと、そこは夜の林の中だった。
後方で、ドサッという音と、直後に
「痛ーい……」
という声が聞こえた……振り返ると、大木に挟まれた空間から抜け出てきたユナだった。
続いて、ウィン、ミリアが抜けてくる。この二人は無難に着地したようだった。
傍らには、カクカクと痙攣するようにうごめいている三体の魔獣が存在している。
「……気を抜くな、まだ生きている!」
俺は注意を促した……と、その直後、上空から強烈な光を照射させられた。
「……人感反応あり……十数名に、包囲されてる……」
ミリアが、相変わらず感情のこもっていない声で、冷静に今の状況を説明した。




