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偽りのジャコギート  作者:
18歳、地上のどこかで
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9.歪みということ

「私があんたに外套を脱がないでほしい、というのも、それが理由だ」


 どれ?


 と、顔に書いて‥‥あったとしてもリンには読めない。表現は何でもいいがとにかく私の疑問が分かったのだろう、言い直してくれた。


「光があんたに(たか)ってくるからさ」


 ‥‥それにしてもリンの言い方だと、光が羽虫か何かのように思えてくるから不思議だ。と思い、羽虫に集られる自分を想像して気分が悪くなった。


「‥‥自覚はなかったんだろうけど」


 気付けばリンの前のスープは空になっていた。私は慌てて手元のパンを千切るが、口に運ぶことはできなかった。彼女があまりに真摯な表情をしていたから。


「再会したあんたは随分と、光に染まってしまっていた」


「‥‥それが、悪い事なの?」


 あまりに痛ましそうに言われて、反発を覚えるこの部分は光なのだろう。だとしても、小さな私が心にずっといたように、光に染まった私もやはり私なのだと思う。思うのだけれど、リンはそれを嫌っている、ようだった。


「歪んでいる」


 きっぱりと言われて、怯んでしまう。


「だって、ほら、一両日程度光を遮断しただけで、あんたは昔に戻っているのに」


「‥‥そうなの?」


「そうなの。長いことかけて歪められていた、すぐに元に戻るような歪みかたは、無理がある」


 何となく木の枝を想像した。


 紐か何かで曲げて固定した木の枝は、それがわりに長い時間でも、紐を切ればまっすぐに戻る。逆に、折れてしまうこともある。それとは違って、成長の中で曲がる方向に誘導された木の枝は、その方向に成長していって、それが当たり前となる。そういうことだろうか。うまく言葉にはできないから想像しただけだけれど。


 というよりも、私自身としては変化は実感できないのだけれど。


「だから私は光を憎むんだよ。

 それはいいからいい加減食べ終われよ」


 食べられなかったのは多分にリンの話のせいなのだが、ぶっきらぼうな言いかたが妙に照れているようで、指摘はできなかった。



 胃を落ち着かせる間もなく、慌ただしく私たちは小屋を出た。


「‥‥何をそんなに急いでいるの?」


 昨日もリンが苛立っていたのは分かっている。旅慣れない私を連れての移動は大変だろうに、それでもそれを選択する理由は何なのだろう。そういえばリンが私を攫ったという、その理由を私は知らない。ただ光の子をやめさせたいだけならば、この外套があればそれでいいように思うのだが。


「昨日も言わなかったか。闇を見に行くんだよ」


「闇、を?」


 言われたか。言われたような気もするが、再会からこっち、混乱することばかりで何を告げられたのかまだ消化できていない。


 やはり彼女は私を責めるように見る。私を、私の光を。


「あんたに光は集る。その光はどこからくるんだと思う?」

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