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 この夜は、俺達の歓迎の宴が催されることとなった。


 まずは、領主の城で豪華な料理を出してもらい、高級な酒もご馳走になった。


 以前来た時は知らなかったのだが、この地は比較的海も近いらしく、新鮮な魚料理や大きな海老、貝の煮付けなど、今まであまり食べた事がないような料理がふんだんに出て、米から作ったという澄んだ酒もうまかった。


 ただ、この国もやはり十六歳以上でないと酒は飲めない決まりらしく、ミリアは果実から搾り取った新鮮なジュースで我慢だ。


 ユナは、なぜ自分達がこれほど歓迎されているのか不思議に思っているようだったが、ウィンの治癒魔法のことと、もう一つ、ミリアが強烈な攻撃魔法を見せていたことも要因の一つだと説明した。


 彼等にとっては、次の皆既月食は恐るべきものなのだ。

 前回、たった一体の魔獣(自動人形)で大きな被害が出てしまった。

 もし、三日後の月食でさらに多くの敵が攻めてきたらどう防げばいいのか。


 長らく戦のない平和な時を過ごしてきたこの地域にとって、頭の痛い問題であったという。

 そんなときに、強力な治癒、及び攻撃魔法が使える異国の人間が、西の岩戸を開いて来てくれた。

 もちろん、最初は警戒したが、共通語で話しができる分、全く話が通じない魔獣よりは信用ができる。


それどころか、最前線で戦うという事なのだから、彼等にとってはまさに救世主で、このもてなしぶりも分かるというものだ――。


 そんな風に俺が説明すると、急にユナが怒ったような顔つきになった。


「ちょっと待って……最前線で戦うって、どういうこと? そんなの、私聞いていないけど」


「ああ、ウィンが勝手にそんな話にしてしまったんだ」


「勝手に? それって、まずくない? どういう相手かはっきり分からないのに、先頭に立つなんて……ミリアはともかく、ウィンもタクも、そんなに攻撃力や攻撃魔力が高い訳じゃないよね?」


「もちろん、俺だってそう言ったさ。でも、よくよく聞いてみると、ウィンの言うことも確かに一理ある内容だったんだ」


「……どういうことか、説明してもらえる?」


 ユナの厳しい視線が、ウィンに向けられた。


「……僕が勝手に言い出したのは悪いと思ってるよ。でも、僕にとってはクラーラのいる世界へと向かう事が最優先事項なんだ。そう考えると、東の岩戸が開いている時間は、皆既月食状態のわずか十分程度。そこを突っ切ることを考えると、向こうから出てくる魔獣は僕たちでなんとかしなきゃならない。その時間帯に、こちらに侵入してくることを阻止できればそれでいいんだから、ミリアの強力な魔法で、奥へと押し込みながら進んでいけばいいと思ったんだよ」


「……なるほどね、後に回ったら、岩戸の中に進めなくなっちゃうかもしれないものね。うん、まあ……分かったわ。ちょっと危険だけど、それがこの地の人達にとってもベストなのかもしれないね」


 と、ユナはため息混じりに了承した。


 ちょっと揉めていた我々の様子を、二十人ほど集まっていた周囲の人は、ハラハラしながら見ていたようだが、ユナが納得したことにより、また笑顔に戻って歓待が続いた。


 この宴は二時間ほどで終わったのだが、ここからがさらに本番だった。

 貴族街を離れ、下町に戻ったのだが、ここではさらに熱烈な歓迎を受けたのだ。

 なにしろ、実際に岩戸に近いのはこちらの方だ。魔獣が暴れれば、直接被害を受けるのは下町なのだ。


「……我々の町は、ほとんどが木造建築です。この国は森林が豊富に存在するので、建材に困ることはない。前回の魔獣襲撃の後も、二ヶ月後にはすっかり元の町並みに戻っていたんですよ」


 ケイスケさんが、胸を張ってそう言った。

 なるほど、木造建築は火に弱いという欠点はあるが、復旧が早いというメリットもまた存在するのだ。


 とはいえ、炎を吐く異世界の魔獣はやはり怖い。

 そこを俺達が盾になると言うのだ、彼等も歓迎するわけだ。


 先程とは異なり、夜の屋外での宴会で、二百人近くが集まり、大きなかがり火を焚いて、まるで祭りのような賑わいとなった。


 下町の料理は、上品さでは貴族街のものに劣るものの、素朴で量が多く、それなりに美味い。

 なにより、あまり気を使わなくても良く、言葉は通じなくても親しげに接してくれるのが嬉しい。

 ハルに至っては、俺にべったりと寄り添っていて、ユナがちょっと妬いて? いるようだった。


 と、ここで一組のカップルが、俺達に挨拶に来た。

 男性の方は見覚えがあるが、女性の方は初めてだった。

 ケイスケさんが間に入って、通訳してくれる。


「こちらの男性を、覚えていますか? タクヤさんにお礼を言いたいと言っています」


「ああ、覚えてる。前回来たとき、俺が恋愛の占いができるって言ったときに、えっと、その……その時一緒にいた、今とは別の女性との相性を占った方ですよね?」


「はい、そうです……結果的には、その女性と別れて、タクヤさんの言うとおり、以前の彼女とヨリを戻したところ、上手くいったそうです」


 ケイスケさんが通訳したので、そうでしょう、俺の占いは間違いないんです、というと、彼は照れながら、俺に握手を求めてきたので、それに応じた。


 ついでに彼女とも握手したのだが、ユナがまたちょっと厳しい視線を送ってきた。


「……それも聞いていなかったけど、どういうこと?」


「ケイスケさんが言ったとおりだよ。俺は恋愛の占いができるって言ったら、当時付き合っていたカップルが、相性を占って欲しいって言ってきたから、占って、残念ながらお互いに最良の結婚相手が別にいるって言ってあげたんだよ。その理想の相手の特徴を行ってあげたら、彼は、元カノだと気付いたんだ」


「えっと、それは分かったけど、そういうんじゃなくて……なんで恋愛占い、してあげたの? 商売?」


「いや、その時はまだ、俺達警戒されていたみたいだから、ちょっと親密になろうと思って。料金は取っていない」


「そうなんだ……うん、そうだよね……」


 なぜかユナは、ちょっと寂しそうな表情を浮かべた。


「……どうしたんだ?」


「うん……私も、いっしょにいて手伝いたかったな、って思っただけ」


 それを聞いて、ちょっと複雑な気持ちになった。彼女はこの時、まだ石になったままだったのだ。


 その後、もう一組、別のカップルが挨拶にやってきた。

 今度はさっきと逆で、女性の方は知っているが、男性とは初めて会う。

 っていうか、女性は、さっきの男性の相手だった人だ。


 彼女の場合、俺がイメージを伝えた相手には、全く心当たりがなかったという。

 しかし、海の近くに住んでいて、灯台守をしている人だ、という分かりやすいヒントに、半信半疑でそこを訪れ、出会った瞬間にお互いに一目惚れしたらしい。


 彼女等にも感謝され、握手した。

 いいコトしたね、と、ユナもちょっと寂しげながら笑顔を浮かべた。


 ところが……それで終わりではなかった。


 この二組が幸せになったという評判を聞き、宴の席と言うこともあって、俺も、私もと、十人近くもの若者が、列を作って占いにやってきたのだ。


 これには、俺もユナも顔を見合わせて苦笑いしたが、彼女は自分も手伝える(正確には、恋占いを覗ける)とあって、大分張り切っていた。


 さらに興味本位で参加する者も現れ、最終的に二十人近く占い、そして最後に自分も占って欲しいと言ってきたのは、まだ未成年のハルだった。


 どうしようか、と思ったのだが、彼女の両親も、ぜひこの娘が幸せになる男性を見てあげてください、と言ってきたので、了承することにした。


 ちなみに、彼女は十四歳ということで、思っていたよりちょっと歳が上だった。


「……まさかこの子も、相手が見えないなんてこと、ないでしょうね……」


「さあ、どうだろうな……って、妬いてるのか?」


「そーゆー訳じゃないけど、すごく可愛いから、ちょっと心配……」


 やっぱりユナ、妬いてくれてるんだな、と勝手に解釈して、嬉しくなってしまう。

 ちなみに、ハルは共通語は話せないので、俺達の会話の内容は分かっていない。

 そして俺は、彼女に手をかざして、最高に幸せになれる結婚相手のイメージを思い浮かべた。


「……そんなバカなっ!」


 俺は、見えてしまった衝撃的な光景に、思わず声を上げてしまった。


「なに、どうしたのっ!? やっぱり、見えなかったの!?」


「いや、そうじゃない……でも、こんなの……まさか……」


「落ち着いて、タク……何が見えたの?」


 ユナの言葉に、少しだけ落ち着こうと、深呼吸をした。

 そして俺は、ユナ、ウィン、ミリアに告げた。


「この娘が最高に幸せになれる結婚相手は、二十歳ぐらいの、精悍な顔つきの青年だ。そして彼は、クラーラと共に戦いに参加している」


「……クラーラと? それってどういうことだ?」


 予期せぬ名前が出て来たことに、ウィンが声をあげた。


「……つまり、ハルのお相手は、東の岩戸の向こう側……異世界に存在している」


 ――俺の言葉に、三人とも絶句した。

 そして、その意味が理解できないハルは、ただ、きょとんとしていた。

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