プロローグ
全4部からなる長編小説です。この魔法も怪物も出てこないファンタジー小説は自分が好きな作品な作品の名シーンを一つに、というコンセプトで描き始めました。連載間隔がかなりあくと思いますがどうか最後までお付き合いください。
双心 〜SOSHINN〜
プロローグ
思い返しても、不思議な日々だったと思う。
いろいろな意味で凝縮された、本当に特別な意味を持った八年間だった。
けれども、その中にいた私にはそんなことを気に留める余裕があるはずもなく、ただその場、その時を生きるだけで精一杯になっていた。
流れに流されるままに生きられたら、どんなに楽だったろうか。
そうしていれば、もしかしたら誰も傷つかずにすんだのかもしれない。
・・・・・でも、いまさらそんなことに思いをはせても無駄だ。私がこうして存在しているのは今。
決して過去ではない。
それにたとえあの時に戻れて別の道を歩めても、きっとまた苦しんで、後悔する。
そう考えると今はよかったのかもしれない。
大切な人を裏切って、傷ついても、私はひとときの幸せを感じることができたのだから。
思えば最初から神様は私の耳元で囁いていた。
・・・・・・・お前は決して幸せになれないよ、と。
そう、私もわかってはいたんだ。
それでも私は言ってしまった。
あの言葉にはまるで魔法の呪文のような魅力があった。
あの時は、それですべてが良くなるような気がした。願いがかなうような気がした。
彼が辛そうなのを見てられなかったから、なにより、私が壊れてしまいそうだったから。
――私は卑怯だ。
そんなことはわかっていた。でも、この胸を締め付ける強い思いはとめられなかった。
――私は嘘つきだ。
そうなることは覚悟の上だった。
好きな人をだましてでも、愛されたかった。幸せになりたかった。
――私は自分勝手だ。
自分が傷ついてもよかった。たとえ愛しい人を傷つけることになってもよかった。
それひとつだけ残ってくれれば、ほかは何を失ってもよかった。もう、自分には失うものなんてないと思っていた。
そして、夢が終わりを告げただけ・・・
あの人にもう一度逢いたい。
それは叶わない願い。
そう、もうどうにもならない。私には希望を見る資格すらない。
私は憎い。
この顔も、この髪も、私に双子の姉妹がいたことも何もかもが恨めしい。
きっとこれが私の罪なのだ。
自分で自分が嫌になるこの負の感情こそが私の罪なのだ。
なら、せめて自分でこの物語の幕を閉じようと思う。
・・・・・でも、・・・・でも、日が暮れるまでは私は私に時間をあげたい。それがせめてもの、私が私自身に与えられる慈悲だから。
それぐらいは贅沢をさせてあげたい。もう少しだけこの悪夢を見ていたい。
日が沈んでいく。
その時を私の物語の本当の終わりにしよう。・・・・・・・私はまた大きな罪を犯すのだ。
思考が自然に過去へと巡っていく。
それは自分を保つための本能だった。
腕の中にある温もりが過ちでないと信じるための、自分が生きてきた道が確かにあって、たとえ束の間であっても輝いていたことを知るための・・・・・・・
私のあの人への恋は、偽りから始まった・・・・・・