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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

俺を推してる転生従者が、死亡フラグとやらを全力回避させてくる

作者: 内海めばる
掲載日:2026/09/27

 俺はエミール。子爵家の次男坊だ。

 俺が5歳のとき、兄が突然死んでしまった。結果、俺は次期当主となった。まさか、庭に毒蛇が出るなんて。兄はついてなかった。


 蛇に殺されるのは、この国では極めて不吉なこととされている。故に、蛇に噛まれた事は伏せられ、兄は肺炎で死んだことになった。


 15歳の春。父が俺のために連れてきた新しい従者。名前はジャックという。婆やの孫で、俺と同い年らしい。

 初対面。ジャックは開口一番こういった。


「エミール様。あなたはこのままだと、18歳で死にます! 学園の卒業式で!」

「え!?」


「大丈夫です。推しであるあなたを死なせはしません! 悪役令嬢の復讐イベントに巻き込まれて、悪役キャラとして拷問死する未来なんて!」

「拷問死!?」


「私がいればもう安心! 全てのフラグをへし折ってみせますよ! 爪を剥がされたり、顔を焼かれたりするなんて……エミール様はそんな風に死ぬ人じゃない! こんなキレイなお顔が焼けるなんて、私が許さない!」

「ひぇ」


 もう弱々しい悲鳴しか出なかった。この従者が本当に正気ならば、俺はとんでもない死に方をするらしい。


「私は転生者なんです。乙女ゲーム『愛のカナリア2〜月影の夢〜』の世界で何が起こるか知り尽くしているのです。その記憶を持って、この世界に生まれてきたのです!」


 狂っているとしか思えない発言だったが、ジャックの目は至って真剣そのものだ。正直に言おう。勢いに圧された。


「し、信じるよ……」

「ええ! おまかせを!」


 そうして、15の夏。俺は貴族のための学園に入学した。ジャックを連れて。



 ジャックは「フラグ」というものを折りたがった。だが、旗を折っているところは見たことがない。

 俺にはよく分からないが、「フラグ」というものは重要らしい。


「良いですか、エミール様。あの女には決して! 決して近づいてはいけません!」

 ジャックが指差したのは、魔法の才を認められて学園にやってきた平民の少女。

「それって、なんだか差別みたいじゃないか」

「エミール様……なんとお美しい心……。やはりあなたは本当はお優しい方だったのですね。ですが、アレに近づくと! 死にます!」

「お前がそう言うなら……」


 ある時は、伯爵令嬢に恩を売るよう言ってきた。第一王子の婚約者の伯爵令嬢のことだ。

 ジャックは俺にサンドイッチを渡し、伯爵令嬢と食べるように言った。

「ほら! 今日は伯爵令嬢のイベントが起こる日なんです! 彼女はお昼ご飯がないんです。このサンドイッチとお茶を持って。今すぐ! 行って!」

 なぜ俺は従者に命令されているんだろう。必死過ぎて逆に怖い……ので、おとなしく従った。

 楽しい昼食の後、ジャックがこっそり耳打ちしてきた。

「卒業後、伯爵令嬢が権力を持ちますからね。断罪イベント後に結局王子とよりを戻すんです。紆余曲折の末に」

「断罪? 彼女がなにを?」

「何もしてないんですけど、例の平民女が権力欲しさに彼女を貶めるのです」


 また、ある時は、王子に付き従う騎士見習いの男の稽古に付き合うように言われた。

「あの男は伯爵令嬢とは親戚、更に王子のことを非常に慕っています。最終的に近衛隊長になり、あなたを……」

「あいつが拷問したのか? お前の知る世界では?」

 とてもそうは見えない。どう見たって、剣の修行に励む好青年だ。

「まあそれはともかく。彼は死んだ双子の兄と、自分を比べ続けて苦しんでいるのです。」

「そうなんだ……?」

「エミール様。稽古に付き合ってあげて、友情を育んでください。そして、ここぞ! というタイミングでこういうのです」

 ジャックは俺に小さな紙を手渡した。

「ええっと……お前はお前だ。俺はお前の兄上の事は知らないよ。それに、知っていたとしても俺達が友達なのは確かじゃないか……。何だこれ?」

「魔法の言葉です」

「魔法の言葉……」

 そうして友情を育み、魔法の言葉を言った。俺と騎士は唯一無二の友となった。

 彼の兄の話を聞いていると、自分の兄のことが思い出された。俺の兄は意地の悪い男だった。3つ年下の俺をいじめては泣かせていた。もし兄が生きていたら、俺の人生はまるきり違っただろう。


 そうして3年が過ぎた。卒業式。

 何事もなかった。いや、まあ俺には関係ない揉め事はあった。

 なんでも、俺の知らないところで、伯爵令嬢と王子は婚約解消していたらしい。だが、それは全て例の平民の少女が仕組んだ事だったという。

 伯爵令嬢に嫌がらせをし、王子を洗脳した罪に問われていた。……卒業式で揉めるな。

 ともかく、俺は無事に卒業した。


 部屋に戻ると、ジャックが感極まって泣いていた。

「ああ、良かった。卒業式が終わった! 推しが生きてる! 生まれた時から、この結末のために身を粉にして……! 涙が止まりません……!」

「はは、泣くなよ。お前の知る世界では、俺はどうなっていたんだ?」

 俺の質問に、ジャックは懐かしそうに目を細めた。


「エミール様は、あの泥棒猫と結託して伯爵令嬢に嫌がらせを繰り返し……」

「ん?」


「遂には伯爵令嬢の部屋に火を放って殺そうとして……」

「おっと?」


「更に、王子を洗脳しようとするんです。その罪を問われ、拷問死してしまわれるのです……」

「それは……かなり俺が悪いんじゃないかな!?」


「はっはっは! もう無くなった世界の話です!」

 ジャックは高らかに笑った。


「信じられない……俺がなんでそんなことを……?」

「ああ。エミール様は、お兄様に虐められて性格が歪むんですよ」

 ジャックの言葉に首を傾げる。妙だ。


「兄は俺が5歳のときに死んだぞ。お前もあの時、屋敷に居たじゃないか。ほんの数カ月くらいだったが、婆やのところに預けられていたよな。兄の葬式にだって出てただろう」

 ジャックは頷いた。

「そうでしたね。庭で蛇に……」

 俺は目を見開いた。ジャックは「あっ」と声を上げ、気まずそうに目をそらした。


「なぜ兄の死因をお前が知ってるんだ……? それは秘密だったはず……」

「……そ、それは」


 察した。すべてを。

 ふと、俺は兄の顔を思い出した。そして、ジャックに感謝した。してしまった。


「……ああ、いや。もういい。俺はこれ以上お前を追及しない」

「エミール様……」

 ジャックは安心した様子で、ホッとため息をついた。


「そもそも、なぜ俺を好きになったんだ? お前の知ってる俺は、とことん嫌な奴なんだろ?」

 俺の問に、ジャックは真っ直ぐこちらを見据え、極めて真剣に一言。


「ビジュですね」

「……びじゅ……?」


 びじゅ、が何を指す言葉なのか、俺には分からなかった。

 だが、その「びじゅ」とやらのおかげで命拾いしたことだけは、よくよく理解したのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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