6.一日目の終わり
それ以上の質問は許されなかった。
押し付けられるように夕食を渡されて、とにかく食べて寝ろと言われた。混乱して感情の動きに疲弊していた私はそれに逆らうこともできずに、ふらふらと示された寝台へ向かった。
そこで困った。
「‥‥あの、リン」
「いいから寝ろって」
「いや、それは、そうなのだけれど」
面倒臭そうに振り返ったリンが、濁した私の言葉に眉をひそめた。何と言ったらいいのか、この居心地の悪さを。
「あの‥‥この外套、は」
リンの知る限り最も深いと言う、この闇。
私にとって世界は光に満ちているもので、部屋の明かりを落とされても周りが見回せないことなどなかったから、廊下からの光を背にした彼女の表情が見えない薄闇は、初めて経験する類のものだ。このまま扉が閉じられても、きっと本当の暗闇にはならないのだろうけれど、それでも私にはどこか、恐ろしい。かといって彼女が脱ぐなと言った、頭巾を頭から払い落とすことも、彼女の許可がなければしてはならないような気がしている。
縋るように見てしまったが、だから、彼女に言葉にしない表現は意味がないのだった。
「あぁ。暗いと寝られない?」
「‥‥分からない」
これは、本当に分からなかった。
今日目を覚ました時には、すでにこの外套を纏っていた状態だったわけだが、その前に私はすでに眠りについていたわけで、光の溢れていない状態から寝ようというのはこれが生まれて初めてのことなのだ。だから、分からない。
そう告げると、彼女は少し困ったような表情をした。
「‥‥そうだな。この部屋だと、脱ぐのはまずいかな」
彼女が顔を向けたほうには窓がある。薄手のカーテンはかかっていたが、経験上、まず間違いなく私の光は漏れる。それに若干の隙間風、季節柄凍えるということはないが少なくともこの小屋の作りは甘いようだから、つまりそこからも光は漏れるだろう。
「窓の所にこの外套を貼り付けたら」
「あぁ、私が心配しているのはそういうことではないから」
追手が、とかそういうことを考えていた私は、あっさり斬り捨てられてきょとんとしてしまった。
「まぁ‥‥明日説明するから、とりあえず今日の所はそれを被ったまま寝てくれないか」
寝られないようなら方法を考えるから、とまで言われて、つまりとにかく彼女は私からこの闇を離したくないのだということが分かっただけだった。
ちなみに結果としては、疲れていたせいで、検証するでもなく横たわるなり眠りに落ちてしまった。ということだけは記しておく。




