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〜裏話〜
「た、大変です酒井さん!森林エリアのボスモンスターが倒されそうですっ!」
1人の男が、目の前の画面に釘付けになったまま声を荒げる。
その声にその場にいた全員が反応して、彼の元にワラワラと集まりだした。
「フォレストベアー、HPバー残り5割を、4割を切りました!止まりません!」
「なっ!?どこのどいつだ……野口!モニターに映せ!」
その命令に野口と呼ばれた男が、目の前のキーボードを高速で叩き、部屋の最奥にある巨大な画面に1人のプレイヤーが映された。
「なっ、なんて速さだっ!?」
命令した酒井が叫び、周りにいた他の者たちも驚きの声をあげる。
「ステータス情報取得できました。映します!」
野口の手によって、画面が半分にされ片方にフォレストベアーをフルボッコにしているプレイヤー、もう片方にはそのプレイヤーのスキル込みのステータス画面が映された。
「レベル3だと!?…な、なんだこの数値は……?」
圧倒的な違和感を放つAGIに、驚きの声をあげ、スキルの方を確認して思い出した。
今尚ボコボコにされているフォレストベアー、速すぎて分かりにくいがそれを行っているプレイヤーをよく見れば、頭に白色の長い兎耳を確認することができた。
(あの時の面白そうな奴か!)
キャラメイクの場で見かけた、1人のプレイヤーを思い出した。
「どうしますか、酒井さん。バグでも不正を行った様子もありませんが……」
野口の言葉を聞いてすぐに指示を出す。
「この映像を映しているピクシィを、彼専用のナビゲーションピクシィとしてプレゼントしろ!今すぐにだ!」
実はこのNWOでは、プレイヤーに見つからないようにして様々な所でピクシィが存在しており、その視界を利用して運営はゲーム内の情報を得ていた。
つまり、酒井はこのプレイヤーを常時監視する為にナビゲーションピクシィを付けろ!と言ったのである。
因みにこの事はプレイヤーの方にも説明されていて、そのナビゲーションピクシィを見つけて仲良くなれば一緒に旅をする事も出来ると話もあり、一部のプレイヤーはサービス開始から血眼になって探していたりする。
酒井の意図を直ぐに理解した野口が手元のキーボードを叩き、討伐報酬をナビゲーションピクシィに変更させる。
このナビゲーションピクシィは、本来ならAIの搭載されたピクシィの好感度を上げなければいけなくて、滅多に姿を見られないピクシィの好感度を上げることはとても難しい。と中々手に入るものではない。
しかし、何故かこのピクシィは戦闘中のプレイヤーに対し、好感度が高くなっていて、野口がAIにお願いするとあっさりと了承を得ることが出来た。
不自然に倒されたフォレストベアーが暫く消えずに残ってしまったが、プレイヤーは気にした様子もなく寝転んでいる。
そして変更が完了すると、粒子状のポリゴンになりプレイヤーにメッセージが送られた。
酒井はナビゲーションピクシィに驚く幼女姿のプレイヤーをみて、このプレイヤーはよく監視しておくように!と他の者に命令をだした。
「それとスキル開発部は、あの速撃と言うスキルをユニークスキルにしておけ!」
ユニークスキルとはNWO内で1人のプレイヤーしか得ることのできないスキルで、それなりに数はあるが非常に手に入りにくく、その効果はどれも強力なものばかりである。
酒井はあのスキルがリセマラなどの方法で沢山のものが得るのを恐れ、今ならあの幼女以外誰も持ってないことを知っていたので、いっその事ユニークにしてしまおうと考えた。
そうして各々がそれぞれの仕事に戻っていく。
その後、運営部の中にユキちゃんファンクラブなるものができたとか……。
因みに会長は酒井という男らしいと噂が流れたが、本当かどうかは定かではなく、それを知っているのは副会長の野口だけであった。
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僕はナビィさんに色々と説明を聞き、どうして彼女が僕に送られてきたのかなどの説明を受けた。
「じゃぁナビィ達ピクシィは運営の補助的役割で、今回は僕のスキルが想像してたよりも強力なものになってしまい、見過ごすことは出来ないから取り敢えず監視だけさせてくれ。と?」
「はい。本来なら元凶である速撃スキルに威力補正などの方法が考えられるのですが、それでは運営側が問題ないと思っていたスキルを120%の力で使いこなしたユキ様に申し訳ありませんので……」
因みに、どうしても常に監視されるのが嫌なら断ってもいいらしいですよ?と宙に浮き肩を落として語るナビィさん。
確かに監視されているなんて聞こえが悪く感じるが、僕の内心は違った意味で嬉しく思っていた。
それは今のプレイスタイルが運営に注目されている事で、1人のゲーマーとしてはそれが嬉しくてしょうがなかったのだ。
「それにナビィさんが監視として居るのだとしても、僕からしてみれば一緒に冒険する仲間が出来て嬉しいよ!」
バッ!顔を上げて此方を見上げるナビィさんに、「これからよろしくね」と伝えた。
「は、はい!此方こそ、よろしくお願いしますっ!それと私の事はナビィと呼び捨てに呼んでください!」
パァ!と嬉しそうに答えてくれたナビィさんに、僕も笑いながら頷いた。
「それなら僕もユキって呼び捨てにーーー
「それはダメです!却下します!」
…………。
「それでは!さっそくナビゲーションピクシィとして、仕事をさせていただこうと思います!」
レベルアップ時に得たSPや、BPを振り分けていると、両手を握りフンス!と気合十分なナビィに、何処に行きたいですか?と質問された。
「うーん、ここら辺の敵だとワンパンで終わっちゃうみたいだから、もう少し強い敵がいる所に案内してくれる?」
「わかりました!」とスィーと滑るように先導を始めてくれたナビィの後を追い、森林エリアのさらに奥へと進んでいく。
途中に現れたモンスターなどもきっちり倒しつつ進んでいると、15分くらいかけて森林エリアを抜ける頃にもう一つレベルが上がり僕のレベルは5になっていた。
ナビィに少し待ってもらい、BPを振り分ける。
SPは速度強化ⅡをLv4にあげるためにはSPが5必要で、一つ前のレベルアップで全てのSPを使いSPが3しか無かったため、今回は振らずに残しておく事にした。
そして探索を再開して僕たちは森林エリアを抜け、道が2つに分かれた山道へと向かう道に出てきた。
「えっと、左側が次の街に続く道の様です。右側は4番目の街である王都に繋がっているみたいです。今のレベルでは厳しいと思いますが、王都から始まりの街に行くときにショートカットできる様に作られた抜け道みたいなものらしいです」
(なるほど、街と街が離れすぎて行き来するのが面倒にならないための処置みたいなものかな?)
僕はナビィの説明を理解した上で、右側の道に向け足を踏み出した。
「ユキ様っ!そっちはまだレベル的に厳しいですって!」
慌ててナビィが僕の前に回りこんでくる。
いや〜、説明を聞いて無理だとは理解はしたけどさ、行っては駄目だと言われると行きたくなるのが人間でしょ?
「まぁまぁ、別に死んで街に戻っても良いからさ、物は試しに行ってみようよ」
僕はナビィに両手を合わせてお願いしてみる。
「うーん……でもユキ様はフォレストベアーを倒されて、ドロップアイテムも手に入れてます!今売ればかなりの高値で買い取ってくれるプレイヤーがいると思いますよ?それも死んでしまうと失ってしまうかもしれませんがよろしいのですか?」
ナビィに言われて、そう言えばドロップアイテムを確認してなかったなぁと思い出した。
アイテムを確認してみると[森熊の角]や、[森熊の毛皮]などのアイテムが存在していて、確かに今売れば高値で取引出来そうだと思った。
「もともと偶然手に入れた様な物だし、今は強敵と戦ってみたい気分なんだよね」
「……まぁユキ様がそう仰られるなら、ナビィはもう引き止めません。ユキ様がバトル好きだったのは少し驚きましたが、そんなユキ様にこのゲームを楽しんでもらえる様に頑張るのがナビィの仕事ですから!」
渋々にツンデレの様なことを言うナビィに、「ありがとね」と苦笑しながら言う。
その後、ナビィと話しながら道を進んでいくと、前方から鎧を着た豚頭のモンスターが現れた。
「オークってやつかな?」
「その通りです!ボスモンスターではありませんが、強さで言えばフォレストベアーより上位です」
フゴフゴと鼻を鳴らすオークは、既に此方に気づいているみたいで、獲物を見つけたと言わんばかりに口元から牙を覗かせている。
ボスモンスター以上に強い雑魚モンスターの出現に、流石に一筋縄ではいかないかと思いつつ、跳びたすタイミングを伺っていると、事態は急激に悪化してしまった。
「ゆ、ユキ様っ!後ろからオークが2体迫ってます!」
「なっ!?」
なんと僕達の後ろから、更に2体のオークが現れたのだ。
最初のオークがニヤリと笑った気がして、僕は初めての2体以上のモンスターとの戦闘に首筋が凍ってしまう。
「チィッ!」
思いっき前方に対峙するオークへ駆け出すと、左手にもったクリスタルダガーで斬りつけた。
僕の攻撃はカンッ!と金属音を響かせ、オークの着ていた鎧に弾かれてしまう。
直ぐに右手のクリスタルダガーで鎧の隙間を縫うようにして脇腹を斬りつけるものの、オークのHPバーはほんの僅かにしか減らす事ができなかった。
「ユキ様、目です!目などの柔らかい部分ならボーナスダメージが発生します!」
ナビィの叫びに僕はオークの顔を見上げた。
身長2メートルはあろうかというオークに、僕の身長では顔を攻撃するなんて事は容易にできる事ではない。
オークが武器と思われる丸太を振りかざしてきたので、かわす為にバックステップで距離をとる。
振り下ろされた丸太が誰もいない地面を叩くと、大きな音を鳴らして少し離れた僕のところまで振動が伝わってきた。
攻撃した事で顔が降りてきたオークにむけ、駆け出そうとした時、
「ユキ様!うしろぉ!」
ナビィの叫び声に反射的に横へ飛び込んだ。
直ぐに聞いたばかりの丸太が地面を叩く音がして、振り向くとそこには腕を振り下ろした状態のオークがいた。
「あ、あぶなかったぁ」
僕はもう1体のオークの居場所も把握して、出来るだけ視野を広く心がけ3体のオークが見えるようにして1体と対峙した。
ユキ
Lv5(+2)
女
兎人族
HP25(+10)
MP25(+10)
STR34[+34]
INT5(+2)
VIT18[+13](+2)
MND49[+44](+2)
DEX9(+2)
AGI241[+84](+51)
LUK7(+2)
【BP0】
装備
武器 [クリスタルダガー]
武器2[クリスタルダガー]
頭 [ーーー]
手 [ーーー]
上 [精霊のメイド服]
下 [精霊の靴下]
足 [精霊の靴]
飾 [ーーー]
セットスキル
[速撃][速度強化LvMAX][速度強化ⅡLv3][ーーー][ーーー]
控えスキル
【SP3】
[スキル習得]