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「それじゃ次は構え方について教えるね」


ロイさんは短剣を右手に持つと、刃先をこちらに向け右足を一歩前に、左足を下げた殆ど半身しか見えない状態で構えた。


「これが基本の構えだよ。他の武器と比べて攻撃範囲の狭い短剣では、先手を取られることが多いからね。なるべく心臓を相手から遠ざけた方がいいんだ」


なるほど、先に攻撃されることを考えて、致命傷を成るべく避ける構えな訳だ。


「まぁ、一度攻撃を防げれば短剣ほど近距離戦で有利な武器は無いと言ってもいい。攻撃範囲が広い武器は大振りの攻撃がメインだから、短剣は近づけば近づくだけ優位に立てる。モンスターにとってもそれは同じさ」


ロイさんがとても誇らしげに短剣について語るのを見て、彼がどれだけ短剣を好いているのかがわかった。


「短剣を使う者に一番必要とされるのは足運びだよ」


……足運び?

疑問に思った僕に、ロイさんは微笑みながら説明の続きを話していく。


「元々致命傷になりにくい短剣では手数で勝負する事になる。それは勿論武器を振るう速さも重要になるけど、何より相手との間合いを自由に操れる足運びが勝負の鍵だ」


「間合いを自由に……ですか?」


「あぁ、例えばーーー


フッと今まで会話をしていたロイさんが、突然目の前から姿を消した。


ーーーこんな風にね」


耳元で囁かれた言葉に、思わす心臓が飛び出そうなほどビックリする。

バッと横に振り向くと、此方を見下ろすロイさんと目があった。


「は、はやいっ!」


全く目で追えなかったロイさんの動きに、僕は勿論。隣にいたナビィさえも驚いている。


「今のはちょっとズルをさせてもらったけど、こんな風に相手との距離を一気に縮めたり、危険に思った時一気に離れたり出来る様になれれば、短剣使いが負ける事なんて無に等しくなるんだ。その為に重要なのが足運びって訳」


「ちょ、ちょっと待ってください!それならユキ様が一番得意としている事ですよっ!」


ナビィが胸を張り、自慢する様に言った。

確かに、僕はAGI特化の速度重視だけど……僕はロイさんの説明を聞いてただ単に速さだけの問題では無い様な気がしていた。


「ふむ……そういえば、ボクはまだ君の実力を見ていなかったね」


ロイさんはメニューウィンドウを操作して、少し離れた所に案山子の様な物を出現させた。


「ユキさん、アレに向かって全力で攻撃をしてもらえるかい?」


「わ、わかりました」


ロイさんに案山子を指差しそう言われ、僕は案山子に向け駆け出すと右手に持った短剣で案山子胴体を斬り払った。


「へぇ、これは驚いた。君の様な初心者にどうしてバロンがやられたのかと思っていたけど、その速度……そしてあの案山子を一撃で破壊する攻撃力……」


「ふふん、どうですかっ!これがユキ様の実力です!」


まるで自分の事の様に誇らしく言うナビィに苦笑を浮かべ、ロイさんからの評価を待つ。


「確かに……ユキさんの実力は認めよう。同時にこれ程の実力者が、と惜しい気持ちでいっぱいだよ」


「ど、どういう意味ですかっ!」


あぅ……ナビィに台詞を取られてしまった。

少し出遅れてしまったけど、僕は改めてロイさんが惜しいと思った理由を聞いてみた。


「君は確かに早い、それも驚異的な速さだよ。だけど、動きに無駄があり過ぎるんだ。例えば今の動き……一歩目を踏み出してから速度に乗るまでに少し時間がかかっていた。案山子に近づいた時も間合いが合わずに速度が落ちていた。ボクからしてみれば君の動きはただ早いだけで、素人そのものだったよ」


……はい、グゥの音も出ません。

ロイさんの言う通り、僕が速き者の効果を受けるのは、少しのラグか生じる。

それは僕の初動が遅い証拠だし、目標物との距離感も歩数を合わせるのに苦労していたのだ。


まさか一度見ただけで見破られるなんて……。

速さには少し自信があったけど、少し慢心していたみたいだ。


『絶対追いついてみせますっ!!』


ミミさんに告げられた言葉を思い出し、あの時の気持ちを思い出す。


「ロイさん!僕はまだまだ強くなりたいです!いえ、ならないといけないんです!指導お願いしますっ!」


勢いよくロイさんに頭を下げお願いをする。

1秒、2秒と誰も言葉を発さず、静かな時が流れた。


「ふふ、ボクとしても君の様な才能あふれる子に指導が出来るなんて願っても無いことさ。本来ならば指導程度なんだけど、君にはボクの技術の全てを伝えよう」


頭上から告げられた言葉に、下げた時と同じくらい勢いよく頭を上げる。

ロイさんの顔を見つめ、嬉しさが心の内を占めていくのを感じた。


『特殊条件を満たした為、称号[ロイの愛弟子]を獲得しました』


「あ、ありがとうございます!…やったぁああっ!」


目の前に現れたパネルを見て、嬉しい気持ちを抑えることを忘れ叫んでしまった。




はしゃいでいた僕は気づかなかった……いや、気付くことができなかった。

この時、斜め後ろから見守っていたナビィが……寂しそうに笑っていたことに……。

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