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なるべく全速力を心掛け、木々の合間を縫うように駆け回る。

敵が居れば直ぐに方向転換し、クリスタルダガーの一振りで斬り伏せると、その場にとどまらず再び駆け出す。


目もだいぶ慣れてきて、偶に木をスレスレで通り過ぎたりと冷汗をかくことはあるものの、順調に森林エリアを探索できていた。


昔からゲームばかりしていた僕は、こういった人間離れした高速の視界移動にむいていたのか、一歩引いた第3者的視界を意識して見る事で視界を広く、必要な情報を早く手に入れる事が出来ていた。


新種のモンスターにも幾つか遭遇したが、その全部が短剣一発。

サクサクと先に進んでいると、目の前に不自然なほど木が生えていない開けた場所が現れた。


「あやしい…」


なんとなく其処に向かいながら、何があっても大丈夫なように短剣に手をかける。

背の低い草原を警戒しながら歩き中央まで到着すると、突如前方に粒子状のポリゴンが現れ、モンスターを倒した時の逆再生のように集まっていき一匹の巨大な熊型のモンスターが現れた。


あくまでも熊型のモンスターってだけであって、その見た目は現実世界の熊とは大きくかけ離れている。

全身を覆う硬そうな毛皮は深緑色をしており、3メートルはありそうな巨体と額には青色の角がある。

そして、なによりおかしいのは腕が4本もある事。


「ガァァアアアア!!」


熊型のモンスターは目の前にいる僕に咆哮すると、丸太の様な腕を大きく広げて威嚇してきた。


「……これはワンパン出来そうに無いなー」


ガッカリとした声音とは裏腹に僕の心は喜んでいた。

このゲームを始めてまだ少ししか経ってないが、これまでの戦闘を振り返ってみるとその殆どがワンパンで終わっていたのだ。

唯一激戦を繰り広げた猪との戦闘が手に汗握る緊迫したもので、ゲーマー、またはオタクとして僕の中ではそういった戦闘が大好物だった。


なので目の前にいる恐らくここらのフィールドボス、あるいはエリアボスを前に心が躍ってしまう。



「はぁっ!」


最初に動いたのは僕の方だった。

全速で駆け出し一瞬でクマのモンスターとの距離を0にすると、腕の二本を地面につけ行動しようとしていたクマの横腹を斬りつけながら通り過ぎる。

振り返りクマを確認すると、やや硬い感触だったけどどうやら攻撃は通ったようで、クマの頭上に表示されたHPゲージが少し減っていた。


「ガァァアッ!」


攻撃されて怒ったクマが、立ち上がり左側の二本の腕を振り向きざまに振るってくる。

それを冷静にバックステップしてかわし、すぐに前進して懐に潜り込む。





ここで少し補足をしておこう。

ユキの戦っている森林エリアのボスモンスター、[フォレストベアー]はレベル15のプレイヤーがパーティー上限の6人で挑む事を想定して作られたモンスターである。

しかし、ユキは自身のチート染みたステータスより攻撃時にSTR81(武器の34と速撃スキルによる47の合計)によりLv15~20の戦士と同じくらいの攻撃力をもち、AGIにおいては190とLv3のプレイヤーとして見れば、もはやバグのカゴテリーに入れられそうな数値で、本来ならLv50~60でようやく辿り着くような話である。

NWOはターン制のゲームではなく実際に戦闘をして遊ぶゲームのため、避ける行為などをしなければ必ず敵の攻撃を受けてしまう。

それなら避けるために必要な数値がバグのようなユキはどうなるのか。


その答えは……




僕の身長ではクマの足程の高さしかなかったため、その足めがけ何度も短剣で斬りつけた。

AGIによって速度が上がるのは足の速さだけでなく腕を振る速さも上がるため、僕は僅か数秒の間に数え切れないほどの攻撃を加えた。


クマが腕を振り下ろしてくるとバックステップで避け、違う方面から回り込み再び何度も斬りつける。


そうして2.3度繰り返すと、クマのHPは半分ほどに減少していた。


「うーん、流石に硬いなぁ」


ドキドキと心地よい鼓動を感じながら、僕は再度クマに向かって駆け出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ピン・ポン・パン・ポーン!


『只今、プレイヤー名[ユキ]様が、森林エリアのボスモンスター、[フォレストベアー]の討伐に成功しました。』



頭上に流れたアナウンスを聞きながら、僕は目の前に横たわっているクマを見下ろしていた。


「おわったぁ!」


後ろ向きにばたりと倒れると真っ青な空が見え、サァーと吹いた風に心地よさを感じた。


(やっぱりエリアボスだったかぁ、名前は……フォレストベアーだっけ?)


左手をあげメニューウィンドウを開いてドロップアイテムを確認しようとして……もう少しこの気持ち良さを堪能しようと力なく地面につけた。


視界の端でフォレストベアーがポリゴン隣って消えていくのが見えて、次の瞬間パッパラーと軽快な音が聞こえてきた。


「お、レベルアップだ」


視界右上を確認すると手紙のアイコンがあり、何時もと違ってアイコンの上に2と表示されていた。


『レベルアップしました。』


一つはそれだけで、こちらは何時ものレベルアップの報告のようで、僕はもう一つを確認してみる。


『初めてエリアボスモンスターを倒された[ユキ]様に運営からプレゼントがあります。』


「……プレゼント?」


なんだろう?とパネルに触れてみると、ポンっと音を立てて小さく爆発した。


びっくりしていると爆煙の中に小さな影が見え、やがて爆煙が流されていくと其処には小さな妖精の姿があった。



「先ほどぶりです、ユキ様!」


ぺこりと頭を下げた妖精さんに、僕も体を起こす。

しかし、僕は妖精さんに会った事などないので、返事をする事が出来ず首を傾げた。


「お気づきになられてないようですね。ほら、ゲームを始めた時に説明をさせていただいたナビィです」


ああ!と手を打ち納得する。

すっかり見た目は変わっていたけど、顔を見ればあの時のナビィさんだと思い出せた。


「あの時はありがとうございました」


「いえいえ、私達はあの説明のために作られた存在ですので…お礼なんてとんでもないです!」


「いえ、それでもお礼をいうのは当然ですよ」


「(……やっぱり……へんなの)」


僕が笑って答えると、ナビィは下を俯いて何か呟いた。

僕が聞き返してみると「なんでもありません!」と返されたので、大事なことではないようだ。

それからプレゼントについて説明があるのかとナビィの顔を見つめていると、彼女は小首を傾げて「なんですか?」と聞いてきた。


「えっと…プレゼントが貰えるって話だけど、その説明ですか?」


「あっ!そういうことですか…今回は説明ではなくてですね…………」


少しのための後、ナビィはニッコリと微笑んで…





「プレゼントが私なのです!」


と言った。

………………え?


「改めまして、ナビゲーションピクシィのナビィです!これからよろしくお願いしますっ!」


「……えぇぇえっ?!」

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