5.彼らの行く末
「解放する、と?」
「駄目でしょうか」
そうこうしているうちに訪れた第3皇子は、転がる人影を目にすると頭に血が上ったようだった。今にも剣を手に、彼らの口を割らせて依頼主のところに飛んでいきそうだったので、慌ててそれを止めた。神殿長は口を挟まない。ただ、静かな瞳でこちらを見ている。
私は未だ目を覚まさない彼らを均等に見て、それからじっと皇子の目を見つめた。
「彼らの闇は払いました。私たちに害なそうなどという気持ちはもうないはずです」
「それは俺も保証しますよ」
確かに経験者であるところのソンブレの言葉ほど、真実味のあるものもないだろう。皇子は眉間にしわを寄せて悩みこんだ。
「だが‥‥おそらくはこのまま戻しても、奴らに待っているのは制裁のみでしょう」
それよりは、第3皇子の客人を傷つけようとしたということで、公に裁く姿勢を見せたほうがよいのではないかと皇子は言った。そうか、彼らの生命をつなぐために、そのような選択肢を選べるのか。
本当に私はものを知らない、と自嘲する。だが仕方がないのだ。私はあくまでも神殿の子、政治的判断などとは無縁の世界で、神殿の教義だけが規範だった。神官ではない、ただ奇跡の体現として在るだけの子。それが私だ。
「‥‥私には分かりません」
光は裁かない。光は許すだけだ。救いだし、祝福し、導くことしか私は知らない。
「ならば、彼らのことも保護するしかないでしょう」
泣きそうな私に、だから神殿長の言葉は天啓に聞こえた。
「保護ですか?」
皇子は俗物だが愚物ではない。苦い顔をしたままながらも、
「結局それしかないのでしょうな」
と言ったから、ではそれは選んでもよい選択肢なのだな、とそれで分かった。
「許されるのならば、私はそうしたいです」
一介の子である私に、そう多くの人々の生命を預かることができるかどうかは不安だが、裁きを知らない私としては、提示された中では一番意に沿うものに思えた。
「許しなど。貴女の望むことならば、私は叶えましょう」
相変わらず皇子は私に対しては柔らかい。指先にひとつ口づけを落として、
「それに、先方にしてみれば差し向ければ差し向けるだけ手駒を剥がされていくわけだ。力を殺ぐ意味でも、よいかもしれません」
そう微笑うから。だからきっと私は間違っていない。




