6
やがて議論を終え、僕達は川端康成の家と鎌倉の海岸を訪れる遠足の予定を立てて、当日に臨むこととなった。僕達は集合場所である東京駅に集まり、班ごとに横須賀線に乗って鎌倉を目指した。
鎌倉駅で電車を降りると、僕達は口頭で伝えられた注意事項を守って班ごとの行動に出た。僕達はまず最初に川端康成の家に行った。だが家は非公開で、ひっそりと本棚の文庫本のように佇んでいた。てっきり記念館的な建物になっていると思っていた僕はがっかりして、他のみんなにどう謝ればいいのか考えた。
「非公開じゃん」
小川が詰まらなそうに漏らすと、僕の側に居た杉山がこう言った。
「まあ、ノーベル文学賞の空気は味わえたからいいじゃん」
特に不満もない様子の杉山の言葉に、僕は救われたような気分を味わった。僕が杉山の方を見ると、彼女は僕の方を見て微笑んで見せた。
それから僕達は鶴岡八幡宮近辺の観光客でごった返す界隈を抜けて、杉山が希望していた江の島に架かる橋の近くにある海岸にたどり着いた。海開きはまだまだ先だったが、良好な波を求めに来たサーファー達が数人、深い灰色の海に出ていた。
「サーフィンの本場は外房だと思っていたよ」
加藤が漏らした。彼女は父親の転勤に合わせて千葉のいすみから引っ越してきて、東京の高校に進学したのだった。
「季節とか交通費の関係もあるんじゃない?」
杉山はそう答えた。そして彼女は白く泡立つ波打ち際まで近づいて、深い灰色の海を見た後、白磁の様な空に視線を移した。その風景を移す瞳はまるで、森羅万象を移す水晶玉の様に清らかで、すべての物を丸く包み込むような柔らかさがあった。その姿は少女の持つ清らかさと、彼女の中に育っている女の深い優しさが入り混じっているような気がした。
とても美しい。と言うのが僕の印象だった。僕が昔の画家――時代で言うなら印象派が隆盛を極めた時期の西洋画家の誰か――ならば、格好のモチーフにしていただろう。晴天でも悪天候でもない浜辺と彼女の組み合わせは、それだけで僕は価値のある物だった。
それから程なくして僕達は鎌倉と江の島の観光を終えて、帰路に着いた。その日以来、僕達四人は学校や放課後と言った時間や場所を問わず、会って話すような間柄になった。僕達は高校生時代と言う名の、区切られたより良い日々を送っている、そんな実感がした。




