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 僕はその短い一文を返信した。結局、僕は何もせず新宿から家に帰った。

 日曜日が過ぎて新しい一週間の始まりである月曜日になった。僕は何時ものように家を出て学校に登校したが、杉山の姿は無かった。担任の教師が来て出席を取ったが、杉山の返事は無かった。

 それから次の日も、そのまた次の日も杉山は学校に来なかった。僕は様子を伺うメールを送ったが、返信は無かった。そうして一週間が終わろうとする金曜日の昼休みに、僕はクラス委員の女子生徒、白岡と菊池が何か噂をしあっている事に気付いた。どうせ下らなくて意地汚い話題だろうと思って、僕は会話を無視する為に持ってきた川端康成の小説を読もうと文庫本を取り出した。だが耳に入ってきた二人の会話に「杉山」と言う言葉が入ったのを僕は聞き逃さなかった。

「知ってる?杉山美佳の事」

 白岡がそう話した。彼女には菊池との二人だけの会話でしかないのだろうが、文庫本を近くで読んでいた僕にはその言葉が耳に入った。

「最近学校に来ていないけれど、何かあったの?」

 菊池が訊き返す。

「なんか、あの子三又くらいかけていたらしいよ。このクラスの男子含めて、中学の同級生と他の男と付き合っていたんだって、そしたらそれが別の男にばれて、先週家に怒鳴り込まれたんだって」

 白岡はそこで言葉を区切った。僕の頭の中に、読んでいた小説の内容がフィルム焼けを起こすように消えて、代わりに玄関先に呼び出された杉山が男に罵声を浴びせられている光景が蜃気楼みたいに浮かんでくる。

「それで?」

「それならまだしも、家に上がり込まれて警察沙汰だったらしいよ。おまけにお母さんがそれで怪我したらしいの」

 白岡はそう続けた。彼女には杉山の紡いだ不幸の物語が三文芝居か何かに思えるのだろうか。

「それで、三又がバレた理由は何なの?」

 菊池がさらに尋ねる。

「別の男と一緒に写って何かしている写真が相手に見つかったらしいよ。間違えてメールを送信したとかじゃない」

 僕は戦慄した。心臓が高鳴り自分が悪い注目を受けている感覚を味わう。杉山と一緒に写っているのは去年の池袋での僕だろうか、それとも僕の知らない他の男だろうか。

「とにかく、悪い噂が立ったらもうこの学校には居られないんじゃない。ビッチとかヤリマンとか言わるの、共学じゃ無理でしょ」

 白岡がそう言うと、四限目の数学の教員が教室に入ってきて、二人の噂話はそこで終わった。僕は放心状態で文庫本を閉じ、机の中に仕舞って数学のノートと教科書を取り出した。

 その日、僕は胸に空いた喪失感を味わいながら学校を終えて、意思を喪失したまま家路についた。別に僕が遊び相手の男だったから辛かったのではない。それまで見て来た杉山の美しい姿形と存在が、すべて全否定されて醜い姿に歪められたのがショックだったのだ。

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