5.旅路の果て
守護者となった男は、影と名乗った。名はなく、仕事を続ける内に囁かれるようになった二つ名しか持たないのだと言った。それはあまりに哀れなことだ。
「では、私が貴方を名付けましょう」
その二つ名は知れていたらしく、皇子も騎士たちも動揺していたが、私には関係がない。そんなことよりも、そう、私は男を光に導かねばならない。
「そうですね‥‥
ソンブレ。西方の言葉で影を意味します。私の影」
光の御子たる私に影は似つかわしくないかもしれないが、けれど、闇から引きずり出した彼には似合いの名だと、自賛した。
蔑称ともとられかねないのだけれど、彼は光栄ですと微笑った。満たされた笑みだった。
その後も襲撃はあったのかもしれないが、少なくとも私には知らされなかった。同行の者たちの誰にも闇を感じることはなかったから、誰かが傷つけられた事実はないらしい、それでよかった。
尚、ソンブレの雇い主は、これから向かう先の町の一つの有力者であるらしい。それを聞いても私からは何もするつもりはない。私にできることはただ人々を光に導くことだけだ。その邪魔をされるのは哀しいことだが、けれどもそれほど闇に囚われたひとならば、それも私が導くべき相手だ。
皇子もソンブレもそんな私に苦笑していたが、特に反対は示さなかった。私がそういう存在であることは呑みこんでいるらしい、私の光に埋められた二人だった。神殿長が反対する謂れもない。彼こそ私に光の御子としての生き方を示したひとだから。
どうしてだろう。心が寒い。気のせいだ。私の周りには私の光の理解者ばかりが集っている。それは喜ばしい事で、厭うべきことではない。そのはずなのだから。
馬車に揺られ、祝福を施し、そんな旅は続いた。もともと私は神殿内での生活に慣れているから、己の脚で歩けないことを嘆くこともなかった。そもそも体力はないのだ、誇れることではないが。
馬車の中は私の光輝で満ちている。ソンブレは名の通り影ながら私の盾となっているらしい、顔を合わせることは少なかったが、不安を覚えることもなかった。同席するのは皇子と神殿長。道行きは穏やかなものだった。
そうしてそんな穏やかな旅路の果てに、私は皇子の故郷の地を踏んだのだった。




