9.歪みということ
「私があんたに外套を脱がないでほしい、というのも、それが理由だ」
どれ?
と、顔に書いて‥‥あったとしてもリンには読めない。表現は何でもいいがとにかく私の疑問が分かったのだろう、言い直してくれた。
「光があんたに集ってくるからさ」
‥‥それにしてもリンの言い方だと、光が羽虫か何かのように思えてくるから不思議だ。と思い、羽虫に集られる自分を想像して気分が悪くなった。
「‥‥自覚はなかったんだろうけど」
気付けばリンの前のスープは空になっていた。私は慌てて手元のパンを千切るが、口に運ぶことはできなかった。彼女があまりに真摯な表情をしていたから。
「再会したあんたは随分と、光に染まってしまっていた」
「‥‥それが、悪い事なの?」
あまりに痛ましそうに言われて、反発を覚えるこの部分は光なのだろう。だとしても、小さな私が心にずっといたように、光に染まった私もやはり私なのだと思う。思うのだけれど、リンはそれを嫌っている、ようだった。
「歪んでいる」
きっぱりと言われて、怯んでしまう。
「だって、ほら、一両日程度光を遮断しただけで、あんたは昔に戻っているのに」
「‥‥そうなの?」
「そうなの。長いことかけて歪められていた、すぐに元に戻るような歪みかたは、無理がある」
何となく木の枝を想像した。
紐か何かで曲げて固定した木の枝は、それがわりに長い時間でも、紐を切ればまっすぐに戻る。逆に、折れてしまうこともある。それとは違って、成長の中で曲がる方向に誘導された木の枝は、その方向に成長していって、それが当たり前となる。そういうことだろうか。うまく言葉にはできないから想像しただけだけれど。
というよりも、私自身としては変化は実感できないのだけれど。
「だから私は光を憎むんだよ。
それはいいからいい加減食べ終われよ」
食べられなかったのは多分にリンの話のせいなのだが、ぶっきらぼうな言いかたが妙に照れているようで、指摘はできなかった。
胃を落ち着かせる間もなく、慌ただしく私たちは小屋を出た。
「‥‥何をそんなに急いでいるの?」
昨日もリンが苛立っていたのは分かっている。旅慣れない私を連れての移動は大変だろうに、それでもそれを選択する理由は何なのだろう。そういえばリンが私を攫ったという、その理由を私は知らない。ただ光の子をやめさせたいだけならば、この外套があればそれでいいように思うのだが。
「昨日も言わなかったか。闇を見に行くんだよ」
「闇、を?」
言われたか。言われたような気もするが、再会からこっち、混乱することばかりで何を告げられたのかまだ消化できていない。
やはり彼女は私を責めるように見る。私を、私の光を。
「あんたに光は集る。その光はどこからくるんだと思う?」




