天邪鬼
このショッピングモール内に、私が殺したくて殺したくてたまらない菊田ひろみがいる。
こんなにすぐ近くにあの女がいるなんて。
まぁ、家が近所なんだからそんな偶然おかしな事じゃない。
だけど、それは今の私にとって絶好のチャンスなのではないか?
本当に?本当にそう思ってる?
『遂に心は決まったのか?』
私の心を察したのか嬉しそうに現れた毛玉は目を細めて、また不気味に笑った。
それを見て、また自分の心に迷いが生じた。
この力であの女を殺す。
それが本当に正しいのだろうか?
殺すと言う事をこんな簡単に決めていいのだろうか?
…私は…。そこまでの事を…されてきた?
ぐふっ、苛立ちが猛烈な吐き気になり襲ってきた。
今まであの女にされてきた今までの事を思えば、あんな女…あんな女…。
「ねぇ、さっきから何ブツブツ言ってんの?キモいんだけど」
腕を組んだまま私の事を見ていた鳥海美智は辺りを見回し誰も知り合いがいないことを確認していたようで、ホッと肩を落として、私を見下ろした。
「あんたといるとこ見られたらネタにされそう」
ああ、そうだ、こいつ等はいつもそうだ。
自分より下の人間を見る事で優越感に浸れるのだ。
常に人の目を気にして自分より弱者を見つけないと自分の立ち位置さえ分からなくなってしまうんだ。
そんな事分かっているが何も言い返せない。
悔しいけど、こいつ等の前に立つと何も言えなくなる。
何て情けないんだろう?
こう言う情けないとこが彼女達を余計につけあがらせる事って分かってる。
『お、殺る気か?殺るなら早くしろ、俺様は気が短いんだ』
私には今コイツが側にいるんだ。
コイツが側にいる限り私は無敵じゃないか?
ぐいと見上げたその先にいる美智の顔が引き攣っていた。
「何その目?」
生まれた時から猫かぶりの菊田ひろみと違い彼女は根っからの天邪鬼であり、それを隠す術を知らない。
自分が気に入らないと思った相手を自分の世界からとことん排除しようとする。
だがそれ故に考え足らずなところが幼稚ないじめとなり周りに発覚しやすい。
分かりやすいと言えば分かりやすいので、仮面を被り誰にでも愛想良く生きる菊田ひろみよりの方がタチが悪い。
菊田ひろみもコイツの単純な性格を分かっていいように利用しているのだろう。
「あ、ひろみからだ」
美智はスマホに触れ画面を触り、一瞥する事も無く私から離れて行った。
『なーんだ、今回も何も無しか…』
毛玉の声が脳内に響いた。