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佐倉(さくら)藍花(あいか)。アメリカ人の父親と日本人の母親をもつ彼女は、天然の金髪が特徴的な子だ。

人より大きな二重まぶたの目は、その明るい色をしたブルーの瞳を一層際立てており、身長は150も無いくらいで同級生の中でも小柄な方な彼女は、その容姿と持ち前の元気さも相まってクラスにおいてマスコットキャラのように親しまれているらしい。


七海(ななみ)(みお)。女性としては長身で、豊満なバストとスタイル抜群の彼女は、同級生の女子たちからは「お姉様」と親しまれ、男子たちからは欲望丸出しの視線で見られる事が多いそうだ。

更に、自分の事を俺と呼ぶ所謂俺っ娘で随分とイケメンな性格の持ち主らしい。


らしい、らしい。とは僕が彼女たちとクラスが違うため、友達のいない僕には噂を小耳にはさむ程度の知識しかないからである。




あまりにビックリして数秒ほど固まってしまったが、PC越しでは彼女達もまた此方を見つめ固まっていた。


(そうか、2人も僕に気づいて……)


何だろう、偶然とはいえ学園のアイドルとナウタイムをしているこの状況に、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった心境だ。


「えーと初めましてユキちゃん?ユキくん?」


「このパターンは想像してなかったよ。本当に男の人何だろうか?」


……ん?


「いやー、なるほどね!こんな可愛らしい子が男の子だなんて、とんでもない裏ワザだよ!」


……あれ?気づかれてない?


「そうだな、これには俺も驚愕の一言しか出てこない。いやはや、君みたいな可愛らしい子が男だなんて羨ましい限りだ」


澪さん!?貴方もですかっ!?


「あの……」


僕は自分が同じ学校の、て言うか同級生であることを言おうとして、顔まで晒して気づかなかった彼女たちに教えたところでどうなるんだと思いとどまった。


「どうかしたかい?」


「ふっふー。ウチらが可愛すぎて緊張してんのかな?」


ニヤニヤと楽しそうな佐倉さんにテキトーな相槌をしておく。


(僕みたいなオタクが学校にいたとして、彼女たちには何も関係ないもんな)



さて、これで僕が男であることは証明できたわけだが、折角ナウタイムをしているのでこのまま彼女たちに装備選びについてアドバイスを受けることとなった。




「まずね、ユキちゃんには街にある武器屋で装備出来る物は無いよ!」




「……はい?」



いきなりそんなことを言われ、僕は意味がわからず首を傾げた。


「うん、やっぱり知らなかったかー。説明するとユキちゃんには力が足りないから街の武器屋で買った装備はーーー」


「藍、それじゃあ伝わりにくいだろ。先ず装備がどんな物か説明しないと」


「えー?そうかなぁ……?じゃぁ説明はレイちゃんに任せるね?」


ペロッと舌を出してウインクする佐倉さんを不覚にも可愛いと思ってしまった。


「はぁ、仕方ない。それじゃ俺から説明する。いいかユキ、NWOにおいて装備とは全員が平等であると同時に不平等なんだ」


渋々に説明を引き受けた七海さんに、噂通りの面倒見がいい姉御肌を感じた。


「理由はそれぞれの装備にあるSTR制限、初期装備には無いが武器や防具にはこのSTR制限が設けられていてその数値以上でないと装備する事が出来ない。例えば俺のSTRが12だったとしよう、装備したい杖のSTR制限が3だった場合、防具には残りの9以内で探さなければならなくなる。簡単だがなかなか難しい事だ。特に魔法特化のプレイヤー達は武器を豪華にしすぎて、防具はほとんど数字が残らないなんて事もベータテストの時にはよくあった話だったよ。さて、此処まで話せばわかっただろう?君が街の武器を装備出来ないわけが」


一気に説明されたけど、僕の今の状況は凄く理解する事ができた。


(……マジ…か)


つまり街の武器屋にはSTRが0のものが存在しないのだろう。

お先真っ暗とはこの事か、兎人族の僕はSTRがレベルアップ毎に-5となってしまうため、例えBPを全てSTRに振ったとしても0に戻ってしまう。

つまり武器も防具も身につける事が出来ないって事なのか……。


「だが安心してほしい。NWOの敵モンスターの中には特殊な素材をドロップするモンスターがいる。彼らの素材を使った武器や防具は重量が凄く低く設定されるし、短剣や布のみの防具ならば0にだってする事が可能だ」


僅かに見えた希望の光。


「……でも、それって」


「あぁ、キミの考えてる通り、それが普及するまでにはだいぶ時間が掛かるだろう。そしてかなりの高値になる筈だ」


「……そう……ですよね」


僕の心を再び絶望の2文字が占めた。

まさかのゲーム開始初日に、ゲームオーバーである。

いや、まだキャラクターを作り直せば良いだけの話だが、折角のレアスキルと初めてのキャラクターであるユキを消すのはショックであった。



「…………ユキちゃん、提案が有るんだけど!」


暗い空気になってしまい誰もが喋りずらくなった中、そんな空気を吹き飛ばしてしまうのはやはり佐倉さんだった。


「ウチらベータテスターにはキャラメイクをやり直さないって条件で特典が幾つか有るんだけど、その中にね……アイテムを3つまでベータから持っていけるってのが有るんだ!」


そうなのか、やっぱりベータの人って優遇されているんだね。


「その中にクリスタルフェザーてアイテムが有るんだけど、これで短剣を作ればSTR0の装備が出来ると思うの!」


へぇ〜、それは凄い…………え?


「あの、提案って……?」


図々しいかもしれない、けれど彼女の話を聞いていると期待してしまう自分がいた。


「改めて自己紹介するね、ウチはNWOで主に鍛治職人として活動してる藍っていいます!それで、もし良かったらウチと契約を結んでくれないかな?」


「鍛治職人だったんですね……契約ですか?」


「うん!契約の内容は今後ユキちゃんが武器を買う時にはウチのお店で買うこと!そしてウチがお願いした時に売り子として店を手伝う事!その2つだよ!」


それってどんな高値でも此れからは佐倉さんの店で武器を買わないといけないし、呼び出されたら必ず店の売り子として働けって事?


「契約してくれるならウチの今ある力とアイテムで、最高の短剣をプレゼントするよ!」


そ、それって……STR0の短剣を作ってくれるって事?

驚いて返事が遅れた僕より先に、話を聞いていた七海さんも僕に提案をしてきた。


「ふーん、じゃぁ俺も契約しちゃおうかな?内容は藍と一緒で、俺からは最高の布防具をプレゼントしよう」


な、七海さんまで!?


「あー!ユキちゃんはウチのモノだよ!」


「阿呆、決めるのはユキ本人だ」


「えーー」と藍さんが不満そうに口をすぼめながら此方を見つめてきた。

まるで断られたらどうしよう?と考えてる様な不安げな瞳を見て、僕は考えるまでもなく2人の提案に乗ることにした。


「そうですね、お二人なら安心できますし此方からお願いします」


僕の返事を聞いて、藍さんは「やった〜〜!」と大喜びし、七海さんも「ありがとな!」と笑ってくれた。


そんな2人を見て、やっぱり提案に乗って正解だったと……


「ふひひ、これでユキちゃんのメイド姿が……」



……正解だったのだろうか。

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