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暫く街中を歩いていると、建物ばかりに目がいっていたがプレイヤーらしき人達から視線を集めている事に気がついた。
それも当然だろう。
見た目的に幼女の僕が歩いていれば……。
しかし、それは違ったみたいでよく見渡してみれば僕と同じくらいの背丈のプレイヤーも結構いるみたいだ。
それでも視線は僕に集まっていて、何だが悪い事でもしたような気分になる。
(な、なんで皆んな僕の方ばかり見るのさ。なにか可笑しいかな?)
自分の身体を触ってみるが、初期装備である布の服を着ているだけで武器すら装備していない。
(あれ、そう言えば初期装備ってこの布の服だけなのかな?)
僕は武器とか無いかなー?とメニューウィンドウを開こうとして
(あれ?どうやってメニューウィンドウって開くんだろう?)
ナビィさんがなにか言ってたかなぁ?と首を傾げながら考えていた為、遠くから此方を見ていた男プレイヤーが、歩み寄って来ていたのに気づけなかった。
「おい」
「ん?はい、なんでしょうか?」
突然声を掛けられ、声のした方へと見上げる。見上げる。見上げるってデカイなぁ!
僕の2倍以上あるんじゃ無いの?てくらいの大男に吃驚していると
「いや、なんか悩んでる様だったから……」
おっと、親切な人なのかな……?
「それが、メニューウィンドウの開き方が分からなくって困ってたのですよ」
「あ?そんなもんチュートリアルで教わっただろう?」
チュートリアル……?
「えっと、チュートリアルというのはどこに行けば良いのでしょうか?」
そう質問を返すと、男はハハァーンと顎に手を置き、此方をニヤニヤと見下ろしてきた。
「視界の右上に注目してみな?」
男に見下ろされながらも、視線を動かして見ると、何やら手紙の様なアイコンらしきものがあった。
「それはお知らせみたいなもんだ。新情報なんかが、入ってくるとそこにアイコンが現れる。んで、それを意識して見ることで、その詳細を見ることができるはずだ」
男の言う通りにしてみるとピコンと音が鳴り、目の前にあのパネルが現れた。
『チュートリアルを受けましょう』
一度パネルから男へと視線を戻し、「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えた。
「っ!?あ、あぁどういたしまして……?」
ここでチュートリアルを受けても良かったけれど、周りからの視線が先程より多く、そして寒気がするほどジロジロと見られている事に気がつき場所を変える事にした。
「それじゃお兄さん、ありがとうございました!」
ぺこりとお辞儀をしてその場を去ろうとした時、お兄さんから一つ質問をされた
「君は生産職を目指しているのか?」と……。
クルッと回転し、お兄さんに向き直る。
(やっぱり、この見た目だとそう思われちゃうんだろうなぁ)
「いえ、バリバリの接近職でトッププレイヤーを目指してます!」
僕の言葉にポカンと、言葉を失ったお兄さん。
よく見ればお兄さんだけでは無く、周りのプレイヤー達も驚いているみたいだ。
(そう、この意外性。僕だけのプレイスタイル!)
周りの反応が期待していたものと同じだった為嬉しく思いながらも、早くこの力を試してみたいと足早にその場を去る。
「兎人族でトッププレイヤー……?無理だろ……」
兎耳を生やした幼女が居なくなった後で、そんな言葉を誰かが呟いた。
しかし、あの言葉が本気だったと知るのがすぐ先の話になるとは、この場に居た誰もが思ってもいなかった。
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「ふぅ、この辺でいいかな?」
暫く街中を適当に歩いていると広場に出てきた。噴水やベンチがあり緑豊かなとても綺麗な場所だ。
周りを見渡してみるも他のプレイヤーは居ないみたいなのであの視線に晒されることも無いと安堵する。
「それじゃぁチュートリアル、いきますか!」
パネルに触れると表示されていた文字が変わった。
『メニューウィンドウを開きましょう。メニューウィンドウを開くには、オープンと考えながら左手を縦に振ってください。閉じる場合はクローズと考えながら振ってください』
(成る程……オープン!)
早速やってみると、半透明で青白く光るウィンドウ画面が現れた。
[装備]
[アイテム]
[ステータス]
[スキル]
[フレンド]
[ギルド]
[マップ]
[クエスト]
[オプション]
[ログアウト]
連なって現れたメニューウィンドウに感動しながら、試しにログアウトに触れてみる。
『ログアウトしますか?Yes/No』
「おぉ!!」
アニメなんかではよく見た事のある光景に、僕の興奮はうなぎのぼりとなる。
ピコンとメッセージ音が鳴り、視界の右上を確認すると、手紙のアイコンが現れていた。
一先ずログアウト画面はNoに触れておき、アイコンを表示させる。
『続きまして初期装備を選び装備をして下さい。
メニューウィンドウの[装備]で行う事が出来ます。
[大剣][片手剣][短剣][戦斧][大槌][槍][鞭][拳][弓][弩][片手杖][両手杖]
(っと流石に武器の種類も多いなぁ)
迷う事なく短剣を選び、メニューウィンドウを操作して装備を開く。
装備画面では[武器]や[頭]などと書かれた四角い枠があり、[武器]に触れて見ると横にもう一つの画面が現れ、そちらには先程選んだものと思われる短剣がポツンと存在していた。
短剣に触れると新たに僕のキャラクターが映る画面が現れる。
(これは……なんだ?)
チョンと触れて見ると、画面内のキャラクターが触れた場所に短剣を装備した状態となった。
因みに頭を触って見た為、大変可笑しな状態だ。
『これでよろしいですか?Yes/No』
Noに触れて最初からやり直した。
今度は腰に横向きでセットしてみる。
『これでよろしいですか?Yes/No』
Yesに触れるとすぐに腰に重さを感じた。
身体を捻って確認してみると、しっかりイメージ通りに短剣が装備されてある。
満足げに頷いていると再びメッセージ音が聞こえ、視界右上にアイコンが現れた。
『モンスターを倒してみよう!』
パネルを確認すると、表示されている文字に思わず心臓が跳ねた。
ついにこの時がやって来たみたいだ。
もう一度パネルに触れるとパネルが姿を消し、代わりに矢印が目の前に現れた。
(この矢印がさす方向に行けば良いのかな?)
矢印に先導され街中へと戻ってきた僕は、再び周りからのジロジロと見られながらも先に進んでいく。
「兎だ」「あの種族って使えなかったよな?」「ゴミ種族じゃねーか」「ネタプレイか?」「生産職になるんじゃね?」
ヒソヒソと陰口を呟かれるが、気にすることなく街中を突っ切った。
街を囲っているのか、50メートルはありそうな砦へと出てきて、門番さんに頭を下げて外に出る。
「わぁ!」
辺り一面に広がる草原。
遠くの方には大きな山々が見え、サァーと吹いた風が草木の匂いと共に頬を撫でた。
「どうだ?嬢ちゃん、気持ち良いだろう?」
後ろから門番さんが声をかけてきた。
視界を目の前の光景から外すことが出来ず、僕は無言で頷いた。
視界の端ではプレイヤー達がモンスターと戦っている。
でもそんな事は今の僕には些細な事だった。
遠くの山々を見つめ、ここで再び決心をした。
(絶対!トッププレイヤーになってあの先を誰よりも早く……!)
再び吹いた風が、まるで僕を歓迎してくれているかのように頬を撫でていった。