協力
『ほほぅ、なかなかクズな結末だったな』
グフフと気色の悪い声が現実に戻す。
黒の毛むくじゃらから見えるビードロのような真紅の瞳がビルのオフィス街を映していた。
オレ…今何を見せられていた?
震えている指先が一瞬赤く見え吐き気がした。
あの時の事。思い出すだけで自責の念にかられる。
…。…。…。いや、多少意味合いが違うな。
オレは自分のした浅はかな行動のせいで彼女を失うだけでなく大学を辞めると言う代償も背負わなければならなくなった。
たかが女一人のせいで人生を台無しにしてしまった出来事が後々延々に自分の生活に暗い影を落とす事になる。
両親には勘当されどこにも自分の居場所が無くなったものの、何とか暮らせるだけのお金は確保しなければならなかったのに、何をしても長続きしない。あの時の後悔が頭を埋め尽くす。
たった一人の女のために。
あんなバカな女のために。
自責の念と言うのなら、あんな女を信じたあんな女と付き合った自分への言葉だろう。
あんな男とあんな女の薄汚れた血が自分にかかったかと思うとそれだけで反吐が出る。
『やはりお前はワイが見込んだクズだな』
頭の中に響くノイズ交じりの低い声は声と言うより音のようだった。
ずっと思っていたがコイツには口が無かった。
今まで見たことない奇怪な生物にクズと言われるほどオレは落ちぶれているのか?
生きる事に無気力なくせに目の前を歩いている幸せそうな姿に苛立ちを覚え人間の姿に殺意を感じているオレがクズだと言うのならオレをこんな風にしたアイツ等の方がよっぽどクズじゃないのか?
『グフフ、いいぞいいぞお前のその負の感情がお前の魂をどんどん汚していく、そしてその魂の味と言ったら…あー、もっともっと汚れろ、もっともっと人を憎むがいい。さぁ、どうだ?今でも死にたいか?それともお前をこんな風にしたその二人に復讐をするか?選ぶのはお前自身だ』
コイツの言っている事はよく分からないが、コイツを利用してアイツ等に復讐する事ができるのなら絶好のチャンスじゃないか!
オレはまだ死なない。
アイツ等の苦しむ姿を見たい。
部室で体のあちらこちらから血を流し震えながらオレを見ていた部長と元彼女の姿がオレの脳裏に焼き付いて離れない。
あの二人がその後どう生きているのか分からないがオレの人生をめちゃめちゃにしたアイツ等二人が幸せである事など許せるはずがない。
「おい、本当にあの二人を消す事ができるのならオレはお前に協力する」




