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偽りのジャコギート  作者:
18歳、地上のどこかで
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13.均衡

 私たちは北へ北へと道を辿った。


 漂う空気は薄暗く感じられてきて、それを受けて私の光が私を押しのける度合いが強くなってきた。もう大分長い事、私が物心ついてからついぞなかった程、長い事光は私を見失っているのだけれど、だからといって私の中にあるそれが力弱くなることはなかった。


 息苦しい、気がする。


 この息苦しさは間違いなく光が感じているもので、それはつまり闇の衣がもたらすもので、ついに私は光を抑えきれなくなりそうだった。


「‥‥リン‥‥もう‥‥」


 頭巾の下から窺うことすら本当はつらい。途切れ途切れに口にする私に、リンが見せたのはいつもの冷静な表情でしかなかった。


「つらい?」


「‥‥」


 こくりと頷くくらいしかできず、それではリンには伝わらないと分かっているのに言葉を発するのがすでにつらい。私の全力を以て右腕を抑えなければ、今にもこれを取り払ってしまう、と思った。


 重苦しい。息苦しい気がする。けれどもそれは光が感じているもので。


 リンを排除しなければと思う、リンがくれたこの衣を焼き捨ててしまいたいほどの気持ちは、間違いなく光が感じているもので。私はそれに屈してしまいそうだった。


「‥‥もう少し‥‥だと思うんだが」


 もう少し。もう少し歩けば?闇に辿り着くのだろうか。それとも、もう少し経てば、私が光に打ち勝つときがくるとでもいうのだろうか、それは、無理だと泣きたくなる。だが実際には私は反論ひとつもできず、ただ、首を横に振る。


「‥‥それなら右腕縛ってしまおうか」


「‥‥え」


 あまりにもあっさりとリンは言った。一瞬私は苦しさを忘れてぽかんと口を開けてしまった。


「だって自分では抑えられないんだろ。それなら仕方ない。今光にあんたを晒すわけにはいかないのだし」


 至極当然のように彼女は言って、うっかりと私は頷いた。



 結果として、旅は実につらいものとなった。


 この息苦しさは掻痒感に似ている。


 痒くて痒くて溜まらない、掻いてしまえば楽になるのは分かっているし同時に傷跡が残ることも分かっているが、それでも手が出ない掻痒感によく似ていた。あまつさえリンによって私の右腕は外套の中で胴体に縛り付けられていて、それは別段がっちりとはしていないのだけれど外套も頭巾も跳ね除けるには足らない程度で、動かすことはできるのに痒いところに手が届かない、という感覚。


 左腕は動くのだけれど、こちらは私のそのものの意志に従うので。


「‥‥余計つらい‥‥」


「それはすまないね」


 最早息も絶え絶えな気持ちで私は言うのに、軽妙にリンが返すから、もやもやと定まらない気持ちが心の内に芽生えるのが分かった。


 これは、一体、どちらの心?

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