1話 プロローグ・過去の惨劇
吉樹浩二には、幼馴染がいた。
橘零火。背は浩二より少し低く、性格がいい上に美人だった。
将来結婚をしよう。真剣にそんなことを言えるまでの仲だった。
だがそんな日常は、浩二が高校に入る前に全て崩された。
卒業直前だった2人は、ショッピングモールへ出掛けていた。その時、そこで武装したテロリストたちに襲撃され、浩二と零火は捕虜にされ、他の客や店員たちは全員死んだ。
「殺し合え。どちらか生き残った方を捕虜にする」
女のボスだった。その冷酷な眼差しは、今でも忘れることはない。
銃を渡された。ミリタリーオタクでもあった浩二は、その銃がワルサー社製のP99だと瞬時に分かったが、弾倉には弾が1発しか入っていなかった。
状況を打破することは不可能だった。どちらかが死に、どちらかが生きる。
零火は薄々感づいていた。おそらく浩二が死ぬだろうと。
だが、次の瞬間、浩二は瞬時にP99を零火の眉間に照準した。
「……悪い、死んでくれ」
パァン!という発砲音。4メートルほど先にいた零火は、眉間を撃ち抜かれて即死だった。
何故、という疑問を通り越して、零火は浩二を憎んだ。憎んだまま、死んだ。
浩二はそれを分かっていたが、もう会うことはないと割り切った。
―――だがそれも、この世界が無かったらの話である。