3.光と闇
「窓を開けてください」
逃げも隠れも私はしない。逃げても隠れても何にもならない、私はこの国に闇を払いに来たのだから。光で満たしに来たのだから。だから少しでも、使命を果たすように私は動く。
そのことはよく分かっているはずだった。それでも皇子は、如何にも渋々と、窓を押し開いた。
風が通る。
「あぁ‥‥光が」
「この部屋を満たすことに意味はないでしょう?」
おそらくは反動なのだろう。この国に来て、皇城に赴いて、あまりの対比に私を取り巻く光は常よりも強くなっていた。それとも闇に覆われていただけで、存在していた光だったのかもしれない。それが私を慕って集っていた。それを、解き放つ。
「本当に心あるひとならば‥‥損ねられていない者であれば、これだけでも導かれることでしょう」
けれど、光の神殿に出向いてまでも満たされない闇を抱えていた皇子がいたように、内まで闇に侵されてしまったものたちは、そこここにある闇を払ったところで救われはしない。そのような者たちを救うためには、直接の祝福が必要だった。
「‥‥それにしても不思議なものですね」
いくら光に満たされていても閉じた部屋は息が詰まっていたようだ。通る風に誘われるように、私は呟いていた。
「御子?」
「あぁ‥‥いえ、貴方がたに闇は見えないのでしょう?それなのに光は目にすることができる。それは不思議なことだと思いませんか?」
私にとって光は常にそこにあるもので、闇は忌むべき存在で、だから察知することができる。
けれど人々にとって光は救いで、つまり傍らに必ずあるというものではなくて、傍らにあるようにしなければならないのが私なのだけれど、では闇は何なのだろう。何故人々は私に光を見るのに、己を侵さんとする闇に気付けないのだろうか。
「闇は人の業だから、でしょうね」
「業‥‥?」
いつもの微笑みに憂いの色を乗せて、神殿長が答えた。
「あるいは欲と言いかえてもいい。光の子、貴女が稀有だというのは、闇、つまり欲を持たないからなのですよ」
「欲‥‥つまり、生き物は必ず闇を抱えるという、ことですか?」
そのような教義はなかった。
教義にないということは、私の常識にないということだ。恐る恐る尋ねる私に、けれど神殿長は至極あっさりと頷いた。
「えぇ。だからこそ私たちはこんなにも光に惹かれる」
「では、真の意味で光に導くことはできないという、ことですか‥‥?」
生きたいと、願うだけでも闇を帯びるのであれば。けれどそれには否定が返ってきた。
「そのようなことはないでしょう。他者を損ねてでも、という欲が闇を呼ぶのであって、他者と共にあろうという欲はむしろ輝かしいものですから」
「そう‥‥なのですか。それならよかった」
それなら私は迷わなくていい。
神殿でそうしてきたように、私はこの国を光で満たそう。




