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数メートル先で復活したミミさんは、直ぐに僕の方へと駆けつけてきた。
「す、すごい!!何が起こったのか全くわからなかったけど…とにかく凄いです!さすがユキさん!まさにさすゆきです!!」
う、うん。
凄いのはミミさんの興奮度だよ…?
それに”さすゆき”って……?
その後も僕を誉め殺ししてくるミミさんに、無理矢理話を変えようと魔法の事について聞いてみた。
「魔法ですか?そうですね…まず魔法には3つの種類があるそうです」
ミミさんが右手の指を3本立て、1度全ての指をたたむと、再び1本の指を立てた。
「1つは魔導法。これは一般的によく知られている魔法のことですね。火、水、風、土、光、闇などの属性があり、数ある詠唱を唱えることでファイヤーボールなどの攻撃系や、ファイヤーウォールなどの防御系と様々な魔法が扱えるようになる攻撃型の魔法です」
ミミさんが2本目の指を立てた。
「2つ目は支援魔法です。ヒールなどのHP回復や、マヒなどの状態異常から回復させる魔法で、他にもパーティーの攻撃力や防御力を上げたりとパーティーを組んだ時に1人居れば生存率が格段と上がる支援型ですね」
ミミさんはふぅ…と一息つくと3本目の指を立てた。
「3つ目は精霊魔法と呼ばれるものです。此方は種族をエルフ、ダークエルフにすると習得可能になるそうで、魔力と引き換えに精霊の力を借りれるようになるそうです。魔導法より威力が高いそうですが、その分詠唱が長くなるそうですね」
説明をしている間に興奮は収まったのか、ミミさんは落ち着きを取り戻してくれたようだ。
「この様な説明しかできませんが……」と申し訳なさそうになるミミさんに、「わかりやすかったです、ありがとうございます」と笑いかける。
するとミミさんは僕の方を見たまま数秒間静止して、次の瞬間「かわいーー!天使の様だわっ!」と豊満な胸て僕の頭を抱きしめてきた。
「わっぷ!?み、みみミミさんっ!?む胸がっ!モガッ?!」
ミミさんに胸が当たっている……寧ろ包まれていると教えようとするが、僕の顔はその柔らかな2つのスライムに押し当てられて、モガモガと彼女には聞き取れないであろう声しか出せなかった。
なんとか抜け出そうと暴れるが、彼女の何処にこの様な力があるのか……僕が全く緩まないミミさんのホールドに諦めかけているとーーー
「あーーっ!!何してるんですかっ!?ユキ様から離れてくださいっ!」
「いたっ!ちょ、髪引っ張らないでっ?!」
ーーー何時もの様にナビィが助けに来てくれた。
「あ、ありがとう。ナビィ」
漸く抜け出すことに成功した僕は、頭の上に飛んできたナビィに感謝の言葉を伝える。
「まったく!皆さんユキ様にベタベタと触りすぎですっ!」
どうやら僕のために怒ってくれている様で、その可愛らしい頬っぺたをプクーと膨らませているのだろうなぁと予想することが出来た。
「あぁ!私としたことが…ユキさん、ごめんなさい」
ミミさんもやり過ぎたと反省しているのか、シュンと背中を丸めて謝ってきた。
「もう大丈夫です、今度から気をつけて下さいね」
結局の所、誰もそんなんてしてないのだし、普段の僕なら羨ましい…とか思ってしまう様な出来事だったのだ。
ただ、いざやられてみると恥ずかしさとか、息苦しさで全然幸せにはなれなかったけれど……。
苦笑気味に返した僕に、「やっぱり天使……」とミミさんが呟いたのがうさ耳によってハッキリと聞き取れた。
今後は、ミミさんと会う時に藍さんと同じ心構えで挑まないといけないのかもしれない……。
パンパンッ!
公園中に大きな破裂音が2回連続で鳴り響いた。
それはよく学校などでも、先生が生徒の注目を集める時などに使う手を叩いた音で、僕たちは自然と音の発生源へと顔を向けていた。
当然の事だけど、手を叩いたのは今まで話に入ってこなかった矛盾さんだった。
「盛り上がっている所すまないが、顔合わせも出来たことだし、今日はこの辺で解散にしよう」
何故か元気を失った様に感じ、僕が心配して声をかけようとすると、僕よりも先にミミさんが、如何にも嫌だと言いたそうな顔をし不満を口にした。
「えー…もっとユキさんとお話ししたいから、用があるならあんただけで帰りなよ」
しっしっ!と手を払い、矛盾さんを追い払おうとするミミさんに彼は「ちょっと耳を貸せ」と僕から少し離れた場所へと移動する。
そして2人だけで会話を始めたが、聞く気が無くとも”うさ耳”によって強化された聴力は、2人の会話を僕のところまでハッキリと届けてしまった。
僕は気になりつつも盗み聞きしている様で悪い気持ちになったので、頭に手を伸ばし耳を塞いだ。
これでうさ耳のスキルが発動する事は無くなるのだ。
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ユキさんから少し距離を置き、矛盾は「この辺でいいか……」と呟くと私と対面する形で振り返った。
「なによ、帰るならあんただけで帰ればいいじゃない…」
「俺はそれでもよかったんだがな……お前、ユキさんがさっきのPvPで何したか分かったか?」
「むっ…?それは…魔法じゃぁ無かったようだったし………移動系スキルでしょ?」
実際には何もわからなかったけど……。
可能性から考えれば移動系スキルが妥当な線だと思う。
「あぁ、俺も最初はそう思った。だがな…ユキさんはレベル26まで1つのスキル以外、習得してなかったらしい……」
「……それが何よ?兎人族なんだから筋力強化のスキルを………ぁ、」
その時初めて、目の前で真剣に話している矛盾の言いたい事がわかった。
「気づいた様だな……そう、あんなに強力な移動系スキルなら、何故「種族を兎人族にしたのか……」
私は思わず台詞を奪う様に、彼の言葉に被せて発言した。
もし、自分があの距離を一瞬で0にしてしまうスキルを持っていたなら、どんな種族を選ぶか……。
そんなの勿論STR特化型に決まっている。
レベルアップ毎に態々STRを削られる兎人族なんて、以ての外じゃない!
「……お前も知ってるだろ…?兎人族がAGI特化の種族だって事……」
「っ!?」
その言葉を聞いて、頭に電気が流れたかの様にショックを受けた。
「ちょ、ちょっとまって!それじゃ26レベまで上げていたのもAGIって事っ!?」
頭に浮かんだ1つの可能性を、否定したくて、叫ぶように聞き返していた。
「……俺も考えたくはないが、そうだとしたら……あの瞬間移動の様なものが、ただ単にユキさんの移動速度だとしたら……」
……そんなの……次元が違いすぎる……っ!
「「………」」
あまりの事に声が出ず、私達の間に沈黙が訪れた。
考えてしまうのは先程の戦闘の事ばかり……。
あれが…スキルでも何でもない、ステータスによるものなら、私は恐らく…この先どう足掻こうがユキさんに並ぶ事はないだろう……。
このゲームを始めて、偶々運良くユニークスキルが手に入り、私ならユキさんと共にこのゲームの攻略へと、彼女の力になれると思っていた。
サービス開始から1日もかからず有名になってしまった、彼女の後を追いかけようと思っていた……。
いずれ共に最前線でトッププレイヤーとして、パーティーを組んでやるっ!と夢見てた。
なのに……。
「……王都の中に、ギルド作成の申請をする建物がある……」
沈黙を破り、矛盾がゆっくりと語り始めた。
「そこの隣に大きな教会があってな…最初に見た時、なんの為にあるのだろうって疑問に思い入ってみたんだ……。」
なぜ今そんな話をしだしたのか、理解出来ず、いつの間にか地面へと落としていた視線をあげる。
目の前に居た矛盾の瞳を見て……諦めかけていた心に小さな炎が宿った。
「そこはな、スキル還元を行っている場所だったんだ」
……いや、宿されたのだ。
彼の瞳に宿る燃え盛る闘志を……。
このまま終わって良いのか?と馬鹿にするような笑みすら…今は、その移された闘志の燃料にしかならなかった。
「ユキさんがこのゲーム内で最も速いプレイヤーなら…俺は最も堅く、そして最も火力のあるプレイヤーになってやる」
自身満々に言い放った矛盾に、諦めなんて消えていて悔しい気持ちでいっぱいだった。
直ぐに諦めてしまった私とは違い、逆に笑ってしまう彼の心の強さに……。
だから……。
「…馬鹿言わないで?1番の火力プレイヤーは私がもらうわ」
……だから、もう2度と彼には負けない。
心の中で私はそう誓った。




