4.光の御子の守護者
襲撃者の男は、身内も仲間もいないのだと言った。ただ仕事を受けて完遂することだけを続けてきたのだと。
そうだろうな、と私は思った。近くに誰かがいればこれほどの闇には囚われまい。どんなに世間から見て悪党だろうとも、心許す相手がいればそこには光がある。孤独は闇を引き寄せる最たるものだ。――では、私は?
――私は世界にひとりきり。ただひとり、光の寵児である私の孤独は闇を引き寄せるのか?
くだらない。益のない物思いを首の一振りで振り払って、私は男に目を移した。
「‥‥では、私を殺すという仕事を受けたということですか」
「愚かなことをしました」
あれほどの闇を埋めたのだ。男は最早誰よりも私に近いほど、光の恩寵を受けている。
だので愚かな行為に出る可能性は皆無だと、きちんとした治療を受けさせてもらった。皇子は少しばかり面白くなさそうだったが聞き入れてくれた。基本的に彼は私の行為の邪魔をしない。
「いえ。そういった行動に出る人々にほど、光の救いは必要なのですから」
いくら光の恩寵を受けても、私以外の人々は光を纏ったりしない。ただその面持ちは穏やかで、慈愛に満ちている。
そう、それは神殿長と同じくらいに。
男は目を輝かせると頭を垂れた。
「愚かな私をお許しください」
「顔を上げて。私が許さないなどと何故思うの」
「あぁ‥‥光の御子様」
けれども男は顔を上げず、言い切った。
「私の生命を貴女様に捧げます」
そうしてから顔を上げて、誓った。神でも私でもなく、光にかけて誓った。
「私は貴女様の盾となります。貴女様に剣は必要ない、ですから私は盾となります」
畏敬と崇拝の念が痛いほど伝わる眼差しだった。
「そのように存在することをお許しください」
だから私は誠実に相対するしかないではないか。
「‥‥私は光の下に生きてほしいと願うのだけれど」
「それでも」
「‥‥それでも私の盾でありたいと願うというのね」
このような生き方は、己を道具と見なす人間にしかできないことだ。だから羨む必要はないのですよ、隣国の第3皇子。
「いいわ、許します。私の盾として生きて」
無駄に生命を散らすことだけは許さない、と、そう告げれば心底嬉しそうにまた頭を垂れるのだ。
「仰せのままに。光の御子様」
こうして私は守護者を手に入れた。




