7.その理由を
あぁこの人は、と私は思った。
あぁこの人は、光と私とを区別してくれている。
この瞬間、私は確かに幸福だった。
「‥‥貴女は」
私が笑顔を浮かべていること、彼女は知っているのだろうか。
「貴女は、私を救うために来てくれたの?」
それは他愛無い問いかけ。答えなんて何でも良かった。
それでも彼女はしばし本気で考えてくれた。
「‥‥そこまでは考えていなかった」
そのときの私は確かに幸福で、初めて私に訪れた奇跡に有頂天になっていた。声を上げて笑ったことなど記憶に残る限り初めてだった。
「‥‥けれど、そうだな。
見極めにきたんだ、私は。あんたを。
あの日舞台の下から見上げたあんたは確かに光り輝いていて、けれど私の目には光はあんたの中から発されているというよりは外から集まっているように見えて。どういう存在なんだろうと思った。
幸いというのかなんと言うのか、私自身も聖者として認められているから、とにかく近くで見てみようと思ったんだよ」
「‥‥なんだか私、珍獣みたい」
「‥‥特異な存在なのは確かだよ」
私はごまかさない彼女が好きだ。
ふと彼女が表情を隠し、背後の扉を気にした。
私もつられて表情を隠し、扉を見つめた。
扉が叩かれた。
あぁ、と思った。幸福な時間が終わりを告げる。
「‥‥はい」
私の返事とほとんど同時に扉が開かれて、そこに立つ人々を見て私は目を丸くした。彼女も目を凝らすように、耳を澄ますように振り返った。
「‥‥長様?」
それはこの神殿の長と、その周囲の人々だった。象徴であるところの私が日常的に出会う、それは全ての人々だった。
その人々は常に穏やかな微笑みをたたえている。
「畏まらないでください光の子。
そちらにいらっしゃるのが、凝り目の聖者様であらせられますか。はじめまして、ご挨拶が遅れたことを詫びさせてください。私がこの神殿の長を務めますセジール・イラ・ヨセです」
‥‥神殿長の長い名前を、私は初めて羨望を持って聞いた。
彼女はじっと神殿長を見て、神殿長はそんな彼女を穏やかな微笑みの下から興味深そうに見返した。
「はじめまして、長殿。凝り目のリンと申します。
ぜひ光の御子にお目にかかりたいと願い、果たされました。嬉しく思います」