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「ユキ様、ここのようです」
矛盾さんから送られてきたマップ位置をナビィに道案内をしてもらい、辿り着いたのは王都の北門近くにある落ち着いた雰囲気のカフェテラスだった。
店内を覗くとNPCらしき人がチラホラいて、その奥のテーブルに一際異色を放っている全身鎧装備の矛盾さんがいた。
「ーーーだーーないーーんとーーーーーでしょうね?」
「ーんとーだって、ーーーーてくれーーーユキさんーーーーなんーーう」
近づいて行くと矛盾さんの身体に隠れて見えなかったが、もう1人魔法使い風の装備を身につけた女の子がいた。
あの子が副マス候補の子だろうか?
何か会話をしてるみたいでうさ耳により普通なら余裕で聞き取れる範囲なのだが、2人の声より周りのNPCの話し声の方が大きくて、途切れ途切れにしか聞こえなかった。
「矛盾さん、お待たせしました」
一先ず僕を呼び出した張本人である矛盾さんに声をかけた。
鎧の頭が此方を振り返り、「おぉ、よく来てくれたね。待ってたよ!」と僕を見て立ち上がった。
矛盾さんが隣りの椅子を引いてくれたので、お礼を言いながらそこに座る。
もう1人の彼女にも挨拶をしようと思い前方を見ると、高学生くらいの少女が僕の顔をマジマジと見つめていた。
黒色の髪の毛をした、黒い瞳の女性だ。
左側から三つ編みにされた髪がたらりと垂れて、彼女の豊満な胸の上に乗っている。
背中から生えているコウモリのような翼から、彼女が魔族である事が伺えた。
「えっと……はじめまして、ユキといいます。こちらはナビゲーションピクシィのナビィです」
「はじめまして、ナビィです」
ぺこりと頭を下げながら、簡単な自己紹介を済ませる。
彼女は僕が自己紹介を終えて暫くの間ポカンと此方を見つめていたが、いきなりバッ!と立ち上がると勢いよく頭を下げてきた。
「は、はじめまして!!えっと…わたしっ!みっ、ミミと申しますっ!っと……こ、この度はわざわざ足を運びいただきありがとうございます!」
かみかみで緊張しまくりのミミさんは、自己紹介が終わっても頭をあげようとしない為、見兼ねた矛盾さんが「おいおい緊張しすぎだろ」と笑いながらツッコミをいれた。
「うるさい、キルするわよ」
キッ!と睨みつけるようにして顔をあげたミミさんに、冷たい声音で言われた矛盾さんは、「おー、こわ」などと軽い感じで茶化していた。
「まぁまぁ……それよりミミさんってもしかして今さっきフォレストベアーを討伐した……?」
「そうです!パーティを組んでではありましたが、さっき漸く討伐が完了しました」
やっぱり……と先ほどクマさんを倒したmimiというプレイヤーが、目の前のミミさんである事を知り「おめでとうございます」と賛辞の言葉を送る。
「…それで?僕に用事があったのですよね?」
自己紹介も一区切りついたところで、僕は今回呼び出された理由を聞く事にした。
ミミさんは気持ちを落ち着かせるためか、一つ息を吐くと真剣な眼差しで此方を見つめてきた。
「……ユキさん、私とPvPをしてもらえませんか?」
そのお願いに、僕は直ぐに答えることができなかった。
PvPとはプレイヤー・バーサス・プレイヤーの略で、お互いの了承のもとプレイヤー同士が戦闘を行う意味だ。
このNWOではそのPvPをある一定の広さがある場所なら何処でも可能としており、メニューウィンドウのオプションから簡単に行うことができる。
しかしPvPにおいて重要なのは、如何なるPvPでも対価を失うと言う事。
対価とは敗者から勝者にへと送られる戦利品のようなものだ。
申請した方とされた方の両方がそれぞれ設定する事が出来、未設定ならば敗者が持ち金の1割を失う事になり、そのお金を勝者が得る形となる。
勿論アイテムなども設定出来るため、この先攻略が進んでいくと同時にレアアイテムなどが出回ると、この機能を利用したPvPが行われる事が増えていく事間違いないと予想できる。
しかし、まだ始まって1日位しか経っていないのにPvPとは……どんな意図があるというのだろうか?
「……賭ける物は何ですか?」
脳裏に僕が身につけている装備達が過ぎった。
先ほどこれらの価値を知ったばかりだったので、思わず彼女がこの装備を奪おうとしているのでは?と考えてしまったのだ。
「あっ!い、いえ…対価には興味はないんです。私が知りたいのは貴女、今このゲームにおいて他の追随を許さない圧倒的な力を持った、ユキというプレイヤーが知りたいのです」
誤解されてしまったと、慌てたように説明をしてくれたミミさん。
しかし待ってほしい。
確かに僕は始まりの街からいきなり王都に来てしまったりと、ゲームシナリオを無視した行動をしてしまった。
だけど、それは他のみんなだってできる事では無いだろうか?
それぞれの人達がそれぞれのプレイスタイルで、このゲームに挑んでいるのだ。
僕一人でできた事だ…パーティーを組めば僕なんかよりずっと早く王都までたどり着けたのでは無いだろうか?
その事を2人に伝えると、困った様な半笑いが帰ってきた。
「確かに、ユキさんの言う事は間違っていません。私も…キャラクターメイキングの時に運良くユニークスキルを得る事が出来て、それが最大限の力で発揮されるように色々と悩みながら種族、スキルを選びました」
ミミさんがユニークスキルを得たときに…いや、このゲームを始めたときに、どの種族でどのスキルが一番正しい選択なのか、悩んだ事を話してくれた。
「それでもっ!!」
眉を寄せ、悔しさと混ざりながら告げられた言葉が僕の耳に届く。
「王都周辺のモンスターたちは、私の魔法ではHPを僅かに減らしただけで……とても勝てる勝負ではありませんでした」
「俺も、自慢の防御力が数回攻撃されただけで死んでしまったよ」
「スキルなら…ユニークスキルなんて最高級の物があるはずなのに……15時間で4つ目の街に辿り着いた貴女と、先ほど漸く最初のエリアボスをパーティで挑み勝てるようになった私の差を……知りたいの…」
「……俺も知りたいな。君の力がどれほどの物なのか、どんなスキルを持っているのか、直接この目で見てみたい」
「だけど、それはマナー違反だって、わかっているわ…だから、貴女とPvPをしてその力を体感させてほしい」
…………。
真剣に語る2人の熱意が伝わってきた。
彼らは本気でこのゲームに挑んでいる。
誰よりも先に、新しい地へ行きたいと願っている。
僕もそれを願い、そして考えた。
最初に思い描いていたプレイスタイルを捨て、どうしたらこのスキルの力を100全引き出すことが出来るのか…。
どうやら僕のプレイスタイルは、周りから見れば驚異的なモノだと思われていることも理解した。
彼らとこうして直接話し、聞いて、その思いに不謹慎ながらも嬉しさがこみ上げてきた。
今、僕がこのNWOの世界で、一番のプレイヤーだと言うのなら……それは、僕がなりたかったトッププレイヤーであるという証拠なのだから。
(でも……これじゃぁちっとも安心できないな)
目の前の2人を見て、その瞳に宿る想いを感じて、僕は思った。
少しでも気を緩めば、彼らは直ぐに追いついてくる。そしてそのまま突き放されてしまう…と。
(ははっ、やっぱ一筋縄じゃいかないかな?)
僕はニヤリと口角をあげ、不敵に笑ってみせる。
「そこまで言われたなら逃げるわけにはいかないよ」
いずれ共に最前線で戦う事になるであろう彼らに、今の僕が出来る最大限を見せてやろう。
「いいよ。PvPをやろう」
指をくわえて待ってるなんてしない。
君たちが追いつこうとするなら、僕は全力で突き進んでやるまでだっ!




