踏破済み?
「間違いない、運命の糸は、その在処を示しているんだ!」
他のみんなも、それにつられて目を輝かせた。
「なあんだ、やっぱりアクト、心当たりあったんじゃない! さっさとそれ見つけて、持って帰りましょう!」
ユナは興奮してそう話した。
「いや、待て……事はそう簡単じゃない。そんな伝説があって、究極とも言える魔導具なんだったら、もっと早く見つけられているとは思わないか?」
「……それは……そうね……」
「その二つの杖が見つけられていない理由は、二つある。一つは、『アルジャの迷宮』は強力な魔法によって入り口が封印されていて、それを開くことができるのは、王家の血を濃く引き継ぐ人間だけだということだ」
「……そんな……だったら、それこそ国王陛下とかに来てもらわなければならない……」
ユナは、明らかにガッカリしていたし、俺達もそれが困難であることが容易に理解でき、落胆した。
「話は最後まで聞け……幸か不幸か、俺はその扉を開くことができる」
アクトのその一言に、全員、「へっ?」という、唖然とした表情となった。
「そういえば、アクト、前王の孫じゃない! ガッカリさせないでよっ!」
「だから、話を最後まで聞け。俺は一度、こっそり一人で『アルジャの迷宮』を探索したことがあったんだ……結論から言えば、『何もなかった』」
「……どういうこと?」
「実は、百年ほど前にも、当時の国王の弟を指揮官として騎士団を募り、大規模な探索が行われた事があったらしい。迷宮の守護者である、鉄でできた強力なゴーレムを倒したところまでは良かったのだが……その後、迷宮内を隅々まで探索したが、結局二本の杖は見つからなかったという。そして俺も数年前にこっそり探してみたが、見つからなかった……結論としては、最初から存在しなかったか、あるいは、百年前の探索隊が、実際には見つけて持ち帰ったが、発見できなかったと報告したか、だと思っていた」
「じゃあ、俺の占いの結果が正しいとすれば……」
「何か、見落としている事があるということだ。その可能性は十分にある。しかも、その見落としを、お前の能力は補う事ができる……これなら、いけるかもしれない」
今度こそ、間違いない。全員の表情が明るくなった。
「まあ、その糸とやらが、恋愛が絡んでいるだとかいうのは眉唾だが……王女を助ける為の手掛かりとなっているのであれば、俺も信じてみることにした。踏破済みという扱いになっている迷宮だ、俺が単身乗り込んだときも、危険はほとんど無かった。ダメ元で挑んでみても、損はないだろう。おまえ達も、それで気が済むのならな。ただし……」
長身のレンジャーは、みんなの気を引き締めるように言葉を発する。
「もしそれが、まだ未踏破の領域があるということならば……解除されていない罠や、ひょっとしたら、迷宮の守護者がまだ存在しているかもしれない。そうなると、格段に危険が増す……装備を調え、臨機応変に対応し、時には撤退する勇気も必要となる。迷宮での焦りは死を招く。それだけは胆に命じておけ」
数々の危機を乗り越えてきたであろう、レンジャーの重い言葉だ。
しかし俺達だって、決して危険な目に会わなかった訳では無い。
百戦錬磨のユナはもちろん、俺だって、三度も真竜と戦っている。
ミウもジル先生もユアンも、一度は真竜と相対している。
ミリアは……正直、よく分からないが……。
「あと、ミリアは置いていく。子供を迷宮探索に連れて行くのは、足手まといだ」
うっ……早速、そのミリアが槍玉に上がった。
「ちょっと、アクト。貴方、ミリアの何を知っているの? この子は私達の中で、一番……」
と、そこまでユナが反論したところで、アクトは手を差し出して、彼女の言葉を遮った。
馬車から降りて、周囲を警戒する。
「……急にどうしたの、アクト……」
「……いや、これはレンジャーとしての勘だが……誰かに見られているような気がしてな……だが、隠れたのか……姿が見えない」
馬車の周囲は平原が広がっており、所々に立木がある程度。
見晴らしはいいが、人間の姿は見えない。
「……ミリア、確認してくれ」
「……了解……」
彼女は俺の指示に答え、右手を上に上げて、ぼそっと何かを呟いた。
途端に感じる、ぞくんと感じる背中の痺れ。
「……発見……約ニキロ先、あっちの方角……軽装の男性二名、大木の陰に、馬と一緒に隠れている……今までも私達の後を付けていた集団のメンバー……強い魔力反応なし……」
またか、という思いだった。
これに対し、アクトは目を見開いて驚いている。
「ミリア、そいつ等にこの前の威嚇魔法、使ってくれるか?」
「……了解……」
ミリアは、両手を前面に突き出し、膨大な魔力を練り上げていく。
それを魔法の光弾として、高速で飛ぶ矢のように前方に放った。
約二キロをほんの数秒で飛行したそれは、大木の真上で炸裂、強烈な閃光が煌めき、一瞬遅れて爆破音が響き渡った。
俺達は二度目なので耳を塞いでいたが、そうしていなかったアクトは、相当驚いたようだった。
また、炸裂地点の真下、大木の側から、馬が二頭、狂ったように走り去っていくのも見えた。
「……どう、アクト。これでもまだ、ミリアは不要だって言うの? ちなみに彼女、デルモベート先生の孫弟子よ」
いまだ驚きの表情である彼に対して、ユナはドヤ顔でそう言った。
「……分かったよ、一緒に行こう……」
彼はあっさりと、白旗をあげたのだった。