4.彼の本質
「私の凝り目は、まったくの盲目よりはましなんだろうが、物事の本質を見抜くが本質しか見ることができない」
分かるような分からないようなことを彼女は言った。いや、嘘を吐きました。分からないことを言われて、私は曖昧な笑みを浮かべて彼女を見ることしかできない。表情なんて取り繕われた最たるものだろうし、リンにその意味は伝わらず、彼女はただ淡々と言葉をつなげる。
「あの男の本質は、盾だ」
「それは‥‥そう、誓ってくれたから‥‥」
「いや、ひとの言葉による誓いに意味なんてないよ」
ばっさり切られた。
「ジャコギート、あんた、あの男の闇をその光で埋めたのだろう」
それは疑問符すらつかない断定だった。私は無言で頷いて、それが見えていないことに気付いて「えぇ」と言おうとしたが、それより一瞬早く彼女が続けるから、私はただ圧倒されるばかりだ。
「光も闇も、ひとの本質に根付いている。あの男は一度人格を破壊されたも同然だろうよ」
「‥‥え」
「まぁ、あんた自身もそうして歪められているものだから、気付かないのかもしれないが」
何やら今、ものすごく不穏で聞き捨てならないことをさらりと言われた気がするが、やはり私が意味のある言葉を発そうとする前に絶妙の間で、リンは続ける。もう分かっていてやっているのではないだろうか。私は半ばあきらめて、混乱して言葉を捜すのも一苦労だし、大人しく傾聴することにする。
「ま、とにかく光に大幅に浴されたせいで、あの男は本質から盾となった」
だからよく分からなかったんだ、と彼女は言った。私はもっと分からない。
「普通、人間は盾とならない」
彼女の言うのが、比喩としての国家の盾とかでないことくらいは分かるけれど。
「だから、いつどんなところから窺ってもそびえる盾の意味が分からなかった」
私の感覚からすれば、ソンブレはいつだってそば近く控えていたような気がするのだけれど。気付かないうちに私を守っていたのか、と思い、心が暖まると同時に寒くなる。
「向こうにしてみても私の存在は意味が分からなかったんだろうな、十日くらい前に、声をかけられた」
驚いたなんてものじゃなかった、とリンはしみじみ呟いた。
「『貴様はあのかたの敵なのか、味方なのか』と訊かれて、あれ、多分返事があと少し遅かったら斬り捨てられていたんだろうな」
危険が膨れ上がるのを見て取ったから、リンは慌てて応えたのだそうだ。
「『私は光の味方はできないが、あの娘の敵にはならない』」
光に浴されてその本質を歪めた相手に対するには、不用意な返答だったかもしれない、と、後から考えて冷や汗が止まらなかったそうだが、幸いソンブレはその答えに殺気を‥‥リンの目に映るものとしては危険を、収めたのだそうだ。
「あの男は人物だよ、ジャコギート」
凝り目さえ持たないが、本質を見抜く目は持っているのだろうと言う。随分と買っているのだな、とわずかに不快感を覚え、そのことに動揺した。動揺した私はごまかすために別のことを尋ねる。
「あ、あの、それって何なの?」
「何とは?」
「ジャコギートって‥‥」




