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始まり

「お前には悪いが、今日からここを出て行ってくれ」


 そう、何の感慨もなく言ったのは、鋭い鷹のような金の目に金の髪、180センチほどの体躯からは威厳が感じられる。僕の父だ。


「そんな!? 神力を受け継いだ弟がいるからですか!? 」

「そうだ。それにお前は優秀すぎた。このままでは勢力争いが起きんとは言い切れん」

「私は15年間も帝国のために尽くしてきたのですよ!? 」

「だから、その褒美として殺さないでいてやるのだ。むしろ感謝してほしいくらいだ! 」

「そんな……っ――」



―――僕は今日、父に捨てられた―――



―――――



「おぎゃああぁぁぁ、おぎゃああぁぁぁ! 」


 帝国暦2000年 僕、ジーク・フォン・ラグナロクはラグナロク帝国の嫡男として生を受けた。

 5歳になるまでは、取り巻きが多く僕の周りに侍っており、蝶よ花よと育てられた。

 しかし、そんな生活も5歳の誕生日とともに破綻する。


 ラグナロク帝国の帝王は神力と呼ばれるものを使うことで、多くの敵を屠り、民たちに安寧をもたらしてきた。

 神力とは初代ラグナロク帝王が神から授かった力だと言われており、その力は大地を割り、空を光で満たしたと云われる。


 現在の帝王、僕の父も力は落ちたものの、神力を使うことができる。

 神力があまりにも強い力を持つためか、代々帝王の選定条件には神力が使えるかどうかが重要なファクターとなっていた。といっても、神力を継承せずに生まれてきた子など帝王家には存在しなかったため、その力の強弱で判断されることが多く、僕も5歳になると神力の計測をすることになった。

 計測結果では、僕は神力を少しも使うことができないと出た。これに焦った父は測定装置の不備や不調を調べさせたが、そういった外的要因は一つもみつからず、僕が神力を使えないことは確定となった。


 今まで、そのような子が帝王家に生まれた前例がなかったため、僕の母は誰かと姦通したのではないかと疑われ、処刑される……。

 僕も処刑されるはずだったが、母の最後の願いにて生かしてもらうこととなり、今現在まで次期帝王を補佐し、母が残してくれたこの命を使っていこうと様々な学問に手を伸ばし、寝る間も惜しんで頑張った。


 そして、僕が10歳のとき弟が生まれた。

 僕という前例があったが、二子もそれが続くとは誰も考えておらず、皆がそれを祝福した。もちろん僕も、将来仕える王の誕生を祝福した。


 そして弟が5歳となったころ、神力を測定をすることになる。測定数値は、父よりも高いものだった。僕は、

 心から嬉しく思った。



――しかし、それが悪夢の始まりだった。――




―――――




 父に出て行けと言われた。殺さずにいるのが恩賞だと……。


「ふざけるな! なにが恩賞だ! 僕と母は……何のためにこんなところで……! 」


ドゴッ!


 自室に戻った僕は、言いようのない怒りを壁にぶつける。

石の壁を殴りつけたせいか、手の甲から血が出てくる。


「なぜなんだ! 僕は……僕は! 」


ドゴッ!ドゴッ!


 かなり大きな音が響き渡るが、5歳の時から暮らしている離棟には僕の他に誰もいないため、誰かが止めに入ることもない。

 そうして、1時間ほど時間が経った頃だろうか、僕の手は真っ赤に染まり、手の甲の骨も折れてしまっているのだろう、大きく腫れ上がっていた。

 それでも、僕の生きてきた15年間が……。母の愛が無駄だったと言われた憎しみが僕を動かし続ける。


ドーン!


「な!? なんだ!? 」


 痛みも気にせずに壁を殴り続けていると壁が大きな音を立て崩れた。

その先は、空洞となっているが、光がないのか真っ暗で何も見えない。

 普段なら、このような未知の危険な場所には一人で入ることはないが、今日は何もかもがどうでもいい気分だったためか、中に入ってみることにした。


「……どうせ、僕はもう無価値な人間だし、どうなってもいいか……」


 そう呟きながら、入ってみると案の定、中は真っ暗で何も見えない。

しかし、手を彷徨わせていると、壁に手すりがあることに気づいた。


「これを伝ってみるか……」


 それを辿って歩いていくと、何かが光っているのが見えた。

 近寄ってみると、そこには光を放つ装置もないのに自己発光しながら浮いている指輪があった。


「なんだ、これは……」


 このような指輪を見たことも聞いたこともなかったためか、少し驚いたが、自分の知らない魔具の一種だろうと思い冷静になる。


「どうせもうすぐここから出て行くんだ。もらっていくか……」

 

 僕を捨てた帝国に配慮する必要なんてどこにもないため、ネコババすることに決めた。

 腫れ上がった手では指輪をつけることはできないため、指輪を胸ポケットに入れると、先ほどと同じように手すりを伝って部屋に戻った。


「出ていく準備をしないと……」


 先ほどの出来事で幾分冷静になった僕は、そう呟きながら準備を始めた。



 数少ない持ち物を遠征用に持っていたカバンに入れていると、コンコンとノックをする音が聞こえた。


「ジーク様、準備は出来ましたでしょうか? 」


 そういったのは、嗄れた声だった。おそらく、僕を幼少時から見てくれている爺だろう。


「ああ、今行く」


 そう言うと、カバンを持ちドアを開ける。

 そこには、身長190cmはあろうかという巨体。白髪交じりの銀の髪に切れ長の青い瞳。年齢を物語る深いシワと長いヒゲが生え、薄い青色のローブをきた人物。ハンス・フォン・ルッテンハイム、僕が爺と呼んでいる人物がいた。


 それともう一人、身長140cm、銀の髪に切れ長の青い瞳は爺と同じだが、シワやヒゲはひとつもなく、毛穴の見えない滑らかな肌。薄い青色のローブを着た12歳くらいの男の子がいた。爺の孫である、ルーデル・フォン・ルッテンハイムだ。

 二人は、壊れた壁に少しだけ目を向けたが、直ぐにこちらに目線を戻した。


「ジーク様、私めもご一緒したく存じます! 」

「私も、爺様と同じ気持ちです! 」


 爺は母の代から僕の家に使えていた、魔具使いだ。その腕前は帝国でも有数で、その力はルーデルにも受け継がれている。


「爺やルーにまで、迷惑はかけられないよ……それに爺はこの国でも有数の魔具使いじゃないか……」

「いえ! ジーク様の母アリア様からジーク様のことを守ってやって欲しいと言いつかっておりますゆえ、爺は片時も離れたくはございません! ……それに、ルーデルは両親ともになくして孤独な身、どうか! お連れください! 」

「僕についてきても、名誉もお金も何もないよ? 」

「「それでもでございます! 」」

「僕は、この国に復讐をしようと思ってる……。それでも、ついてくくる…………と? 」

「「ジーク様が望むのなら!! 」」

「じゃあ、ついてくることを許そう」

「「ありがたき! 」」



―――僕は、爺とルーデルを連れて、今日この国を出ていく。

―――幼き日の暖かな日々を過ごした主棟と、暗く寒い日々をくらしたこの離棟を見比べ、いつか僕を切ったこの国を見返してやることを心に誓い。門に向けて歩いていく。


「ジーク様、これからどうしますかな? 」

「そうだな……。僕……いや、俺はこれより暗黒大陸へと行こうと思う! 」


 この世界には中心にここラグナロク帝国が構えており、その周りを4つの大国、さらにその周りを数々の小国が囲んでいる。さらに外側には、未だ人類が踏み込んだことがないと言われている、暗黒の大陸がある。


「暗黒大陸ですか!? 危険です! 」

「ふぉっふぉっふぉ。また、ジーク様の無茶がはじまりましたのお! 」

「ルーの心配は嬉しいよ。でも、俺は暗黒大陸を開拓して新たな国を作りたいんだ」

「……わかりました」

「ありがとう、じゃあ行くとしようか! 」

「「ハッ! 」」



 これは、捨てられた大国の王子が二人の従者を伴って行く、復讐と成り上がりの物語である。

処女作です。

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