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一瞬の浮遊感の後、僕は再びNWO内の世界へと降り立っていた。
目線が幾分か低くなり、周りの建物が凄く大きく感じる幼女のアバターは未だ違和感を感じることがある。
目の前の街並みは昨日初めてログインした時に見た、始まりの街とはかけ離れており、巨大な建造物が幾つもあり少し離れた場所にはお城だってあるのが見えた。
ここに到着した時は既に夜となっていて、あまりよく街並みが見渡せなかったけど、昼となった今は始まりの街との規模の違いにとても驚いてしまった。
少しすると隣からポンっと音を鳴らしてナビゲーションピクシィのナビィが現れた。
「おはようございますユキ様」
ぺこりとお辞儀するナビィにおはようと返して、その時に視界の右上にアイコンが幾つか溜まっているのに気がついた。
『藍様よりフレンドメールが届いています』
内容を確認するためにパネルに触れてみる。
『藍
サスユキ!ウチの想像の斜め上を行ってくれるね!今日はリアルで友達と遊ぶ約束があるから夜にまた会おうね!』
サスユキ?……まぁ内容を理解した僕は、メールでも元気いっぱいの藍さんに苦笑し、夜に会う時に何て言おうかなぁと思考する。
そのまま二つ目のアイコンを確認すると、次はレイさんからのようだ。
『レイ
第4の街到着おめでとう。少し話がしたいが昼は予定があるので夜に会ってほしい。またログインしたら連絡する」
こちらも実にレイさんらしい内容だ。
僕は2人に了解です。と返信しておき、次のアイコンを開いた。
『ユキ様の習得されているスキル[速撃]がユニークスキルへと変更されました』
これは昨日ナビィから説明があった通りだ。どうやら変更が無事に終了したらしい。
そして、最後のアイコンを開いてみる。
『86人のプレイヤーからフレンド申請があります。確認しますかYes/No』
「わぁ、ユキ様人気者ですね!」
おぉぅ…いきなりフレンド申請て……僕はYesに触れて、当然名前も聞いたことのない知らない人達からの申請を全て断った。
「よし、それじゃぁ今日は街の探索から始めようか!」
「はい!どこか行きたい場所はありますか?」
「うーん…取り敢えずブラブラ歩いてみようかな」
ナビィと会話を楽しみながら街中を歩いていると、僕以外のプレイヤーの姿がちらほらと確認できた。
「あの方達はユキ様が起動させた転移門で此方に来たのでしょうね」
「あー、アレかぁ。ナビィに言われて触れてみたら急に起動してビックリしたよ」
転移門は生産職などの戦闘向けじゃないプレイヤーの為に用意された街移動の為の手段で、使用するには距離に応じたお金がかかるらしい。
僕みたいに徒歩で移動すると何時間もかかる道のりを、一瞬で移動できる為使用するプレイヤーは数多くいそうだ。
「すみません、少しいいですか?」
街を暫く歩いていると、突然鎧を着込んだプレイヤーらしき人に呼び止められた。
「はい、なんでしょうか?」
頭まで鎧で覆われていて、どの種族かすらわからない。
背中には槍がかけてあり、左腕には盾を装備していてまるで騎士の様な格好をしていた。
「兎人族の幼女、君がユキさんかな?そちらはナビゲーションピクシィ?もう持っているとは……」
「そうです、この子はナビィです……あなたは?」
「あぁ、これは失礼いたしました」
謝罪と共に頭を覆う兜を外すと、金髪のイケメンさんが現れた。
「俺の名前は矛盾。ユニークスキルを手に入れた幸運の持ち主の1人だよ」
いきなりのユニークスキル保持者の出現に、目をパチパチさせて目の前のイケメンさんを見つめる。
身長はおよそ180はあるだろうか、かなりの高身長で作られた彼の種族は恐らく現人族だろうか。
外ハネした金髪とクッキリ二重の瞳、スッと通った鼻筋と見事なイケメンフェイス。
「それで…ご用件はなんですか?」
「実は君が王都を解放してくれた事でギルドシステムが解放されたんだ。それで、俺のギルドに君をスカウトしにやってきわけ」
ギルドとはプレイヤー同士が集まって作る事ができる組合のようなものだ。
それがここファースト王都にて作る事ができるようになり、矛盾さんは自分のギルドを作ろうと思っているそうで、そのギルドに僕を誘いに来たらしい。
「どうかな?出来れば副マスとしてお願いしたいのだけど……」
副マスっていうのは副ギルドマスターの略だろう。
他のゲームでもギルドのシステムは数多く存在するし、ギルドマスターの事をギルマスと呼び副ギルドマスターを副マスと呼ぶ事は多々ある事だ。
「か、かなりのVIP待遇ですね」
初対面の方に副マスを頼む事なんて、他のゲームでもあまり聞いた事ない。
大概は仲のいいプレイヤー同士で集まって、段々と規模を大きくしていくものなのだけど…。
「俺はこのNWOで1番のギルドを作りたいと思っていてね、攻略なんかも力を入れたいと思ってる。だから今1番のプレイヤーである君は喉から手が出るほど欲しい人材なんだ」
恥ずかしそうに頬を掻きながら言う矛盾さんに好感を持てた。
僕もトッププレイヤーとして最前線で活躍したいと思っているし、矛盾さんのギルドに入れば今後の事を考えればいい事な気がする。
「ナビィ、どうかな?」
僕は自分の相棒である彼女にも意見を聞いてみた。
「そうですね、攻略が進んでいけばソロではどうしても限界が訪れると思います。それからギルドを探すよりも今のうちに入っておいて親交を深めておいたほうが良いかと」
ナビィもギルドに入る事には賛成のようだ。
僕は矛盾さんに了承の意を伝えた。
「ギルドに入れてもらおうと思います。よろしくお願いしますね矛盾さん。いえ、マスター?」
矛盾さんは目を見開き、「マ、マスター……こんな……なんて…」と聞き取りずらい声音でブツブツと呟いた。
「ゆ、ユキさん!もう一度言ってくれないぅっ!?」
矛盾さんが全てを言い終わる前に、ナビィが飛び蹴りをしてその邪魔をした。
「な、ナビィ何してるのっ?」
「ユキ様!やっぱりナビィは反対ですっ!!」
数秒で意見を180度変えたナビィに驚いていると、ナビィに蹴られた頬を摩りながら矛盾さんが復活した。
「いやぁ、すまないな。つい自分を見失いそうになったよ」
「ついではありません!貴方の本性が見えた気がします、ナビィはこの話やっぱり断固反対なのですよっ!!」
ビシィッと矛盾さんを指差し、反対しだしたナビィを「お、落ち着いて」と宥める。
「でも俺はギルドをこの世界一のギルドにしてみせる。話してなかったが、副マスは1つのギルドに2人まで設けられ、もう1人も既に決まっているんだ。そして彼女もまたユニークスキルの持ち主……もう一度考えてくれないかな?」
(へぇ〜ユニークスキルって結構持っている人いるのかな?)
そんな事を考えている僕の隣で、「ユニークスキル保持者が2人もっ!?」とナビィが驚いていた。
「うぐぐ〜……」
なにやら葛藤しているナビィに、矛盾さんがニヤリと笑みを浮かべた。
「(彼女もユキさんが居るギルドならって条件で許可してくれたんだ!頼むっ!)」
矛盾さんが余裕の笑みを浮かべながら、そんな事を考えているとはナビィも気づく事が出来ずに、結局僕達は矛盾さんのギルドにお世話になる事となった。
「それじゃぁよろしく!と言ってもまだギルドを作ってすらないんだよね。メンバーが集まればまた連絡するから」
そういってフレンド申請をして、矛盾さんとは一度別れる事となった。
彼は他にも有力なプレイヤーに声をかけに行くそうだ。
矛盾さんが去っていくのを見送りながら、これから仲間達と強力しながら攻略していくんだ。とMMOの醍醐味ともいえるパーティープレイに心躍らせる。
「ユキ様は私が守るユキ様は私が……」
さっきから少しおかしなナビィに呼びかけて、僕たちは再び街の探索を始めた。




