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「嬢ちゃん、そんな所で止まっていると次の通行人の邪魔になるから、少し避けてくれねぇか?」
門番さんに注意を受け我にかえった僕は、恥ずかしさから俯き「すみませんでしたっ!」と残して草原へと駆け出した。
暫く走っていると、ダムッと何かにぶつかって思わず尻餅をつく。
「す、すみませっ!!?」
慌てて前を見ると、青色のプルプルしたファンタジーでは定番のモンスター、『スライム』がいた。
起き上がろうとするより先にスライムから攻撃を受け、その衝撃にノックバック状態となる。
続いて受けたスライムの攻撃に僕の視界は真っ黒に染まった。
次の瞬間、街中へと移動していた僕は今の出来事に理解が追いつかず、呆然と立ち尽くす。
ピコンとメッセージ音がなり右上にアイコンが現れた。
『チュートリアル中の戦闘だった為、デスペナルティは受けません』
(……ぁ…ぇ……?……死んだ、のか?)
スライムに負けた現実に、軽く鬱になる。
(あぁ、そうだよなぁ……)
僕はメニューウィンドウを開き、ステータスへと触れる。
ユキ
Lv1
女
兎人族
HP5
MP5
STR1
INT1
VIT1
MND1
DEX5
AGI60
LUK3
【BP0】
これが僕の初期ステータスである。
BPはAGIに全てを振り分けた。
見ての通りAGIの極振り。それが僕がトッププレイヤーに食らいつくことが出来、ユニークスキルにも対抗できるかもしれないと考えた方法だった。
因みにスキルはというと、
セットスキル
[速撃][速度強化Lv4][ーーー][ーーー][ーーー]
控えスキル
【SP0】
[スキル習得]
と言った具合で、この[速度強化]というスキルはレベルアップ時に自身のAGIの上昇率に補正がかかるだけの単純なスキル。
Lv1をSP1で習得して、SP2でLv2に、SP3でLv3、そしてSP4でLv4まで上げてみた。
そのお陰で効果はレベルアップ毎にAGIが4も上がることに。
因みに速撃のようなレア度の高いスキルにはLvが存在しないスキルがあるそうです。ナビィさんから聞きました。
「よしっ!」と勢いよく立ち上がる。
気持ちを入れ直し、再び草原に向け駆け出した。
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「てな訳で帰ってきました、草原エリア!」
力の限り叫び、自分を鼓舞する。
「嬢ちゃんもうやられたのか?ハハッがんばれよー」
「ありがとー!行ってきまーす」
門番さんにも励ましのお言葉を頂き、再び草原エリアへと足を踏み入れた。
暫く探索しながら周りのプレイヤーを観察していると、大剣や、魔法でスライムを簡単に討伐しているプレイヤーが殆どだった。
それぞれが危なげなく、スライムを倒している光景に焦りを感じつつも、まだ始まって1時間も経ってない!と自分に言い聞かせる。
やがて、プレイヤー達の姿が疎らになってきたエリアで、漸く誰も相手をしていない1匹のスライムを見つけた。
僕は腰から短剣を引き抜くと同時にスライムに向かって駆け出す。
ビュンと風が吹いたように感じ、次の瞬間には目の前にスライムが居た。
(っと!?はやっ!!)
思っていた以上に速度が出たことに吃驚しながらも、咄嗟に短剣を前へと突き出した。
そのまま短剣はスライムに根元まで突き刺さり、プルプルの身体をビクッと震わせた後、ポリゴンの粒子となって消えていった。
余りにも呆気ない初戦に呆然としていると、ピコンとメッセージ音が聞こえてきた。
視界の右上にあるアイコンを開くと
『チュートリアル終了です。
報酬
【SP5】【1000エル】』
と表示されたパネルが現れた。
「えっと……」
初戦の敗北で気合いが入りすぎていた為か、何ともいいずらいスッキリしない一勝を終える。
取り敢えずメニューウィンドウを開き、SPを速度強化に振りLv5にすると、速度強化のレベルがMAXと表示された。
これでレベルアップ時にAGIに5の補正が入る筈だ。
不完全燃焼のままでは終われない!と、狩りを再開しスライムを倒しながら暫く奥へ進んでいると、スライム以外のモンスターが現れた。
「……いぬ?」
ファンタジーの定番で言えば、次のモンスターはウルフなんだけど……目の前に現れたそれは何処からどう見てもワンちゃん。
草に鼻を近づけ、クンクンと何かを探すように彷徨いている。
暫く見ていると此方に気付き、グルルルルと威嚇をしてくるワンちゃんに「あぁ、やっぱりモンスターなんだね…」と呟きながらも短剣を構えた。
バッ!と跳び掛かってきたワンちゃんを、油断することなく待ち構えその横っ腹をすれ違い様に、短剣で斬りつけるように振るう。
キャイン!と鳴いたワンちゃんは着地するよりも先に、ポリゴンとなって消えていった。
「ふぅ、結構早かったな…少しビビったよ」
パッパラー!と軽快な音が聞こえ、視界の端に目を向けると、手紙マークのアイコンが現れていた。
『レベルアップしました。』
開いてみると、どうやら今の戦闘でレベルが上がったみたいで、僕はすぐにステータスを開いてみる。
ユキ
Lv2
女
兎人族
HP10(+5)
MP10(+5)
STR0(-5)
INT2(+1)
VIT2(+1)
MND2(+1)
DEX6(+1)
AGI79(+12+2+5)
LUK4(+1)
【BP3】
偏ったステータスだなぁ……と見つめながらも、BPをAGIに全部振る。
これでAGIの合計が82となった。
(取り敢えず一回街に戻ろうかなぁ?)
レベルアップした事だし、新しいスキルも見てみたいので一回街に戻る事にして、僕はスッカリ離れていた街の門に向け歩き始めた。