山賊
「そういえば、賊が捕まらないと出られないんだっけ? 」
「……どうするんですか!? 」
「え? なによ? アタシを差し出す気なの!? 」
「落ち着け、誰もそんなこと言ってないじゃろうが……」
どうするか……。再度の門番アタックを試みて追い返された俺たちは、門から少し離れたところで話し合っている。
「やはり、こうなったら強引にでも突っ込んで行くべきです! 」
ルーデルはそう言うが、門兵が多いのであまりやりたくはない……。
「なによ……。門からじゃなくて違うところから出ればいいだけじゃない? 」
「そんなとこあるわけ無いだろ……」
「あるわよ? 」
こともなげに言った女に皆の視線が集中する。
「そもそも、他にないんだったらもっと門の前で人がたむろってるはずでしょ? 」
それもそうだと思いながら、道案内を頼むため声をかけようと思ったとき、重要なことに気がついた。
「あっ!? 」
「なんですか!? 」
「なんじゃ!? 」
「なによ!? 」
「そういえば、お前の名前……聞いてなかったな? 」
……………………
「「「ホントダ!? 」」」
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盗賊の女ティリアに道案内をしてもらいつつ、ラグナロクの街並みを目に焼き付けておく。
行き交う民たちの笑顔にいい国だと自慢に想う気持ちと、俺は追い出されるというのに笑っている民にイラつく気持ちが混ざって、何とも言えない気分だった。
「ここよ」
案内された先は、東の門と北の門の境にあった。
そこには大きな穴がある。それも、馬車が通れるほどの穴だ。
「なんで、直されないんだ? 普通見回りの兵が気づくだろ……」
「この場所は見逃すっていう暗黙の了解があるのよ」
俺が知らないことに気分をよくしたのか、大きな胸を張りながらティリアが言う。
「……なぜだ? 」
「ラグナロクって結構な頻度で門が閉鎖されたりするから、みんな困ってんのよね……。だから、万が一のために穴をそのままにしてるの。門の兵たちも基本的に平民だから見逃されてきたってわけ。」
とティリアが自信満々に説明してくれるが、俺の視線は大きな二つの膨らみに首ったけだ。
ティリアはそんな視線に気づいたのか、その豊満な胸を抱きしめ、横を向いた。
「あ、あんた! 何考えてんのよ! こんな変態なんだったら、あんな約束しなきゃよかった! 」
「何を言ってるんだ? 俺は何もしてないじゃないか。なぁ? 爺、ルーデル」
「ふぉっふぉっふぉ! そうじゃそうじゃ、ジーク様が何かしとったようには見えんかったのぅ」
「……そうですね……」
爺は楽しそうに、ルーデルはため息混じりに乗ってくれる。
「え? そうなの? でも……。ごめんなさい! あたしの勘違いだったみたい……。変な勘違いしちゃって……」
「どんな勘違いしたんだ? 」
「うっ、うるさい! とにかく早く出るわよ! 」
ティリアはそう言うと、顔を真っ赤にしながら穴をくぐり抜けていく。
俺はその姿に、「可愛いところ、あるんだな」と呟きながら、ティリアを追っていった。
穴から出た先は大きな草原だった。ここから、東の大国イルガードまでは、10日ほどかかる。
その道程は、5日間草原と5日間の山道だ。
そんなことを考えていると、猛烈な眠気を感じた。昨夜はティリアを捕まえるためにあまり寝れてなかったからだ。
「済まないが、俺は少し疲れたので、少し寝る」
「わかりました。何かあったら起こしますね」
「頼んだぞ、ルーデル。ティリアも何かあったら頼むぞ! 」
「わ、わかってるわよ。そんな念押しされなくても! 」
そう言うと、馬車に揺られつつ、穏やかな微睡みに意識を手放した。
―――――
あれから、8日が経った。今はイルガード国とラグナロク帝国の境にある、イーストルーク山にいる。イーストルーク山は600メートルほどのそれなりに大きな山だ。
ラグナロク帝国の神話では、初代帝王が外からくる悪魔に対抗するために、神力をつかって作り上げたとされている。確かに、神力を使えば、これくらい出来そうだから信憑性も高いが、悪魔ってのがなんなのかはわかっていない。
侵略してくる人間なのか、もっと別のものなのか……。
そんな、恐ろしいことを考えていると、急に馬車が止まった。
「な、なに!? 」
「爺様! どうしたんですか!? 」
「むこうの岩陰で何かが動いたんじゃ……。恐らく山賊じゃろう」
「賊ですか……。ジーク様はそこで待っていてください! 」
「ああ、速攻片付けて来い! 」
「ハッ! 」
そう答えると、ルーデルは荷台を覆う布を開いて爺に駆け寄っていく。
「山賊ども! 出てこい! 」
荷台を覆う布をめくりながら様子を伺っていると
「見つかっちまったみたいだな~」
そう言って、2メートルはあろうかという巨漢の男が舌なめずりしながら出てきた。かなり太った体で、まさに肉の壁といった感じだ。その後ろからは、ぞろぞろと他の山賊たちが出てくる。
「ちょっと! 20人は居るわよ!? ルーデルと爺さんだけで大丈夫なの!? 」
「耳元で騒ぐな! 見とけ、すぐ終わるから。」
「何余裕ぶっこいてんのよ! 爺さんは高齢だし、ルーデルはまだ12歳なのよ!? いくら賢いって言ったって……」
ティリアがゴチャゴチャと言ってくるが、無視して爺とルーデルの戦を久しぶりに観戦することとした。