私の憎むべき相手
そもそも、どうして私がこんなに死にたかったのか?
それはあの女との出会いに話は遡る。
私、桜良は小さな時から愛想の無い子と言われ続けていた。
好きで無表情な訳じゃない。
しかし、小学高学年になった頃、この事について少し悩んだ時期があった。
近所の人に『こんにちわ』って言われた時だって、普通に『こんにちわ』って言って返す。
すると、『あの子って本当愛想無いわよね』って言うおばさんの声が聞こえる。
聞こえるように言ってる訳じゃないって分かってる。
別に傷つくとまではいかなくても、無理して笑顔を作らなければいけないのかな?どうして私は笑顔を作れないの?と自己嫌悪に陥る。
人間って平等じゃないって思う時が……、自分ではできないことを難なくやりこなせる人間と出会った時だ。
「さーくら、今日、桜良の家に行ってもいい?」
そう、こいつ私の幼馴染みの菊田ひろみ。
産まれた瞬間から笑顔で生まれてきたのでは無いかと思うほど、どんな瞬間でも人に話しかけられたら笑顔を出せる女の子だ。
彼女はどんな人にも、どんな時でも話しかけられたら笑顔で返す。
いい笑顔だね、って周りの人間に言われるほどの笑顔。
私だって笑顔を作ろうと思えば作れるが、やはり、慣れていないせいなのか、作った笑顔と言う感じになってしまう。
それが彼女の場合、全く嫌味の無い最高の笑顔を瞬時に作ることができるのだ。
そして、私はずっとその笑顔に騙されてた。
私はこの屈託無く笑う菊田ひろみに心を許していた。
友達を作るのが苦手な私が初めて信じた人間。
だけど、私は笑顔ごと菊田ひろみの存在が嘘で作られたモノだと知る事になる。
「う……ん、大丈夫」
てか、いちいち私に聞く必要ある?
私の答えなんて聞かなくても分かってるはずでしょう?
私がひろみに逆らえないこと分かっているのに。
小学三年生の頃、母親と大喧嘩した私はむしゃくした私は近所のショッピングモールの本屋にいた。
適当にモノを物色しながら、そこにいた人が読んでいた本を自分のバッグに入れるところを目撃したのだ。
ドキドキした。
私もあんな風にすればこのモヤモヤが晴れるかもしれない。
震える手で本を掴む、周りの目が気になる。
みんなが自分を見ている気がした。
ひんやりした手でそれをバッグに入れようとした瞬間。
偶然にも菊田ひろみと目が合ったのだ。
それから、ひろみにはどんなことでも逆らえなくなった。
ひろみがお金を要求すれば持ってくるし、ひろみの嫌いな女がいれば徹底的に陰湿なイジメを繰り返す。
クラス委員などにも選ばれるような誰の目にも良く写っているひろみと、クラス一目立たない地味な私。
何も知らないクラスメイトは、優しいひろみが私に付き合ってくれているのだろうと思っているはずだ。
このまま一生私はひろみとこのまま付き合っていくのだろうか?
『おい、さっきから黙ってどうした?憎い人間思い浮かんだか?』
謎の生物が黙りこくった私をじっと見た。
「そのスキルって今すぐ使わないとダメなの?」
『いや、一週間の猶予がある』
一週間……、一週間のうちにさっきの苦しみを与える相手。
それは菊田ひろみ、菊田ひろみにしよう。
私の心は決まった。