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一ッ目

 目の前で、ハンスの爺さんと、ルーデルが敵をなぎ倒していく。


「す、すごい……」


 あたしは自然とそう呟いていた。



-----



「糞ジジイとクソガキが俺たちの相手か? 俺たち的にはそっちで覗いてる巨乳のかわいこちゃんがいいんだけどな~! 」


 太った巨漢の山賊がこちらを見ながら嗤って言う。どうやら、狙いはティリアに決めたようだ。

 指名されたティリアは首筋に鳥肌を浮かべながらも、爺とルーデルが心配なのか、隠れないで見ている。


「残念ながら、お前らなぞワシらで十分じゃてな。お前らはまず自分の命の心配をしたほうがいいんじゃないかのぅ? 」


 爺はそう言うと、薄い青色のローブの中から、小さなハンマーを取り出した。30センチ程度しかないハンマーは、190センチで鍛え抜かれた体を持つ爺との対比でさらに小さく見える。


「そうですね。私たちは急いでいるので、出来ればこのまま去ってはくれないでしょうか? 」


 ルーデルも口では穏便な事を言いながら、刃渡り10センチほどのナイフを取り出した。それを見た太った山賊は嗤いだした。


「ギャハハハ! ――そんな武器で何ができるってんだ? ――お前ら、一斉にかかって早く殺しちまえ! 」


 太った男がそういうと、剣を持った山賊どもが一斉に二人目掛けて襲いかかる。それを見た二人は、何かをつぶやいたかと思うと持っている武器が輝き出した。輝きが収まるとそこには、2メートル程の大きさとなったハンマーと剣があった。


「魔具か!? なんでこんなシケタ連中がそんなもん持ってんだ!? ――お前ら! 逃げろ! 」


 太った山賊はそれを見て驚き他の山賊に退避を告げたが、飛びかかっていた山賊達は止まる術を持たなかったのか、二人の振るった武器によって体がバラバラにされる。


「す、すごい……」


その姿を、ティリアが呆然と見つめていた。


二人の持っている魔具とは、神力を持たない帝王家以外の人間が開発したもので、全ての人間がその身に宿す魔力を使い発動させる武器だ。

その能力は武器によって様々で、爺とルーデルは先ほどのように、魔力を込めると大きさを変化させることができる武器を好んで使う。


その絶大な威力と強さを見た太った山賊は、逃げることができないと悟ったのか、俺たちに向けて大きな体を精一杯縮まらせながら平服した。


「なぁ、許してくれよ! 俺は悪気があってこんなことしたんじゃないんだよ! 」

「お前にはさっき言ったじゃろ? 命の心配をせい! ――と」

「ジーク様を襲った罪は重い! そんな言い訳で助かると思っているのか? 」


 二人は太った山賊を殺そうと近づいていく。


「少し待て! そいつは使えるかもしれん」


 太った男に迫っていた二人はピクッと反応し、こちらを伺う。


「そいつは、太ってはいるが2メートルもある巨体を持った人間だ。それなりに強いだろう。――お前も、俺の部下となるなら生かしてやってもいいぞ? 」


 俺が脅しのような文句を言い放つと、太った男は顔を高速で上下に動かす。よし! じゃあ、これからお前も俺の部下だ! そう言おうとしたとき、ルーデルから待ったの声がかかる。


「ジーク様、いくらなんでも山賊はやめておいたほうがいいです! ――何をするかわかりません! 」

「それは、何をするかわからないと蔑まれていたティリアにも言えることだ」

「しかし! 」


 ティリアの前で、それを肯定するのは憚られたのか、ルーデルは口ごもる。


「今回はわしも反対ですじゃ」


 今度こそ、仲間にと思った瞬間、次は爺が反対を表明する。


「こやつは、ティリアと違い大義をもった悪事を働いていたようには見えなんだ。こやつは、真に悪人と言えるでしょう」


 大義を持った悪事などあるのか、と思いつつも爺の進言には一理あると思い考えていると、太った男がここぞとばかりに逃げ出し、見えなくなった。


「ルーデル! 追うのじゃ! 」

「はい! 爺様! 」


 二人が追いかけようとすると、太った男が逃げた先から大きな断末魔が聞こえてくる。


「なんじゃ!? 」

「私が見てきます! 」


 そう言ってルーデルが見に行こうとしたとき、そいつは現れた。


 10メートルはある強靭な体に腰蓑を纏い、棍棒をもった一つ目の化物だ。

その混紡には先ほどの太った男が潰れて付着している。


「なんだ……この化物は!? 」


 そう呟くが、答えるものはいない。俺たち4人が固まってそいつを見ていると、一つ目の化物はこちらに向かって走ってきた。


「まずい! ティリア、馬を動かしてジーク様だけでも逃がすのじゃ! 」

「わかった! ――ジーク様、捕まっといてよ! 飛ばすからね! 」


 ティリアはそう言うと馬車を動かそうとするが、一つ目の巨人が大きくジャンプし、馬車の目の前に着地した。


「きゃ!? ――これじゃ動けないわ! 」

「ちっ!? ルーデル、ジーク様をお守りするのじゃ! 」

「はい、爺様! 」


 爺とルーデルはそう言うと、持っていた巨大な武器をさらに大きくして3メートルまで伸ばすと、こちらに猛スピードで走リ寄り一つ目の化物の足に向けて突き刺し、叩き潰す。


グオオォォォ!


 一つ目の化物も流石に効いたのか、怒りの声をあげ、爺たちごと脚を持ち上げ、俺とティリアを踏み潰そうとする。


「ティリア、馬車を置いて逃げるぞ! 」

「わかったわ! 」


 間一髪のところで、足の落下地点から逃れた俺たちだったが、ルーデルと爺は足が地面に当たった時の衝撃で動けなくなっていた。


「逃げる手段も潰れ、爺とルーデルまでも……。これは万策尽きたか……」

「ジーク様……」


 となりにいたティリアが心配そうに寄り添ってくる。目の前には、何故か俺たちを踏み潰すでもなく、口を開きこちらに向けてくる一つ目の化物。

 その口の中に赤い光が集まっていく。その見た目はまるで帝王家の破壊の光、神力のようであったが、使えない僕には防ぐことができない。


「ティリア……。すまなかったな……。お前を連れてきて早々にこんな化物に殺されることになるなんて。」

「何言ってんのよ! 子供達を助けてくれたジーク様には感謝してるし、別にいいわよ……」


 そんな、まるで死にゆく恋人達のような辞世の言葉を残していると、一つ目の化物が赤い光を放ってきた。


 俺たちは成すすべもなく、赤い光に包み込まれた。

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