11.途上で
息苦しい、気がする。
「ジャコギート?」
またか、と苦々しく思い、私は心配そうに覗き込むリンに首を振って見せた。そうしてから意味がないと気付いて、なんとか口を開く。
「だいじょうぶ」
大丈夫。ただ、またこの闇の衣を跳ね除けたくなっているだけ。
今はまだ昼間で、少しくらいならいいだろうかと思えてしまうのだけれど、そう思えること自体が光の罠に感じられて、私は一層深く頭巾をかぶり直す。だけれども、それは逆効果なのではないかとも思えて、あぁ、私はどうしていいか分からない。私は私が一番信用できない。
「ひかり、が」
「あぁ‥‥」
一目で私の状態を見て取ったのだろう、何かもう、縛り付けるでもしたほうがいいのかな。不穏な呟きがリンの唇から洩れたが、それは聞かなかったふりをした。正直なところ私の意志は弱いので、多分、もう、光を抑えることも難しくなっているのだけれど。
それでも、私は、私の意志で以て、彼女に全てを押し付けるのではなくて、私が追いやってしまったという闇のもとへと行かねばならない。
――そんな必要はない、わたし達の子
囁き声が聞こえた気がしたけれど、私はそれも無視をした。
昼間はなるべく歩き、夜は野宿にならないよう建物の中で休むような旅を続けた。
実にぬるいと思うが、けれど、私の光が漏れださないようにするためには仕方がないのだ。さらに夜明けの時間は光が起き出しがちなので、休む時には必ずリンと隣り合わせで、リンは夜明け前から私を監視するような生活となった。リンは光と私とを区別してくれるので、光の勝手を許さないでくれる。
とても負担をかけていると思うのだが、とても申し訳ないと思うのだが、感謝と謝罪を告げたら怒られた。
「余計なことを考える必要はないよ」
リンは激高するようなことはない。ただ静かに諭すように、その凝り目で私を見抜く。
「それよりも、あんたは、闇と出会ったらどうするのかを考えてくれ」
「払うのではないの?」
「‥‥光の考えでなく、神殿の思惑でなく、あんた自身の考えでそう思うのならね」
そう言った彼女はやっぱり辛そうだったので、それ以上何かを言うことはできなくなった。
私自身の考えとは何だろうか。そのようなものは存在するのだろうか。
物心ついたころから当たり前のように光に取り巻かれていて、教えられるものは神殿の教義ばかりで、私は私の言葉でなど何かを考えたことはない。それは、ひどく、情けなく恐ろしい事のように思えた。
だから考えてみようと思ったのだけれど、慣れない旅と・光に由来する苛立ちと・道行きに対する不安とで、まったくまとまらない考えを持て余しながら歩くしかなかった。




