5.凝り目
「なるほど、今の人に見えた隠し事はそれか。正直な人なのに何を隠しているのかと思っていた」
「?」
首を傾げると、私の疑問を感じ取ったのか彼女は自分の濁った目を指差した。
「凝り目は真実を見抜く、というのは知っているか」
「それだけ聞いたわ。何のことやらさっぱり分からなかったけれど」
私が返事をすると、彼女はぐるりと一回り部屋を見回した。私たちは応接の部屋に座らされている。私の背後には私の部屋があり、彼女の背後には神殿が連なっている、のだろう。私がこの部屋より外で知っているのは頂の舞台につながる階だけで、ほかのところへは行ったことがない。ともかく、世話係の彼女が出て鍵を閉めて行ったのだから、この部屋よりこちら側には彼女と私しかいない。興味を引くような調度品もまったくない。
彼女は何を確認したのか、また私に目を向けて説明をはじめた。
「まぁそうだろうな。凝り目を持った人でなければ分からないだろうし、これは捨てられるものでもないから普通の人は知らないままだろうな。
凝り目は真実を見抜く。普通の人が普通にものを見てものが見えるように、その本質が見えるのだよ」
よく分からない。
彼女はほとんど私を睨みつけた。普通には見えないはずのその目は、確かに私を射抜いた。
「私の目には、光の子、あんたは闇を抱いて見えるのだよ」
口早にそう言った。
あぁ、彼女は聞き耳がないことを確認していたのか、と私はぼんやり思った。
「‥‥え?」
聞き返したけれど、心は躍っているのを知っていた。
「あんたは胸の内に深い深い闇を抱いている。もちろんその周りに光は見えるさ、私の目でも。けれどそれは、あんたの周りを覆っているにすぎない」
あぁ、彼女は本当に私を見抜いている。
凝り目によって世界がどのように見えるのかはさっぱり分からなかったが、私はその問答だけで、彼女が本質を見抜くということだけは信じた。
「‥‥貴女は本物なのね」
囁いた私に、
「作り物だがね」
囁き返して彼女は笑った。楽しそうに、けれど辛そうに。