3.来客
朝日を見つめる私の背中から声がかかる、
「光の子、お食事をお持ちしました」
私はほのかな期待を抱いて振り返る、
「ありがとう」
そしていつも失望する。いつもいつも、世話係の娘はきちんと布を巻いている。
私に声をかける前に、私に背を向けて給仕を行っているから、世話係は引き下がる。少なくともいつもはそうだった。
「光の子、本日は貴女にお客様があります」
出し抜けに彼女が言って、私はきょとんとしてその顔を見た。けれど目を覆った顔からは感情はなかなか読み取られない。私は彼女に首を傾げてみせ、それから疑問を口にした。
「お客様?」
「はい。凝り目の聖者様が、昨晩神殿においでになりました」
「コゴリメ?」
神殿の人々は、私に聖書以外のものを読ませない。コゴリメというものは、多分、私の知る限りの知識にない。
「凝り目、物事の本質を見抜く目のことです。それをお持ちの聖者様が貴女にお会いになりたいと」
「そうなの?」
それだけの説明でははっきり言ってどういうことなのか分からなかったが、多分彼女にこれ以上を尋ねても無駄だろうと私は思った。世話係は覚えている限り3人目だけれど、今の彼女はこれまでで一番頭が固くて鈍い。
それにしてもその聖者様とやらはずいぶんと偉いようだ。私は奇跡の子として頂の舞台に立つだけで、世話係とか教育係とか、あと神殿長様辺りの方々としか会うことはない。これまでの神殿での生活は、だから退屈な日々だった。ただひたすら聖書を読む日々。
だから、よく考えてみたらそのコゴリメの聖者様が私に取って初めてのお客様なのだ。私はこの世界の果ての神殿に顕現した奇跡でしかなくて、ただの信仰の象徴にすぎない。誰も象徴としての私以外に用はない。会って話をするという行為を、私に望んだ人なんて、今までいなかった。
そう考えると嬉しくて、私はその午前中をどう過ごしたものだか碌に覚えていない。
そして私はリンに出会った。