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欠落  作者: 紫木
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彼女という存在

私は全てを救えるだなんて大それた事を考えているわけではない

極端な話、明日、知らない国の知らない人が死んでもなんとも思わない


私のとってはこの手の届く範囲の世界にしか興味はない


でも、この世界の中では出来る限り手を差し伸べる

守れる範囲で守ろうとする。間違えた人間がいれば道を正す。

これは救世主と呼ばれ、勇者とも呼ばれた、英雄に祭り上げられる事に慣れた

独りの臆病者の話だ。


大切だと思うものを守ろうとする為に多くの人を扇動した。多くの大言壮語を吐いた。

多くの人の夢を叶えた。

その度に賞賛された。この世界の多数が認識する善行を繰り返し、多くの味方を得た。

そこはいつも人々の笑顔であふれ、その笑顔のために戦いに臨む事が出来た。

ひとつだけ決めたこと、この世界を必ず幸せにしてみせる。


褒め称えられれば心はより前を向く。神経は喜びの声を上げ、体は軽くなり明日への1歩を踏み出す。

世界は優しさに溢れ、日溜りの道を皆で歩み始めた。

その裏にある日陰も雨も見ない振りをして歩き続けた。


私はこの世界からたくさんの幸せをもらった。嘘偽りなくたくさんの幸せを与えた。

元よりこの身は多くの人々の幸せを望んでいたのだから、私の夢は順調に育まれた。

ただ、私には誰にも言えない夢がもうひとつある。

旅路の果てに終わりを迎える場所。

アイツは今頃どこに居るのだろうか?

あぁ、想像しただけで顔がにやけてしまうよ。


自慢話や惚気話はこの辺で十分だろう。

冷静であれと、感情的になれと、心が二律背反する。


今、この世界を守る為に戦わなければいけない。


私の目の前に立つのは、かつて私が救えなかった人であり、私の最愛の人。

「救えるものを救う私」と「救われないものに手を差し伸べる君」

あの日、背中を向けたアイツといまこうして正面から対峙している。


不謹慎にも心が喜ぶ。

偶然にも、彼とまたこうして会えた事。

道を違えた彼が私と対峙するまで、あの時のままでいてくれたこと。

頭のどこかで不安だった。

彼の歪な生き方では志半ばで倒れてしまうだろうと。

彼の歪な生き方ではもう二度と出会えないかもしれないと。


俯くな、この顔を忘れない様に刻みつけてやろう。

きっと私がアイツの見る最後の人だから

きっとアイツが私に見せる最後の顔だから。


いまからアイツと話す内容は誰にも理解されないだろう

例えこれが私情だとしても、臆病な私が勇気を振り絞って語ろうと思う。

たくさん話したい事があるんだ。






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