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「おう、嬢ちゃん!今度はしっかり門から帰ってきたようだな!」
ニヤニヤと笑いながら話しかけてきた門番さんに、ベー!と舌をだして通り過ぎる。
あの門番さんは絶対にドSだ!
ガハハハハーと後ろから聞こえる笑い声を無視して、相変わらずの無遠慮なプレイヤー達の視線に耐えながらも、マップで確認しながらアイテムショップを目指した。
「ここかな?」
目の前には看板に青色の液体が入った瓶が絵描かれた、アイテムショップらしき建物。
カランカランとドアを開けた時に、ドアベルの音が店内に響き渡った。
中に入ると、先に来ていた何人かのプレイヤーがこちらを一瞥し、再び各々がアイテムを探し始めようとして……2度見された。
なんなの、僕って宇宙人とかネッシー的存在なの?
プレイヤー達の視線を掻い潜ってレジに座っている店主らしきオジさんに声をかける。
「すみませーん!をHP回復薬買いたいのですがー」
一生懸命背伸びをしてオジさんを見上げる。
クッ!なんでこんなにレジが高いんだ!
背伸びして漸くオジさんのデコが見える高さなんだけど!
「お、何だお使いか?」
周りにいたプレイヤーがわらわらと集まってきた。
赤色の龍人族や狼人族、耳が長い彼は森人族のエルフかな?
いくら僕が幼女の格好をしてるからって、子供扱いされるのはちょっと……。
「僕、ネカマですので!」
しっし!と追い払うように手を振り、中身が男であることを宣言する。
集まってきていたプレイヤー達は「だよねー」とか「分かっちゃぁいたが期待してしまうな」などと言いながら離れていった。
「よう、回復薬はいくついるんだ?」
レジ台から顔を覗かせて、オジさんが聞いてきた。
僕は取り敢えず10個ほど買っておく事にして話を進める。
「ほらよ、1個50エル、10個で500エルだ」
目の前にパネルが現れた。
回復薬の絵に『×10』と付け足されたものと合計500エルと表示されており、右下には購入ボタンがあった。
「まいどありー」
回復薬を購入して、店からでると再び草原エリアへと向かう。
今度は回復薬が無くなるまでレベル上げをするつもりだ。
「っと、その前にスキル上げないと」
道の端によりスキル画面を表示させる。
スキル習得に触れて、どのスキルを取ろうかなーと上から順に眺める。
草原エリアでは、他のプレイヤー達がスキル技を使ってモンスターと戦っているのを見て、良いなぁと羨ましく思った。
短剣のスキルでも取ろうかなぁとスクロールしていると、一つのスキルが目にとまった。
[速度強化Ⅱ]Lv1【SP2】
レア度★★
パッシブスキル
レベルアップ時にAGI+2
…………まじか。
セットスキル
[速撃][速度強化LvMAX][速度強化ⅡLv1][ーーー][ーーー]
控えスキル
【SP1】
[スキル習得]
Lv2にするにはSP3も消費するみたいだ。
そうなるとLv3にする為にはSP4だと予想をつけ、SP1はとっておくとこにした。
(あぁ、他のスキルを手に入れるの、どんだけ先になるのかなぁ)
これもトッププレイヤーを目指す為だと自分に言い聞かせ、暫くの間空を見上げて目頭が熱くなるのを我慢した。
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5メートルはあった距離が一瞬にして0となり、右手に握る短剣が犬型のモンスターの喉元を切り裂いた。
「っぃて!」
あまりの速度に未だ慣れずにいた僕は、粒子状のポリゴンとなり消えていくワンちゃんの隣で転けてしまった。
「いててって、痛覚は無いんだった」
思わずそんな事を呟きながらも身体を起こすと、パッパラーとレベルアップ音が鳴り「やっとか……」とボヤきながらもBPをAGIに、SPを速度強化Ⅱに全振りする。
アレから既に1時間も狩りをしていて、このレベルアップでAGIは3桁へと突入した。
「それにしても……効率悪よなぁ」
3レベルとまだ2回目のレベルアップにも関わらず、1時間も要した事にこのゲームの難易度を知らされた。
回復薬は未だに使用していないが、それは敵がワンパンで死んでしまい、尚且つAGIが高い僕が必ず先制攻撃をしているからで、この先強敵とぶつかった時に長期戦となるようなら、レベル1つあげる為に何時間必要で回復薬をいくつ使用するのか、考えただけでも憂鬱になりそうだ。
「その前に僕のHPとDEFでワンパンされない事を祈らないとなぁ」
人よりAGI以外がとても低いと自覚している為、いろいろと不安要素が多すぎて先が怖いです。
「先の事はその時考えればいっか」
僕は草原エリアの奥、背の高い木々が生い茂る森林エリアを見つめる。
(取り敢えず今はレベル上げの効率を上げないと…)
まだ3レベルと不安な部分もあったが、死んでも街で生き返るだけで何も失うものはない。
あ、所持金やアイテムは減ってしまうかもしれないが、始めて2時間と経っていない今の所持金などたかが知れている。
僕はそんな軽い気持ちで森林エリアへと向かって行った。
(わぁ、木が凄く高い!)
身長が100㎝しかない僕は、目の前の木々の大きさに吃驚する。
5〜10m程の高さの木々が適当な間隔で根を張っており、草原エリアと比べると足場の悪さは一目瞭然。
これには速さをアドバンテージとする僕には大きな違いで、しかも未だに自分の速さに慣れてない僕は森林エリアの手前で足を止めてしまった。
(うーん、どうしよ……)
悩む事数秒、散々ネガティヴ思考をしてきたので、ここらで一つのポジティブに考えてみようと、僕はこの森林エリアで修行をする事にした。
障害物が多くて、足場の悪い森林エリアはうってつけの修行エリアとも言えるだろう。
そして『歩いて探索するのでは意味がない』と常時本気で走る。という縛りを付ける。
「よーい、どん!」と自分で言い、駆け出したと同時に木の根に躓いて派手に転けてしまった。
そんな感じで何度も転けたり、木を避けきれず正面からぶつかったりと修行をしながら、森林エリアを探索していると見た事のない初見のモンスターを発見した。
どうやら猪のモンスターのようで、身体を覆う硬そうな剛毛と、額には金属のような光沢のあり、あの額で突進されたらと思うと背中に冷たいものが走る。
と、猪のモンスターに気を取られすぎて、足下が完全にお留守となっていた僕は太めの木の根に足を躓かせて、その先にあった太い木の幹へと頭から衝突した。
「おぉぉぉ!!」
あまりの衝撃に頭を抑えて屈み込む。
無いはずの痛みは、先程転けても痛く無い事に慣れ始めた自分に、僕自身がオプションメニューを弄ってみた結果だ。
オプションメニューには[痛覚設定]があり、始めは0%となっているそれを20%程にあげてみたのだ。
つまりこれで本来の1/5の痛さ、100%なら痛すぎてショック死するのでは?などと想像してしまった。
フラフラと立ち上がり後ろを振り返ると、此方に猛スピードで突進してくる猪が目に映った。
咄嗟の判断で横に跳び避けると、猪がドゴンッ!と僕がぶつかった木に衝突した。
「おいおい、マジですか?」
メキメキメキッ!と悲鳴をあげながら巨大な木の幹がへし折れていく光景に呆気にとられていると、へし折った本人?本猪がなにも無かったかのように此方に振り返った。
考えるよりも先に足が動き、僕は猪との距離を0にすると右手に握る短剣で斬りつけた。
カッカッカッカッカ!と短剣が猪の剛毛を滑っていく。
そのまま一度通り過ぎ猪に振り返るが、僕の攻撃はあの剛毛に全て弾かれたようで、猪の頭上に表示されたHPは僅かにしか減っていなかった。
(か、固っ!?)
それもそのはず、後で知った事だがこの猪型のモンスターはSTRとDEFが初期モンスターとしては化け物級に高く、本来なら魔法による討伐を基本とするモンスターだったのだ。
しかし、そんな事をこの時の僕が知るはずもなく、猪の攻撃を避けながらも何度も攻撃を当てていくヒットアンドアウェイで、徐々にHPを削っていく。
幸いにも、動き出して直ぐにトップスピードとなる訳では無いようで、走り出すと大きな進路変更は出来ない仕様なのか、避ける事自体には苦労はしなかった。
その後も斬りつけては避けて、斬りつけては避けてを繰り返していると、猪のHPも残り僅かとなってきた。
油断していたつもりは無かったが、漸く終わりが見えてきた戦闘に気持ちが緩んでしまったのか、猪の攻撃を避けようと地面わ蹴ったとき、僅かに地面から出ていた木の根に躓いてしまった。
「しまっ!?」
視界いっぱいに映る猪の後、僕の視界は真っ黒に染まっていった。
視界が回復した時、目の前に広がるファンタジーチックな街並みに本日2度目の死に戻りに察した。
「くそー、もうちょっとだったのにぃ!」
全然敵わないのではなく、後一歩のところ迄HPを削っていた為悔しさはとても大きかった。
今度こそ勝つ!と立ち上がり再戦の為森林エリアに向かおうとした時、ピコンッとメッセージ音が聞こえ視界右上にアイコンが現れる。
(あー、デスペナかなぁ………?)
経験値取得率が落ちる系なら未だしも、ステータス低下系なら街から出るのはやめた方がいいだろう。
アイコンを開き内容を確認してみると、表示された内容に暫く固まってしまった。
『プレイヤーが死亡状態となった為、デスペナルティーが発生しました。
・1時間取得経験値が1/2になります。
・1時間ステータスが1/2になります。
・手持ちのエルを1/2失いました。
・以下のアイテムを失いました。
[初心者用短剣][スライムの体液×16][ワンファングの犬歯×8][ワンファングの毛皮×5]
まさかのオンパレードである。
それにしてもあの犬型モンスターはワンファングって言うのか…………。
………………。
バッ!と腰に手をあて、短剣を探す。
「いやいやいや、え?無い!うそぉっ……!?」
初心者用の装備って無くなるのっ!?
何その鬼畜仕様、聞いたことないよっ!?
両手と両膝を地面につき頭を垂れる。
今、周りの人が僕を見ればどう思うのだろうか……。
もしかしたら既に他のプレイヤーが初期装備を失っていて、「あぁ、あいつもか……?」と笑っているかもしれない。
僕はこれ以上羞恥を晒さないため、立ち上がり街中へと歩き出す。
(初心者の武器が無くなって吃驚しちゃったけど、良い機会だし新しい武器買おうかな)
昔から気持ちを入れ替えるのは得意な方だった僕は、既にどんなファンタジー武器があるのかワクワクしながら武器屋へと足を運ばせていた。
ユキ
Lv3
女
兎人族
HP15(+5)
MP15(+5)
STR0(-5)
INT3(+1)
VIT3(+1)
MND3(+1)
DEX7(+1)
AGI106(+12+2+5+2+3)
LUK5(+1)
【BP0】