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PvPをやる事となった僕たちは、カフェテラスの裏側にある公園へと足を運んだ。

元々彼らの目的がPvPだったのなら、戦いやすい場が近くにあるカフェテラスを集合場所に選んだのも納得がいく。


20メートル先で僕と向かい合って立つミミさんは、赤色のローブを羽織り魔法使いっぽい雰囲気を醸し出していた。

その真剣な眼差しを受け、手の平にジワリと汗が滲む。


『[mimi]からPvP・決闘モードの申請があります。受けますか?Yes/No』


目の前にミミさんからのPvP申請が送られてきた。

決闘モードとは、どちらかのHPが0になるか敗北宣言があるまで終わらない、3種類あるPvPの1つらしい。

他2つは、一撃モードと呼ばれるマトモな攻撃を受けた時点で終了するモノや、ハーフモードと呼ばれる、どちらかのHPバーが半分になると終わるモノがあるそうだ。

つまり決闘モードとは3種類の中でも唯一必ずどちらかが死んでしまうモードで、勿論死んだ方はデスペナルティーを受けなければならない。

そんな決闘モードを選んだからこそ、ミミさんがこのPvPに本気である事が伺えた。


僕は目の前のパネルに手を伸ばし、迷わずYesの方に触れた。


『PvPの対価をお選びください』


次に現れたパネルを、何も選ぶ事なく先に進ませる。

これで勝負に負けてしまうと、僕は持ち金の1割を失う事となり更にデスペナルティーを受ける事となった。


ミミさんも直ぐに先へと進ませると、PvPの開始を告げるカウントダウンが目の前に現れた。


10.9.8……と減っていく数字の奥へと視線を向けると、ミミさんはメニューウィンドウを操作して杖を実体化させると、それを胸の高さで地面と平行に構えていた。


……2.1.0!


カウントダウンが0になった瞬間、僕は全力で地面を蹴りつける。


一瞬で僕以外が遅れたように称号の効果が発動して、20メートルあったミミさんとの距離も僕の体感時間では、3秒もかからず到着する。

今の僕の体感時間が1秒を3秒にしてしまうなら、彼女からしてみれば1秒ほどの速度で僕が急接近した事になるのだろうか…?


そんな疑問を抱きながらも、目の前まで接近した僕は、躊躇する事なくミミさんの身体にXの形で2本のクリスタルダガーを斬りつけた。


グンッ!と攻撃を受けたミミさんのHPバーが一瞬で真っ黒色に染まると、彼女の身体は足元からポリゴンへと成り始めた。


『YOUWIN』


目の前に現れたパネルを無視して、ミミさんへと視線を向ける。


「これが今の僕の全力です」


彼女の瞳がゆっくりと下りてきて、僕の姿を捉える。

茫然と此方を見るその表情は、「あり得ない」と語っているようだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やめておいた方がいいと思うのです」


右頭上でフワフワと飛んでいるナビゲーションピクシーが、心配そうな目で向かい合って立つ2人を見ている。

彼女はユキさん専属のナビゲーションピクシーで、その名をナビィと呼ぶらしい。


「なんだ、ユキさんが心配なのか?」


そんな事あり得ないとわかっていながらも、俺は冗談半分で彼女に質問してみた。


「そんなわけないじゃないですか」


そう返ってくるのはわかっていたが、俺はハッキリと言い切ったこのピクシーに苦笑する。


今、向かい合って立っているのは、俺が知る数少ないユニークスキル持ちの2人だ。

この世界(NWO)で、たった一つしか存在しないスキルを持つ者同士の戦い。

本来なら激戦が予想されるだろうその戦いは、恐らく一方的に終わってしまうだろう。


彼女らの内ユキさんは、ゲーム開始から5時間足らずでエリアボス、フォレストベアーを討伐し、15時間程で始まりの街から2.3をすっ飛ばして4番目の街、ファースト王都までたどり着いてしまった方だ。


ユニークスキルは確かに強力な力を持っており、俺も運良くその力を手に入れる事が出来た為、彼女に続こうと最初のアナウンスの後直ぐにフォレストベアーへと挑んだ。


しかし、その結果は惨敗。


当時Lv4だった俺はフォレストベアーに反撃する間も無く、ゲーム開始から初めての死に戻りを体験した。

漸く討伐できるようになったのは、彼女が王都に到着したと知らせが流れた1時間後の事だった。

しかもパーティ上限である6人で挑み、全員のレベルが10を超えていたのにギリギリの勝利となったのだ。


一体、ユキさんがどんなスキルを持っているのか……。

俺だけで無く、このゲームをしているプレイヤー全員が同じ事を思っているだろう。


「恐らくこの勝負は1秒もかからず終わってしまいますよ……?」


このピクシーの言うことが意味わからず、「……は?」と思わず聞き返してしまった。


「貴方達はそもそもが間違っているのですよ。ユニークスキル持ちが必ずしも強いわけでは無いのです」


俺の頭はピクシーの言葉で混乱していく。

彼女の言っている意味が理解できない、だってその言葉だとスキルがユニークと同等の力を持っていることにーーー


「ユキ様はもともとユニークスキルを持っていませんでした」


ーーー……。


「ユキ様が最初に手にしたスキルは、このゲームの運営達にとっては”強いけどユニークほどでは無い”って感じの物だったそうです」


頭が混乱して何も言えなくなった俺を知ってか知らずか、ピクシーの独り言はどんどん真実を語っていく。


「本来ならユニークですらなかったスキルは、ユキ様の手によって100%以上の力を発揮しました。それは運営の方達にとって危機的状況だったのですよ。今や、このゲームをしている者の中にユキ様の名を知ら無い者はいないと言っても過言ではありません。そのユキ様のスキルがユニークではなく、誰もが手にすることが出来る強力なスキルだったなら……?ゲーム内のプレイヤー達がその事実を知る前に、運営はユキ様のスキルをユキ様だけのスキル、すなわちユニークスキルへと昇格させたのです」


……ただのスキルがユニークスキルに昇格?

そんな事が…あるのか……?

茫然とピクシーを見ていると、彼女(ナビィ)はチラッと此方を一瞥して、興味なさそうに再び向かい合う2人を……いや、ユキさんだけを見つめてはいた。


「私なんかを見ていていいのですか?もう戦闘が始まるようですよ?」


その言葉にハッとすると、慌てて視界を2人に戻した。

2人の間に現れていた数字が0になった次の瞬間、ユキさんの姿が俺の視界からブレて消え、次の瞬間mimiの目の前で2本の短剣を振り下ろした状態で静止していた。


(な……んだ…?何が、起こった?)


消えたと思えばmimiの目の前に現れて、短剣を振り下ろしていたユキさん。

一瞬、テレポート系の魔法かと頭を過ぎったが、詠唱も何も無く魔法を扱える方法など存在し無い為、直ぐに可能性から削除する。


(魔法でないなら移動系スキルか……?それなら攻撃だってBPをSTRに振ればmimiをワンキルするくらいの攻撃力だってあるかもしれない。スキルも筋力強化を習得していれば……)


俺がユキさんのスキル構成について予想していると、[ユキ]というプレイヤーについて情報を集めていた時に得た、ある情報を思い出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


128.ヤッピン

全然ユキってプレイヤーについて情報集まんねぇじゃん。



129.モフラーメン

ッス!

確信は持てないけど、さっき武器屋の前でユキちゃんって呼ばれてた幼女なら見たぞ。



130.にゃん吉

ついに有力情報キター!

で?どんな見た目だったの?



131.もち太郎

幼女と聞いて!



132.蒟蒻プリン

全く、このゲームじゃ見た目なんて幾らでも変えられるって気付かんのか?

……で?どんな幼女だったのさ!



133.モフラーメン

んー、確かうさ耳の生えた幼女だったと思う。



134.カンナ

また兎人族ですか?

それって誰かが見たっていう子と同一人物?



135.kei

っ!?あの子かっ?



136.蒟蒻プリン

でも兎人族ってSTRにマイナス補正つくんだろ?

AGI以外は+1だろうし、キツくないか?



137.ロリっ子

でもユキちゃんって呼ばれてたなら可能性は高いよね……。



138.カンナ

じゃぁ、兎人族の幼い女の子が居たら聞いてみます。

見かけたら情報下さいね。



139.ヤッピン

りょ。



140.蒟蒻プリン

了解でーす



141.もち太郎

ぐふふ、むしろ僕ちんが聞いてもいいよ?



142.モフラーメン

>>141

通報しました。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺が思い出したのは兎人族の特性、レベルアップ毎に強化されるステータスだった。


(STRにマイナス補正…移動系スキルならそんな重荷を背負う必要は無いよな………AGI特化の種族?…………まさか…?)


俺は1つの可能性にたどり着いた。

しかし、そんな事が可能なのか……?と否定する自分も存在し、俺は自然とピクシーに疑問の瞳を向けていた。


「プレイヤー名[矛盾]。ユニークスキル[覇者の一撃]を運良く手にした貴方は、防御主体のプレイスタイルでユキ様の次にエリアボス[フォレストベアー]の討伐に成功。今はレベル17とプレイヤー内ではトップクラスの実力を有している」


突然にピクシーが語り出した内容に、心が跳ね上がる。

何故?と聞き返す前にピクシーは「このくらいの情報、運営側の私には空気の様なものです」と何でも無い様に言った。


「あぁ、安心してください。個人情報ですので、言いふらしたりはしませんよ?ユキ様にだって話すことは無いと誓います」


続くその言葉に一先ず安堵する。

しかし安心したのもつかの間、ピクシーが此方を向いた為目が合い、ユキさんと一緒にいた時には想像すら出来ない冷たい目で見下ろしてきた。


「[長槍術][長槍技][大盾術][大盾技][筋力強化][防御強化][魔防強化]……控えを必要としなければなら無いほどのスキルを習得されているようですが、私達(・・)からすれば言いふらす価値もありません。貴方のようなステータスやスキルの方は腐るほどいらっしゃいますし」


その一言はトッププレイヤーを目指している俺にとって、とても癇に触る一言だった。

考えて作ってきた自分のキャラクターが馬鹿にされて、思わず頭に血がのぼる。

ピクシーを睨みつけ反論しかけた時、先に開いたピクシーの口から衝撃の事実を聞かされた。


「ユキ様が新しいスキルを習得されたのはレベル26の時でした。それまではたった1つのスキルに全てのSPをつぎ込んでます」


頭にのぼっていた血がサーと”落ちて”いくのを感じた。

先程予想ていたユキさんのプレイスタイルを再び思い出し、それなら今見たものは……と背筋が凍りつく。


「矛盾、すなわち最強の矛と最強の盾を目指しているようですが……今の貴方では矛も盾も圧倒的に脆く感じますよ?……ゲームだから派手な攻撃系スキルが欲しくなる気持ちは察します。…ですがそのようなスキルとステータスではトッププレイヤーなんて夢のまた夢では無いですか?」


そういってピクシーは此方に背を向けると、PvPが終了してその場で復活したmimiと話をしているユキさんの方へと飛んでいく。


ガリッと噛み締めたことで、歯が音を立てた。

力強く握りしめた手にが震える。


……もし本当に、先程のユキさんがスキルも何もなしの単純なステータスによるものだとすれば……、何かを極めることがトッププレイヤーへの近道なのだとすれは……


俺のキャラクターは随分と出遅れてしまったのではないか……?と、絶望にも似た感情が込み上げてきた。



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