1.目にしたもの
そして、川の向こうに、光を抱いた私の旅の終わりを見た。
旅の終わりが近付いていることは感じていた。
掻痒感は耐え難いほどで、リンに手を引いてもらわねば歩けないくらいに息苦しかった。凝り目である以外は盲目のリンに手を引かれている、という可笑しな事実に気付けなかった程私は、光は追い詰められていた。
それを強要するリンを最早憎く思うほどに。
ソンブレはいない。もうここ数日、息苦しさが耐え難くなった頃とどちらが早かったか、見ていない。それもどうでもいいことだ。私の世界には最早神殿は無関係で、私とリンだけがあるような気がしていた。
「さぁ。あんたは何を見る?」
大きな川を挟んだ向こう、わだかまるそれに手が届かないところで、私の顔を上げさせたのはきっとわざとなのだろう。多分、それよりも前から、リンは、私の光を追い詰めるために。
「‥‥あ」
そこには闇があった。
かつて果ての神殿で、私は毎朝崖下の闇を見ていた。それくらいのことでしか、私は光を苛めなかった。その頃に見ていたものと、あぁ、似ている、と思った。
忘れていたのに。私はかつてはそのように、光を神殿を忌み嫌っていたのに。それを忘れていたのに。
「私の目には、あれは迷子に見えるよ」
隣でリンが何かを言っている。
私は闇から目を逸らせない。
「私があんたをここに連れて来た意味が分かる?」
あれは迷子。凝り目を持つリンがそういうのなら、あの本質は迷子。
ではその家はどこ?
「8年前にあんたに出逢って、次に逢うことは禁じられて」
私の見開いた目は、ひたすらに闇を映し続ける。
すぐにでも駆け付けたいのに、それには川が邪魔をする。それに私の左腕を抑えるリンも。
邪魔をする。
「私は聖者なのだし、世界を巡っていた。本質を見抜くなんて目は、なかなか利用しようにもできないものだし、気楽なものだった」
隣に立つリンがどんな表情で私を、光を、あるいは川の向こうの闇を見ているのかは知らない。私の左手を握るその手に、どんな力が込められているのかなど。知らない。
「そしたら、ねぇ、あの町で」
思い出を語るように軽妙に。どこか楽しそうなのに私はその先を聞きたくない。
あぁ、これは、どちらの感情?
私のもの、それとも光のもの、私には分からない。
「まさか再会するはずはなかったものに再会したんだよ」
駄目、だ。
このままリンに喋らせたら駄目だ。止めなければならない、そしてあの闇を払うのだ、それが光の子である私に課せられた使命。
それは光の意志で神殿の教義で、では私が望むものは?分からないから私は、リンを止めることができずに闇を凝視する。
「ジャコギート。あれはあんたの闇だろう?」




