キャンパスライフ
オレはあの時彼女に恋をしていた。
キャンパスライフは自分が想像していたより遥かにキラキラしていた。
自分はどちらかと言えばインキャラでありモブキャラであったからキラキラなんて擬音を使う機会など永遠に訪れないと思っていた。
そんなオレがその言葉を使ってしまうほど世界は輝いていた。
下宿まで往復の生活。講義が終わればバイト週末もほぼバイトだったけど全然苦では無かった。
そんな生活も2年目を迎えたある日の昼下がり。
コメディ映画鑑賞サークルに入っていた俺は新入部員勧誘のため構内でビラ配りをしていた。
この映画鑑賞サークルもなかなか楽しいモノで元々映画好きな俺には持ってこいと思い入った。
入ったものの部員の数の少なさに拍子抜けした。
部員はオレを含めて男三人だった。
オレが言うのも何だが、いかにも暗そうな男二人だった。
仏頂面に髭を伸ばした(剃るのが面倒なだけだろう)男が三年生の部長でもう一人は二年の細身の男だった。
女の子の一人ぐらいいて今の生活もより一層色付くのかと思ったので半ば残念に思ったものの、しかしよくよく考えてみれば人嫌いの自分には益々願ったり叶ったりではないかと思い直し楽しむ事にした。
そんな中でオレは生まれて初めての恋をした。
桜の木に寄りかかり凛とした表情で文庫本を捲っていたが、突然の強風に慌てた感じでサラサラの黒髪を抑え身構えていたものの本に挟まっていた栞が勢いよく俺の足元に飛んできた。
桜の花弁が舞い散る中、『すみません』と俺の元へ駆け寄ってきて栞を受けとる白い手真っ黒の大きな瞳、遠慮がちに笑う彼女を好きになった。
それからの学園生活は以前にも増してきらびやかなモノになり、目に入るモノ全て耳に入るモノ全て輝いていた。
色で表すならピンク。
自分の人生で一番合わないと思っていた色の世界に俺はいた。
彼女とは映画の好みも食事の好みも服の趣味もほぼ一緒でデートなどどこ行く?なんて話をしなくてもひらめきで動く事ができた。
だけど。
この世の誰もが知っている通り幸せな時間は長く続かない。
淡く夢見ていた幸せな結末は聞くも無惨な最悪な結末へとなっていった。
終わりへと導いたのは大袈裟な言い方ではあるがただ単に彼女の浮気が原因だった。
絶対に裏切らないと思っていた彼女がサークルの部長と通じていたなんて。
浮気だけでも信じられないのに、その相手がまさかの自分をサークルに招きいれてくれた部長だったなんて。
夕焼けの部室で二人が愛を支えあっているとこに運悪く目撃したオレは…。
何がどうなってそうなったのかは覚えていないが、窓ガラスが割れめちゃめちゃになった部室の床に血を流した部長とさっきまで自分の彼女だった女が倒れていた。