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リリス

 扉の前に立っていた女性は、新緑を想像させる緑の髪、深みのある緑の瞳。身長150cm程度の小柄な体を包み込むのは、これまたシンプルだが艶のある緑の服。この方が山賊を指揮していたリリスなのだろうか?


「すいません。ワシらは、旅をしておるものなのですが、移動中に馬車が潰れてしまいまして……。なんとか歩いて移動していたのですが、山賊どもに襲われて逃げてきたのです。ここにも山賊どもはやって来たりしませんかな? 」


 俺が、リリスらしき人物に見惚れていると、爺が少し事実を歪めたカマをかける。


「そうでしたの! 私はリリス。ここで、ひっそり暮らしている物ですわ!山賊さんですか……。私のところにはきたことないですね……」


 名前はやはり、リリスのようだ。しかし、爺のカマかけに動きを見せないことから、もしかしたら山賊ではないのかもしれないという希望が湧き上がる。


「そうですか! まぁ、山賊が来るようなところなら、こんな可憐なお嬢さんが住めるわけないですもんね? 」


 俺がそう言うと、リリスはそのミルクのような白い頬をほんのり染めて恥ずかしがる。

 その仕草に見惚れていると、ティリアが耳を引っ張って、俺の耳元で大声をあげた。かなり大きな声だったので、頭まで揺れて歩けなくなる。少し時間を置いて、回復するとティリアを睨みつけた。すると、ティリアもこちらを少し睨みつけてきた。


「化物のことも聞かないで、ニヤニヤしてるのが悪いんでしょ! 」


 ティリアに言われて化物のことを思い出した俺は、かなりリリスのことに衝撃を受けていたようだ。

 いかつい山賊が頭だと言っていたものだから、普通はゴツイ人間を想像するだろう。恐らく、あの山賊が偽情報を俺たちに言ったのだろう。今度あったら、存分にルーデルを嗾けてやろうと決意する。


「そうだったな……。リリス、さっきイルガード国に向かっていたら、大きさ10メートルはある一ッ目の化物を見たんだが、知っているか? 」

「一ッ目の? そう言えば、子ぶ……ではなくて、ここに訪れた人がそんなことを行っていた気がします……。確か、イルガード国の方向から最近やってきたみたいで、このイーストルークで暴れまわってるとか……。ただの冗談だと思っていたのですけど……。本当にいたんですか? 」

「ああ、その化物からはなんとか逃げることができたんだが、リリスも気をつけてくれ」


 さっき、山賊から逃げてきたと言った建前上、倒したというわけにもいかないので、ここはごまかしておいた。

 それにしても、リリスの言ったことが本当ならイルガード国は少し危ないかもしれない。



 化物の話を聞くと、俺は、流石にここまでおしとやかな人間が山賊の頭をやっているとは思えず、大人しく家を出ることにした。


「山賊はこなさそうだし、お前達、行くぞ! 」

「「ハッ! 」」

「……わかったよ……」


 ティリアのみ、何か不満そうな顔をしていたが、大人しく付いて来たので、大したことではないのだろうと思い気にしないで、イーストガード国への道を歩き始める。

 

「それにしても、清楚な方だったな! 」

「そうですなぁ! ティリアも見習えよ! 」

「うるさいよ! 」

「ティリアのことはいいとして、イーストガード国から化物が来たと言っていましたが……。危なくないでしょうか? また、あんな化物が出てきたら太刀打ちできないかもしれませんよ? 」


 一ッ目の化物にやられたショックからなのか、ルーデルからは弱気な発言が飛び出す。


「確かに、少し危ないかもしれない。だけど、ラグナロク方面に一旦戻るには歩いてだと20日はかかるだろう。それだけの食料は流石に持ってきていないから、進むしかない。それに、最近で始めた化物と、この指輪には何か関係があると思うんだ。だから調べてみたい」


 俺がそう言って、胸ポケットから指輪を取り出す。今までは、そこまで興味がなかったため気にしていなかったが、よく見るとかなり精巧な細工だ。なんの鉱物を使っているか分からないが、高級感のある光沢が有り、表面にはラグナロク帝国の国花であるルメリアの花が掘られており、その横側にはまるで、ルメリアの花に突き立てるように剣の模様が掘ってある。


 ルメリアの花は、ラグナロク城内にしか生えていない花で、白い茎に白い花びらがついた真っ白な花だ。しかし、その美しさの影で猛烈な毒性があり、一口体に取り込むと、数秒で痙攣し動かなくなる。なぜ、そんなものを国花にしたかというと、一代目帝王がこの花をこよなく愛していたからだと言われている。


 皆も、指輪に注目すると、化物戦を思い出したのか閉口する。少しシーンとした空気が流れたので、俺は冗談交じりに


「それに、そんな化物を俺達が倒せたら、俺についてくる者たちが増えるだろ? 」


と言うと、ルーデル達は呆れたような顔をしたあと、気合を入れた顔になり大きく頷いた。多分、ルーデルと爺は俺を守ることができず、気絶したことを気に病んでいるのだろう。

 あの時の戦いは、いきなりだったため仕方がなかったと慰めても無駄だろうと考え、あとで新しい魔具でも購入して戦力を増強しようと頭の片隅に刻み込んだ。


 しばらくして夜になると、馬車を失った俺たちは、人が通る道から少し外れる。そこで、自分たちが寝れる程度の場所を確保するために、草を抜き、牧を集めたあと、火を炊いて眠りにつこうとした。


「ジーク様、ルーデル、ティリア。寝ずに寝たふりをするんじゃ! 」


 皆がこれから眠りに入ろうとしていると、爺が小さな声で言い出した。何事かと思いつつも爺の言うとおり、寝たふりをしながら少し待っていると、こちらに近づく足音が聞こえてくる。


「やっとねむったか! お前、本当に、こんなじじいと子供しか居ないやつらに負けたのかい? 」

「へい……。こいつら魔具を持ってやがりまして……。でも、姐さんがいれば、怖いもんなしですよ! 早いとこ縛っちまいましょう!」



足音が近くまでやってくると、今日聞いたことのある声が二つ聞こえた。

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