1.夢
昔の記憶は白く光って見えない。ただなんとなく覚えているのは、長い長い階を登っていたこと。両隣にいた誰か達は多分神殿の者だったのだろう。
階の頂点には布がかかっていて、その先は見えない。ただ、大勢の人々がいる気配だけは匂っていた。人々が息をひそめて待っている。待たれている対象は、多分、私。
やがて右隣の誰かが私を少し引き止め、私の着ていた布をはぎ取った。そもそもが素朴な粗末な布を巻き付けていただけだったから、私の貧相な体がすぐに表れた。
表れたと思った次には私の体は光に包まれた。
息をひそめていた人々の気配が膨らんだ。
左隣の誰かが私のそばに膝をつき、多分このようなことを言った。
――さぁ、奇跡の子よ。あなたは人々を救わなければなりません。
私は、救い方なんて分からない、どうやったら人々は救われるの、といったことを口にした。左の誰かは唇を歪めた――もしかしたら私自身が記憶を改竄したのかもしれないけれど。
――何もしなくてよいのです、光の子。
――何もしなくてもあなたが存在する奇跡が、人々を救うのです。
よく分からない、と私は言った気がする。
――さぁ、光の子。人々は奇跡を待っています。あなたを待っているのです。
――人々の前に、その奇跡を顕現させること。それはあなたにしかできないこと。
――さぁ、奇跡の子。あの薄布を払って人々を救うのです。
私は頷いたのだろうか。覚えていない。ただ、私は素直に残りの数段を登り、薄い布を払った。