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赤、青、緑、黄、白、黒……ガラスケースに入った宝石の様な輝きを放つ武器達。

これらはそれぞれが魔法の力を宿した魔剣と呼ばれる武器の一種である。


『刀身を炎が包み、一振りすれば敵を焼き尽くす。』そんな謳い文句で売られている武器達を前に、1人の少女……幼女がまるでお菓子を買ってもらえない幼子の様な悲しげな瞳で見つめていた。


「いーなーいーなー……かっこいいなぁ……」


はい、僕です。





「……はぁ」


街の武器屋に着いてから、このガラスケースに入れられたふた振りの剣の虜になってしまった僕は、その金額を見て何度目かも分からないため息を溢した。


[火獣の長剣]360000エル

[氷狼の長剣]470000エル


うん、お金も全く足りないし、長剣は今の僕には不要の装備だと分かってはいる。

でも男心くすぐられるって言うか、あきらめきれて無いんだなぁって……。


僕は後ろ髪を引かれる思いでその場を離れると、ごく普通の武器が陳列されてある場所に移動した。


魔剣を見た後ではどうしても見劣りしてしまうが普通にカッコイイ短剣を手に取り、どんな短剣にしようかとうろついていると、突然背後から何者かに抱きつかれた。


「ねぇねぇ、武器さがしてるんだよね?」


僕より頭一つ背の高い、健康そうな小麦肌の女の子。

エルフの様な長い耳が獣人族の様に毛深く、それが彼女を小人族のドワーフだと知らせていた。


「ど、どどどどなたでしょうか?」


突然の美少女の接触にどもってしまい、しかも彼女の身体が密着している事によりその身体には不釣り合いな存在感を放つ二つのスライムがががががっ!!


「ウチは(ラン)!ランねぇちゃんって呼んでねっ!」


「きゃぁぁああああ!」


ふんふん、と鼻息を荒くしながら僕の身体をペタペタと触りだす美少女改め変態の登場に、僕は女のような悲鳴をあげてしまった。


目の前にハラスメント行為の通告パネルが現れて、咄嗟にYesに触れようとすると変態が後ろから僕の腕を絡め取ってきて身動きを封じられた。


「ふふふ、ベータテスターであるウチにハラスメント通告なんてあって無いようなもの。久しぶりに見つけた逸材、逃さないわよ?」


「いやぁぁああ!誰か助けてぇぇえええ!!」


耳元で囁かれ、時折フーと息を吹きかけられる。

僕の心の底からの願いに、神様が救いの手を差し出してくれる事はなく、変態の手は僕の両手を片手で抑えると空いた方の手で内腿を撫でる様に触れてきた。


「ゃっ!…ぁ…んっ……!?」


ゾクゾクと背筋に悪寒が走り、我慢することが出来なかった声が漏れてしまう。


ゆっくり、ゆっくりと僕の反応を楽しむかの様に変態の指が上がってくる。

そして、あわや……と思った時、へギュッ!?と蛙が潰されたような悲鳴とともに両手首を拘束していた力が緩んだ。


バッ!と一瞬にして変態から距離をとる。

直ぐさま振り返り変態と相対すると、彼女は後頭部を手で押さえプルプルと震えていた。


「もー、いったいなぁ!何すんのさ、今いいところだったのにぃ!」


変態女から救ってくれたのは背の高い美男子のエルフのだった。

エルフの男がジロリとひと睨みすると、ワーワーと煩かった変態女がピタリと騒ぐのを止め大人しくなった。


それを確認したエルフの男が、こちらに視線を向けてきた。


「すまない、こいつとは昔からの知り合いでな…。俺は布防具などの生産を主に活動しているレイってもんだ」


「え…と、僕はユキです。一応短剣使いです」


謝罪と一緒に自己紹介をされて、思わず僕も自己紹介をしてしまう。


「へー!ユキちゃんっていうんだ!あれ、でもどこにも短剣を装備してないみたいだけど…?」


「ゔっ、それがですねーーー」


変態女に痛いところを突かれ、僕は死に戻りした時に初期装備である短剣を失ったことを説明した。


「ーーーで、新しく短剣を買おうかなぁと思いまして……」


「なるほどねぇ、まぁベータ時代にも初期装備を失ったって話は聞いたこと無かったし、デスペナ自体は所持アイテムをランダムに失うって噂だからユキちゃんは相当運が無かったみたいだね!」


「そうだな、予想だが初期装備はデスペナを受ける確率が相当低めに設定されている筈だ」


そ、そうなんだ……。うぅ、そんな確率を引き当てるなんて、相当ついてないなぁ。


「よしっ!そういうことならベータテスターであるウチがユキちゃんの装備を見繕ってあげるよ!」


突然の提案に僕は一歩後退し、警戒しながら藍さんを見る。


「か、完璧に警戒されてる!?ほら一応知識とかならベータであるウチは問題無いし、いいアドバイスをしてあげられると思うよ!」


確かに、ベータテスターである彼女の知識は魅力的だ。

でも先程のことが脳裏に蘇り、僕は直ぐにハイと言うことが出来ずにいた。


「警戒するのも無理は無いだろう。安心しろ、俺も一緒にいて藍が暴走しないよう見張ってやる」


レイさんが付いてくるなら安心だと、僕は2人に「お願いします」と頭を下げた。





「それじゃぁ早速武器選ぼっか!ユキちゃんSTRは今いくつ?」


幾つかの短剣を手に取り、意見を出し合いながら候補を絞っていく2人を後ろから見ていると、突然そんな質問をされた。


(STR?なんでそんな事聞くんだろう……)

「えっと、0です……」


疑問に思いながらも僕が正直に答えると、2人は動きをピタリと止め数秒してガバッと勢いよく此方を振り返った。


「え、なんて?……聞き違いかなぁ、今0って聞こえたんだけど?」


「すまない、俺の耳にも0と聞こえた。もう一度教えてくれるか?」


顔を近くまで寄せ聞き取れなかったと言う2人に、自身の特殊なプレイスタイルを自覚している僕は苦笑いでもう一度答える。


「0って、初期ステータスでは全て1からスタートする筈なんだけど、どうなってるのレイ?」


「俺に聞かれてもな……ふむ、ベータ時代には兎人族なんて無かったし、あるとすればその種族か?」


へぇ〜、ベータテストでは兎人族は無かったんだ。それなら知らないのも無理ないよね。

僕は兎人族について、2人に知っている限りの情報を伝えた。

まぁ、レベルアップ時のプラマイされるステータスくらいしかないわけだが……。


2人はその話を聞くと、顎に手を当ててそれぞれ思うところがあったのか、口を開くことなく思考に集中してしまう。


声をかけることすら躊躇うほど集中している2人に、アワアワ、ソワソワとしていると先に我に返ったのは藍さんだった。


「えーと、ユキちゃんに聞きたいことが幾つかのあるんだけど……あ、勿論スキルとか秘密があれば喋らなくて良いからね?」


「……は、はい」


真っ直ぐに見つめてくる藍さんの瞳に、彼女が変態女だと忘れるくらい緊張しながらも返事をかえす。


「それじゃぁ先ず最初の質問、ユキちゃんはソロプレイヤーで間違いないよね?」


「は、はい。まだパーティープレイはしてないです!」


「そっか、そのステータスでスライムを倒すことが出来たの?」


「……出来ました。」


「じゃぁ次、ユキちゃんは何に負けて死に戻りしたのかな?」


「えと…名前は分かりませんが猪のモンスターでした」


「あ、アーマードボアっ!?それって森林エリアのモンスターじゃん!どうしてそんな無茶を?」


藍さんが驚きのあまり声を荒げ、その隣ではレイさんが目を見開き此方も驚いた様子で僕を見下ろしていた。


「た、確かに無茶だったかなとは思いますが、あと一歩のところで油断して一撃で倒されちゃいました。って、これじゃ理由になってませんね……」


僕は何故森林エリアに入ったのか、目を閉じてあの時のことを振り返る。


「…そうですね、スライムもワンファングもワンパンだったので、行けるかなぁ…て……思い…まして……です」


説明しながら目を開けると、口を大きく開き言葉を失うレイさんと瞳を爛々と輝かせる藍さんに、僕は何か可笑しな事でもしたのかと怖くなった。


「スライムどころかワンファングすらワンパン?しかもあの堅いことで有名なアーマードボアをあと一歩って!ユキちゃんってユニークスキル持ちなのっ!?」


少しでも動けば唇が重なりそうなほど詰め寄ってきた藍さんに、僕は顔が熱くなるのを感じつつ「い、いえ!持ってません!」と否定する。


「じゃぁ、ユニークほどじゃ無いけど相当なレアスキルだねっ!?いいなぁ、もしよかったらどんなスキルか教えてくれないかなっ!?」


「ちょ、ちょっとまって!ちかっ近いです!!」


作られたものとはいえ、可愛い女の子の顔が間近にある状況にドキドキと心臓が脈打つ。

その後、復活したレイさんに首根っこを掴まれ、漸く藍さんと離れる事が出来た。


「あははー、ごめんね!熱くなりすぎてたみたい」


そんな風に軽く言われてしまい、僕は流石にこんな事を何度もやられると此方の気が持たないと2人にネカマである事を話す事にした。


「えぇ!?そんな筈はないよ!最初に一目見た時からウチの美少女センサーが反応しっぱなしなんだから!」


なんだそのセンサー、と言いたいところだが心当たりがあったため、僕は強く言い返す事が出来なかった。


「このセンサーが割と本気(マジ)な話でな?ベーターの時にいたプレイヤーの何人かはこいつの餌食となってるんだ。そのどれもがリアルで美少女っていう……まぁ不思議センサーなわけだ」


いやいやいやっ!何そのセンサー!

高性能過ぎでしょ、僕も欲しいよっ!


「まぁ、君が本当に男であるなら藍のセンサーも完璧では無かったという事なんだろう。因みに藍はリアルでも美少女だ、男の君からすれば先程までの事もラッキーな出来事だったと思ってくれ」


「うぅー、そんな筈ないもん!絶対可愛い子な筈だもん!!」


レイさんからのカミングアウトに僕は先程の事を思い出してしまい、再び顔が熱くなる。


「あぁ!今、ピーンって!やっぱりユキちゃんにセンサーが!」


う、うるさい!


「……はぁ。すまないがユキ、こうなってしまうと藍は手がつけられなくなってしまうんだ。それで、もしよかったら一旦落ちてナウタイムであってもらえないか?」


レイさんの提案にでたナウタイムとはPCソフトのテレビ電話である。

PCゲームをしている時に併用してリアルタイムで会話が出来るなど、愛用しているゲーマーは数多くいるし僕もその中の1人である。

そして、このナウタイムによって数々の波乱を巻き起こしてきたのだ。


「えーと、まぁ大丈夫ですよ?」


とはいえ、ここで断わってしまえば折角のベーターテスターとの繋がりが切れかねない。何より僕の女の子疑惑が晴れない為、了承の意を伝えお互いのアカウントを教えると一度NWOからログアウトした。




現実世界に帰ってきた時、僕はすぐに自分の身体に違和感を感じた。

先程までAGI特化の幼女として活動していた僕は、現実の身体を何時もより重くそして遅く感じてしまったのだ。


運動不足かなぁと考えながら、ベットの横にある台から眼鏡を手に取りPCの前まで移動した。

眼鏡をかけ起動ボタンを押し、PCが立ち上がるまでにPC横に置いていた髪留めを、顔が見えやすいように前髪をあげた状態で留める。


立ち上がったPCのデスクトップから、テレビマークのアイコンをダブルクリックしてナウタイムを開くと、検索ボタンをクリックして先程の教えてもらったアカウントを打ち込む。

すぐに検索結果が表示され、メニューからテレビ電話をクリックすると、プルルルルと電話特有の音が流れた。


「はいはーい!藍ねぇちゃんだよー!」


「すまないなユキ、我儘を聞いていただいて感謝する」


ガチャと繋がると同時に藍さんとレイさんがそれぞれ話しかけてきた。

それに応えようと口を開き、2人の顔を見て固まってしまった。


金髪セミロングとパッチリと大きな瞳を細めて笑う元気いっぱいの美少女と、落ち着いた雰囲気で黒のロングストレートと切れ長な目をした美少女。

僕が驚いたのはどちらもが美少女だったからとか、レイさんが女だったからとか、そんな些細な事ではなかった。


(佐倉さんと七海さんっ!?)


そう、ビックリしたのは僕が彼女達を知っていたから。

彼女達は僕が通う学校のアイドル的存在で、学校内ではファンクラブが出来るほどの人気をもつ3人の内の2人だった。


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